事件は終わらない
しかし、迷宮の灼熱化を解決しただけで一件落着というわけには、いかなかった。
僕たちが迷宮から外に出たとき、そこに【預言巫女】の姿は無かったのだ。
***
時間は少しさかのぼって、レオンハルトたちが迷宮に入っていくのを、キャリオ達が見送った時点のこと。
「キャリオ……じゃない。キャル……」ベルはたどたどしく言った。「ええと、室内に入りましょう。ここは熱いですから……」
「そうですね」
キャリオは沈んだ様子でうなずき、村長たちの家に戻ることにした。レオンハルトたちが戻るのは二、三十分後ということだった。迷宮前で待てないこともないが、いかんせん熱い。意味もなく体力を消耗することもない、頃合いを見て戻ればいい、と早々に引き上げることにした。
が、ほんの数歩すすんだところで、ベルはふらふらと地面に手をついた。
「大丈夫ですか?」キャリオはすぐに近づいてベルを助け起こした。「どうしたのですか?」
「ちょっと、熱くて……」ベルはもごもごと言った。「それに、シャル……が心配で……」
「大変。すぐに寝かさないと。リズリー、彼女を背負ってください」
「ああ」
リズリーはへたりこんでいるベルを軽々と抱え上げると、肩の上に乗せた。ベルは怯えたようにリズリーの肩や顔にしがみついた。リズリーは表情一つ変えない。
「大丈夫か?」
「あ、あの、ちょっと、高いです……」
「……」
リズリーは無言で中腰になった。ベルは少しだけ肩の力を抜いた。
「ありがとうございます」
「気にするな」
「あの~、そこの観光客さん!」
「え?」
キャリオ達に、陽気に声をかけてきた女性がいた。二人連れで、片方はにこやかに、もう片方は目を合わせないように横を見ながら、近づいてきた。表情こそ違うが、二人の顔の造りはよく似ている。双子かもしれない。
にこやかな女性が手を上げて言った。
「やあ。預言の巫女っていうのは、どっちかな?」
ベルとリズリーは目を丸くし、身を固くした。キャリオは目隠しをしているので、目を丸くしたのかはわからなかった。
「ユン、目隠し」横顔の女性がつぶやいた。「目隠しが、巫女」
「ああそっか」ユンと呼ばれた女性は頭をかいた。「言ってたね、フロイ」
「もう……」
フロイと呼ばれた女性は暗い目をキャリオ達にむけながら、どこからともなく杖を取り出した。
「【霜花】」
途端、キャリオ達の足元の地面が凍り付いた。氷の結晶がリズリーの足首まで凍り付かせて、動きを封じた。肩に乗ったベルは「え?」と気の抜けた声を漏らした。
一方で、キャリオは宙に浮いていた。魔術が発動する直前、足が凍り付く前にジャンプしたのだ。
「おお!」ユンは嬉しそうに大きな声を出した。「巫女様も意外とやるじゃん! てっきり後衛タイプかと思ったのに!」
「それはどうも」
キャリオは【霜花】の範囲外に着地し、微笑んだ。
「思わずジャンプしてしまいました」
「はあー、すごい反射神経。目も見えないのに」
「恐縮です。さあ、次はあなたの番ですよ」
「え?」
「口ぶりからして、あなたは前衛なのでしょう? 私は後衛ですが、スピードでは負けません。かかってらっしゃい」
「ははは……。刺客を挑発する巫女様か。変なの」ユンは苦笑した。「残念。せっかくだけど、スピード勝負は遠慮したいかな」
「なぜですか?」
「だってえ」
ユンは笑顔のまま、杖を取り出した。
「私も後衛だもの。【宵待】!」
***
「え、さらわれたの? あの子?」
「ええ、まあ……、はい……」
足を氷漬けにされた男の肩に乗る、ベル嬢の眼鏡をかけた少女が答えた。シャルロット様は苦笑した。
「まったく、ドジねえ」
仲間がさらわれて「ドジねえ」で済ませるところが、大物だなと僕は思った。
「じゃあ、助けに行きましょうか。【預言巫女】の身代わりになって捕まった、私の大事な従者を」




