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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
巫女は聖なる炎にくべらるる
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イニチェ

 馬車の揺れで目を覚ました。しかし、目を開けても暗いままだ。よく見えない。まだ夢を見ているのかと思ったが、すぐに思い出した。私は今、キャリオ様の目隠しをしているのだと。

 私はキャリオ様の身代わりとして捕まったのだ。


「……ユン、……ユン」


 少女の声が聞こえる。たしか、フロイと呼ばれていたはずだ。


「なに? 起きたの?」別の少女の声がした。こちらはユンと呼ばれていたはず。

「たぶん」

「じゃあ、あいさつしなきゃね……。おはよう! 巫女様! ご機嫌いかが? 馬車の乗り心地はどう?」

「……」


 私は黙っていた。もしも手が動けば首を絞めてやろうと思ったが、あいにく縛られている。動かすことはできない。


「愛想がないわね。さっきはおしゃべりしてくれたじゃない」

「……」

「寝てるのかな? フロイの見間違い?」

たぬきなんでしょ」とフロイ。

「狸なのかあ」とユン。


 私はあくまでも口を閉ざした。口を開けばバレるかもしれない、と思ったからだ。

 この事件は仕組まれたものだと思います、とクリムは言っていた。


「この旅の目的はそもそもキャルの護衛です。つまり、キャルは狙われる立場にあるということ。そこに、この事件です。これはあまりにキャルを狙うものにとって都合がいい」


 そう言って、クリムは灼熱化した迷宮に入らせることで、パーティを上手く分断させられると力説した。私には理屈はよくわからなかったが、もしもあの事件を起こした誰かがいたのだとしたら、その狙いはキャリオ様だろう、という点については同意だった。


 だから、私はクリムの提案に乗った。「キャルとベルさんを入れ替えましょう」という彼の策略に。危険なのは百も承知だ。バレたら最悪殺されるかもしれない(もっとも、クリムは「勇者様の報復を恐れて殺されはしないはず」と言っていたが)。しかし、シャルロット様のご友人であるキャリオ様が、あの可愛さの権化のようなキャリオ様が敵に捕まるのは看過できない。なにより、敵の思い通りに事が運ぶことが気に入らなかった。


「……起きたのか?」


 男の声がした。私は反射的に口元に力をいれてしまった。起きていることがバレただろうか。いや、もうとっくにバレているか。


「フロイ、御者を代わってくれ」

「御者!? ユンがやる!」

「この馬車はな、無料タダじゃないんだ、ユン。フロイ、やってくれ」

「んんんんん……」フロイがこてん、と横になったような音がした。「フロイは、本が、読みたいの」

「フーローイー! いい加減にしろ!」

「フ、フロイ、まずいよ……」ユンが慌ててフロイを揺さぶっている。「イニチェ様、怒ってるよ……」

「まだ怒ってない。一歩手前。しかし……、やむをえない」


 フロイはだるそうに立ち上がると、馬車の前の方に歩いて行った。入れ替わりに、「イニチェ様」と呼ばれた男の足音が近づいてきた。


「はじめまして、聖教会の【預言巫女オラクル】キャリオ殿。私はイニチェだ。よろしく」

「……」


 イニチェが握手を求めている気配がしたが、私は無視した。イニチェは苦笑した。


「おや、巫女殿はずいぶんと狭量のようだ。聞いていた話と違うな。あるいは……」


 イニチェは私の目隠しにふれた。じりっと布が焼ける音がして、目隠しは落ちた。目が合った。イニチェが笑う。


「巫女の代わりにどこかの誰かが入れ替わっている、とか。盲目の巫女殿の身代わりなら、目くらい閉じていたらどうだ?」

「そうしたらあなたは私の目を無理矢理こじ開けるでしょう。そんなのはごめんです。あなたの顔は、見ましたよ」

「死にたいのかな、お嬢さん?」


 イニチェは笑っている。まるで子供をあしらうような笑みに、ほんの少しのいたずらっ気が混じったような笑顔だった。

 私も微笑みを返す。


「そのときは私も、あなたか、あなたの娘さんを一人くらいは道連れにしますよ」

「娘!」イニチェは不機嫌そうに大声を出した。「娘だと? そんなに歳が離れているように見えるのか?」

「イニチェ様、老けてるから」


 ユンがぼそっと言うと、イニチェはさっと振りむいて、彼女に拳骨を食らわせた。


「うげっ」

「あら、かわいそうに」私は言った。

「本当にそう思っているのか?」とイニチェ。

「いいえ?」

「だろうな」


 イニチェはため息をついた。


「お前をどうしたものか……」

「私は巫女様ではありません。返してください。ついでに、投降なさい」

「はいわかりました、と言うと思うか? ただで返すわけにはいかん。投降もごめんだな」

「どこへ向かっているのですか?」

「はああ……。そう、正にそこなのだ。そこから、問題なんだ。お前は巫女ではない。捕えていても我々には何のメリットもない、目の見える、ただの身代わりだ……」


 イニチェは心底困った様子でため息をついた。


「私はお前を、どこへ連れて行けばいいんだ?」

「知りませんよ」

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