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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
巫女は聖なる炎にくべらるる
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この村を通りたければ!

「逃げられましたね」


 イニチェなる男が逃走に使用した【転移テレポート】の通路はすでに揮発していた。追いかけることはできないと、僕はシャルロット様たちに言った。


「しょうがないわね」シャルロット様は腕を組んだ。「どこの誰の差し金なのか、こってり絞り上げるつもりだったのに。ベルは何も聞いていないのよね?」

「はい、申し訳ありません」

「謝らないで。私こそごめんなさい。まさかあなたに当たりそうになっていたなんて……」


 そう言ってシャルロット様はじろっとキャリオ様をにらんだ。いや、正確には、にらんでいるのはキャリオ様の肩に止まっている小鳥エルだ。


「な、なんですか!?」


 キャリオ様は視線に気づいて小鳥をかばうように抱きかかえた。


「うちのエルが何をしたって言うんですか!?」

「そいつが、ベルが今にも殺されそうだって言うから、その鳥を信じて撃ったんじゃない。そしたら、ベルにも当たりそうだったなんて……」

「そ、それは、そうだけど……」

「預言ってやつも、意外と当てにならないわよね」


 シャルロット様はトゲのある口調で言った。かなり怒っているようだ。ベル嬢が死ぬかもしれなかったのだから、当然か。

 そう。天使の指示で魔術を撃ったら、助けたと思ったベル嬢の口から「死ぬところでした」と言われたのだ。シャルロット様は目玉が飛び出るほど、驚いていた。驚いて、泣き、ベル嬢が無事なことに安堵し、そして……、天使に疑いの目をむけた。

 キャリオ様は唇をぎゅっと食いしばり、目もきつく閉じている。自分たちに非があるとわかっているのだ。自分が責められるのはいい。ただ、自分の天使だけは守りたい、ということだろう。

 たとえ、間違っていたとしても。


「で、でも、撃ったのは……」


 自分でも、これ以上言ってはいけないとわかったのだろう。キャリオ様はそこまで言って口をつぐんだ。

 だが、シャルロット様はキャリオ様に詰めよって言った。


「撃ったのは? その後は、なによ?」


 シャルロット様はまるで口から火でも吐いているようだった。キャリオ様は叫んだ。


「う、撃ったのは、シャルじゃない!」


 シャルロット様は手を振り上げた。キャリオ様の頬を張るつもりだったのだろう。しかし、その手は別の人物によって止められた。レオンハルト様だった。


「そこまでだ、二人とも」

「なんでよ。止めないでよ、レオ」

「キャルを守るのが、俺の役目だ」

「間違ってるキャルに、アンタは間違ってるって、教えてやるのよ! それを止めようって言うわけ!?」

「間違ってるなんて、キャルもわかってる!」

「わかってても、意地張るんだったら、意味ないわよ!」


 レオンハルト様はそれでも手を離さなかった。シャルロット様は手を振りほどくと、キャリオ様とレオンハルト様をきつくにらんだ。


 そして、その話はそのまま終わった。



 ***



 このチームのリーダーは明確には決まっていない。決まってはいないが、レオンハルト様、キャリオ様、シャルロット様の三人のうちの誰か、あるいは全員がリーダーという認識が僕らの中にはあった。暗黙の了解、というやつだ。

 しかし、今、その三人の間に亀裂が入っている状態だ。


 そういうわけで、僕たちは火都へ向かう道行き、気まずい沈黙の中を進むことになった。

 この雰囲気には覚えがある。いつだったか、スクエラと喧嘩したときがこんな感じだった気がする。あれはそう、シャルロット様にお目にかかる直前のことだった。懐かしい。あのときも大変だった……。


「キャルも強情よね」スクエラがひそひそとささやいた。「早く謝っちゃえばいいのに」


 僕は「君がそれを言うの?」と言いたい口を必死で閉じ、別の言葉を返した。


「そうだね」うなずいてから、続ける。「でもたぶん、キャルは天使が大事なんだよ」

「天使って、あの小鳥よね。本当に天使なの? キャルがそう言っているだけじゃなくて?」


 僕はヒヤヒヤしてきた。この会話、天使に聞かれていないだろうな? 聞かれていたら、後で大変な目にあうぞ……。

 スクエラが。


 それはともかくとして……。返事はちょっと考えないといけないな。

 僕はあの小鳥が本物の天使だと「知っている」が、その「確信」まで彼女に伝えるのは考えものだ。天使に目をつけられているなんて、みんなには知られたくない。僕が言わなければ、プライドの高い天使のことだ。出し抜かれたことを知られないためにわざわざ言いふらすまい。まだキャリオ様すら知らないのがいい証拠だ。まさか彼女が演技派ということはあるまい。


「あの小鳥が天使かはともかく、キャルが【預言オラクル】を受けたというのは本当だよ。三つの災厄の到来を言い当てたそうだからね」

「三つの災厄? なにそれ」

「ええと」僕は指を折って数えた。「錆鱗竜ラスティモトルド』の誕生、深紅の迷宮の暴走、邪教徒による聖都襲撃。この三つだね」

「それ知ってる。どれも大事件じゃない」

「そう、大事件なんだ」

「それを防いだの? でも、事件になっているってことは……」

「そうだね。防げたらよかったんだけどね。まあ、この事件のおかげで、キャルは【預言巫女】だと認められたんだ。正式に」

「ふーん。キャルが黒幕ってことはないの?」

「疑うねえ……。キャルに恨みでもあるの?」

「クリムなら答えを知ってるんじゃないかと思って」


 僕は苦笑した。ずいぶん高く評価されたものだ。まあ、あまりキャリオ様を疑われているのも今後に支障をきたすかもしれないから、少しフォローしておこう。


「僕の考えだと、キャルはただのいい子だね」

「いい子?」スクエラの声にはややトゲがあった。

「えっ。ええと、うん、まあ、いい人……」僕は言い直した。

「いい人ね」

「でも、天使はちょっとわからないな。話をしたことがないから……」


 実際には話はしたのだが、短すぎたし、彼らの目的もよくわからないままだ。だから、彼らが本当に人間の味方なのかはよくわからない。

 キャルの味方ではあると思うのだが、理由まではわからない。


「ふーん。ややこしいね」


 そのとき、先頭を歩いていたレオンハルト様が振りかえった。


「着いたぞ」


 顔をあげると、何百メートルか先に村が見えた。あれが僕たちが目指す村だ。まだ着いてないじゃないか。

 両側を険しい山に囲まれた位置にある村だった。柵が立っていて、まるでこの道を通る旅人を通せんぼでもしているかのようだ。


「通行料とか、取るのかしら」シャルロット様がぼそっと言った。「あまり高くないといいのだけれど」

「持ち合わせはあまりないですからね」とベル嬢。

「この村が通行料をとるという話は聞いたことがないな」レオンハルト様がやや冷たく言う。

「なら安心して通れるわけね」シャルロット様はそれ以上に冷ややかに言った。


 キャリオ様は始終、申し訳なさそうにうつむいて黙っていた。



 ***



「旅人か!」


 僕たちが村に近づくと、村の門の周りにわらわらと人が集まり、村長が腕組みして立ちふさがった。太い腕だ。


「ようこそ、歓迎する! この村には、何をしに来た! いや、いい、わかっている! ぜひ楽しんでいってくれ!」

「え、いや、まあ、その、」勢いに負けたのかレオンハルト様は珍しく口ごもった。「この村を通り抜けたいんだ。通ってもいいだろうか」


 レオンハルト様の質問をきいて、村長はあからさまに顔をしかめた。まるで渓谷のように険しい起伏があらわれる。

 村人たちもなにやら困惑した様子でそわそわしている。


「通る? 通るだけか?」

「そのつもりだが」

「ウチの村は祭りをやってるんだ」


 村長は親指で村を指さした。どうりで、村人総出で出迎えにくるわけだ。仕事中ではなかったのか。


「ぜひ、楽しんでいってくれ」

「……」


 レオンハルト様は空を見上げた。

 まだ日は高い。このまま進めば、次の街まで行けるだろう……、とか考えているのだろう。別に急いでいる訳ではないが、キャリオ様をさらおうとした誘拐犯のこともある。ちゃんとした宿のある街まで進みたいのではないだろうか。

 あと、なんだか村長の勢いが怖い。


「いや、悪いが、我々は……」

「ダメだ、ダメだ!」


 村長は、レオンハルト様が最後まで言い切る前に、叫んだ。


「この村は俺の村だ! この村のことは俺が決める! 旅人だろうが、なんだろうが、俺の村に来たからには全力で楽しんでもらう!

 この村を通りたければ……、祭りに参加してもらう!」

「はあ……?」


 こうして僕たちはこのフェスティバ村のお祭りに参加することになった。

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