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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
巫女は聖なる炎にくべらるる
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はりつけの巫女

「富を独占する領主に火の制裁を!」

「「「制裁をー!」」」

「領主と手をむすぶ汚れた巫女に火の制裁を!」

「「「制裁をー!」」」


 赤い衣をまとった男が声高に叫ぶと、まるで火に薪をくべたように民衆が、わーっと同じ言葉をくりかえした。耳がびりびりする。足元がぶらぶらして落ち着かない。縛られている箇所がすり切れて痛い。

 民衆の怒った顔をみるのが怖い。


「こっちを見ろ、巫女! どこを見てるんだ!」


 空ですよー、と私は思った。空は好きだ。今日は、どこまでも能天気な青色が広がっている。今日が晴れでよかった。……いや、雨だったら火にあぶられることも無かったのかな。延期にしてくれた?

 まさかね。


「天をあおいでも、カミサマは助けてはくれないぞ」


 視線をおろすと、赤い衣の男が笑っていた。


「お名前は?」私はたずねた。

「は?」

「自分を殺す相手の名前くらい、知りたいじゃないですか」

「サルトゥ」男は無表情で名乗った。「シーザー教導師のサルトゥだ」

「サルトゥさん、縄をほどいてくださらない? 手足が痛いのですが」

「気にしないことだ。直にもっと痛くなる」

「痛いのは好きではないのですが」

「私も嫌いだ。お前たちの信奉する神の次くらいにな」

「ところで」


 キャリオは不気味に静まり返っている群衆をちらりと見た。サルトゥが叫ばなくなった途端に、やけに生気がなくなった。


「彼らに何かしたんですか?」

「ん? ああ、なに、大したことではない。ちょっと魔術で洗脳をかけているだけだ」

「洗脳ですって?」

「驚くほどのことか? お前たちがやってきた攻撃的な教区拡大と徹底的な迫害に比べればはるかに文化的だろう」

「我々の過去については、あえて否定しませんが、それで正当化されるような行いでもないでしょう」

「小娘とおもったが、存外食わせ物だな」


 サルトゥはくっくっとのどを鳴らして笑った。


「食わせ物な巫女は怖いし、話もした。群衆もいい具合に温まっている。頃合いだな」

「……」


 サルトゥがにやりと口元をゆがめる。身体から血の気が引くのを感じた。


「さあ巫女様、火あぶりの時間だ!」


 群衆の一人がおぼつかない足取りで近づいてきて、私の足元の焚き木に火をつけた。煙たい空気がのぼってきて、むせてしまう。


「ははははは! よくやった、素晴らしい! これで悪は滅せられる! ははははは!」


 サルトゥの高笑いが響いて、静かだった群衆が、再び熱をもち始めた。怒りと喜びの叫びをほとばしらせる。





 ああ、もう私はここで死ぬのか。

 結局最後には、独りぼっちになるのか。

 エルと会う前に戻ったようだ。

 小さい頃から、すぐそばで誰かの声がしているような気がしていた。そう言ったら、気味悪がられて、いつも独りぼっちだった。

 ある日、エルと会って、私は天使たちの声を聞くことができる【預言巫女オラクル】だって、教えてくれた。私をずっと探していたって。

 それ以来ずっと、エルと一緒だった。ずっと。はじめての友達だった。

 でも今、エルはいない。どうなったのだろう。逃げてくれただろうか。ちゃんと生きているだろうか。天使だから、死ぬことはないって言っていたけど、本当かな。嘘をついていたのかも。あの子、心配性だから。


 あの子がここにいなくてよかった。あの子まで焼かれなくて本当によかった……。


 熱い。まだ炎は遠いようだけど、靴は履いていないから、素足を熱気が焼いてくる。どれだけ我慢しようとしても、あまりの熱さで縛られた足は勝手に動くし、縄は痛いし、火はもっと痛かった。気づけば涙が頬を伝っていた。空を見上げても、それは変わらなかった。


 死ぬのか。

 ここで焼かれて、のたうち回ることもできず、絶叫しながら、見ず知らずの人たちに罵られ、笑われながら。


 独りぼっちで……。


 その瞬間、世界が急転した。

 空が下へ、炎が上へ。回転してまだら模様になる。

 私を縛っていた十字架が焼けて、折れたのだろうか。空を見ていたからわからなかった。ああ、これで私はおしまいなのか……。





「……?」


 しかし、いつまで経っても、炎の熱に身体を焼かれることはなかった。落ちた瞬間、意識を失ったのだろうか。これは夢を見ているのか?


 ゆっくりと目を開く。


 口元を黒い仮面マスクで覆った男の顔が、目の前にあった。

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