チーム対抗!地獄の障害(魔)物リレー!
「こんな村、スルーして通り抜けてしまいましょうよ」
「えー、いいじゃん、お祭り。面白そう!」
「やだよ、お祭りなんか……。騒がしいだけだよ、絶対……」
「いやー……、言いにくいんだが、祭りには参加する……」
「やったー!」
「む。どうして」
「あー、その……、宿に荷物をあずけていたんだが、それを返さないと脅されててな……」
「え」「え」
「荷物には極秘な資料とかもあるし、出ないわけには……」
「ちょっと待ってください。荷物って、それ、私たちの服もですか?」
「え、そうだけど……」
「えーやだ! 獄火死霊はどーでもいいけど、着替えは返してほしい!」
「そうですね、極秘資料はどうでもいいですが、着替えはよくないです」
「お前たち……」
イニチェは額に手をあててため息をついた。ユンとフロイの二人が文字を学び始めたころから育ててきたのは他ならないイニチェだ。ここにきて彼は自らの教育が全くトンチンカンな方向へ実を結んでいることに気づいた。いや、前々から薄々わかってはいたのだが。
まあ、極秘資料を旅に持ち歩いたり、宿に預けている時点で彼も大差ないと言えるだろうが。
「ま。そういうわけだから。村人たちも俺たちの正体に気づいて荷物を隠したわけじゃないし。大人しく祭りに参加して、荷物を返してもらおう」
「奪い返せばいいんじゃないですか?」フロイが過激なことを言う。
「それは、ほら、なんか、アレだろ」イニチェは首をふった。「穏便に済むならそれが一番だ」
三人は家の隙間の人気のないスペースでひそひそと話をしていたのだが、そのとき、家の隙間から村人が走るのが見えた。
「おーい! 客人だ! また旅人が来るぞ! 歓迎の準備だ!」
「歓迎だ!」「準備だ!」「もてなせー!」
「私たちもこんな風に言われてたのかなあ」ユンは嬉しそうに言った。
「……どうしてこの村の連中はここまで客人を、目の色かえてもてなすんだ?」
「食人族の村だったりして」
「ショクジン……何?」とユン。
「怖いこと言うなよ。俺たちも行こう」イニチェは立ち上がった。「せっかくだし、旅人とやらを見に行こう。このアウェー感を共有できるかもしれん」
「一理ある」とフロイ。
「異議なし!」とユン。
しかし、村の入り口まで行って、三人はよりアウェー感を強めることになった。
新たな旅人が、レオンハルトたちだったからだ。
***
「やばいやばいやばいやばい……」
「おい、ユン、それやめてくれ。お前がそういうこと言ってると、マジでやばいなって気になるから」
「やばいやばいやばいやばい……」
「フロイ、お前まで真似しないでくれ。頼むから」
イニチェたちはさっきの物陰にもどって作戦会議をしていた。この村にレオンハルトたちが来るという非常事態が発生したからだ。
イニチェはこの状況がかなり「やばい」ということを理解していた。まず、レオンハルトたちにバレたら戦闘は避けられない。今は【転移】の魔術を実行できるような準備はしていない。前回逃げたときは馬車に【転移】の魔法陣が描いてあり、近くの適当な岩陰につないでいたのだが、あいにく馬車は前回の逃走時に壊れてしまった。魔法陣がなければイニチェに【転移】魔術は使えない。イニチェ自身に魔法陣をかくだけの知識はなかった。
つまり、いざという時にバレれば戦うか、走って逃げるかしかない。聖教会公認の勇者を相手に戦うのは愚策もいいところだ。おまけに向こうには、天才魔術師も、【預言巫女】もいる。残りのメンバーだって、手練れの部類だ。勝ち目はない。前回は頼まれたから知恵をしぼって罠をしかけただけだ。正面きっての戦闘なんて考えたくもない。
残る策は「バレない」あるいは「バレる前に逃げる」かのどちらか。こうなったら穏便にすませたいなどとは言っていられない。多少強引でも、レオンハルトたちにバレなければ、問題ない。村人たちから荷物をこっそり奪い返そう。後でバレてもそれは仕方ない―――。
「あの、こんなところで、何をされているんですか?」
イニチェたちはびっくりして、座ったまま飛び上がった。三人とも素早く黒眼鏡を装着する。いざという時の変装用に買っておいたものだ。
「体調でも、悪いのですか?」
イニチェたちは恐る恐る声の主を振りかえった。声の主はあろうことか、イニチェたちの標的であるキャリオだった。
「だ、大丈夫です。お構いなく。ええと、ちょっと涼んでいただけですので」
「そんなに涼しくないでしょう、ここ……」
「暗い方が落ち着くのです!」
イニチェは叫び、フロイは力強くうなずいた。キャリオはその大声にちょっと引いた。
「そ、そうですか、それは失礼しました。でももし、体調が悪くなったらおっしゃってください。私たちは治癒の魔術も使えますから」
「ど、どうも。心強いです」
「それでは」
イニチェは冷や汗をぬぐった。
どうやら切り抜けたようだ。巫女に見つかった時はどうなることかと思った。こんなちゃちな黒眼鏡ではバレてしまうかとヒヤヒヤしたが、そもそも巫女は目隠しをしているから黒眼鏡など必要なかったのか。
いや、とにかく何事も無くてよかった……。
「キャル、こんなところでどうかしたのですか?」
キャリオの背後から声をかけてきたのはベルだった。イニチェたちは今度こそバレたと思った。ベルには顔を見られている。黒眼鏡をしているだけだ。服装も髪形も同じだし、これでバレないわけがない……!
しかし、ベルはイニチェたちを一瞥し、軽く会釈をしただけで、何も言わずに視線をキャリオに戻した。
「急にいなくなって、心配しましたよ。つい先日も誘拐犯が出たばかりじゃないですか。もっと気をつけてください」
「あ、ごめん……」キャリオはぺこんと頭を下げた。
「いいですよ、行きましょう。……では」
ベルは再び会釈をすると、キャリオと共に帰っていった。イニチェたちは信じられないといった様子でお互いの顔を見合わせていた。
***
僕、クリム・ホワイトは執事だ。
シャルロット様の近くでその生活をサポートすることが僕の仕事なのに。
どうして僕はいま、リレーの第一走者になっているのだろうか……?
「今年のフェスティバ建村祭の目玉は、なんと!チーム対抗、地獄の障害(魔)物リレーだ!」
ん?
なんだか、聞き覚えのあるような無いような種目だった。
幻聴だろうか。障害物リレーだよね?
挟まっちゃいけない文字が間にあったような気がするけど……。
村長が高台にのぼって叫んでいる。村人たちは狂喜している。聞き間違いか、と僕はほっとした。聞き間違いでなければ、こんなに喜ぶはずがない。パン食い競争くらいのテンションである。聞き間違いだな。
「ルールは簡単! 村の外周に、今朝ダンジョンからとってきた新鮮な魔物を配置した! 参加者はどうにかして進め! 当然、一番最初に帰って来たチームが優勝だ!」
聞き間違いじゃなかった。嘘だろ。正気なのか、この村の連中は。この村の近所にあるダンジョンって、たしかレベル1だったはずだけど、下手したら死人が出るのでは?
「栄えある参加者はこいつらだ!」
村長はノリノリで参加者を紹介していく。
チームは一つあたり三人で、性別と年齢は不問。
フェスティバ村からは、村に在中している【狩人】の三人組。全員がハンター暦十年以上のベテランだ。
そして、旅人チームとして僕も出ることになった。レオンハルト様とベル嬢も一緒だ。レオンハルト様は真っ先に手を上げていたし、ベル嬢もちょっと乗り気だったが、僕は希望したわけではない。厳正なくじ引きの結果、こうなったのだ。選ばれて、まったくもって不本意だ。
そして、旅人チームは一つではなかった。不幸にも村にいた旅人は僕たちだけではなかったのだ。
「残る旅人チームは、チェイン、ユニ、フロルの三人だ!」
そう呼ばれて、黒眼鏡をかけた三人組はノリノリで腕を突き上げていた。
どうやら、参加者の中で不幸なのは僕だけらしい。




