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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
巫女は聖なる炎にくべらるる
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赤い剣

 僕は最初から疑問だった。「熱くて入れない迷宮の調査」なんてイベントがメインストーリーにあったかな、と。

 忘れているだけという可能性もあるにはある。しかし、正直、あるはずがないと思っていた。シャルロット様がいなければ、到底クリアできない条件だったからだ。まあ、もしかしたら抜け道のようなものがあって、シャルロット様抜きでも解決できるのかもしれないとは思った。あるいは、このイベントは難しすぎるからゲームには含めなかったのかも、とか。


 しかし、そんなごちゃごちゃした僕の疑問は、サラマンダーの額に刺さった【魔剣アーティファクト】を見て、一気に吹き飛んだ。あれは―――。


「【赤炎剣(レーヴァテイン)】!?」レオンハルト様が叫んだ。「なぜここにある!?」

「レオ、落ち着いて」シャルロット様が言う。「あれは【贋作レプリカ】よ」


 そうだ。あれは【赤炎剣】の【贋作】に違いない。本物なら、魔物の額に刺したくらいで暴走したりしない。だが、だからといって、疑問は解決していない。

 なぜここにある、という疑問は消えていない。


「……ともかく、あれが元凶か」レオンハルト様は背負っていた剣を抜いた。「あのサラマンダーを殺して、【魔剣】の暴走を止めよう。細かいことはその後だ。いくぞ!」


 レオンハルト様の号令で戦闘を開始した。といっても、レオンハルト様以外はそれほど動いていない。僕はシャルロット様をおろして、タンクに移行し、シャルロット様は魔術の準備、スクエラは弓を構えた。サラマンダーに突撃をかけたのはレオンハルト様だけだ。


 さすが勇者の名前は伊達ではない。レベル1とはいえ、ダンジョンの、それも【魔剣】を使用している迷宮主ボスと互角にりあっていた。【魔術駆動マリオネット】で身体をあやつり、身の丈をこえる大剣を軽々と振り回し、文字通り人並外れた怪力をもつ魔物の攻撃をいなし、かわし、防ぎ、そして反撃している。

 レオンハルト様が振っているのはただの剣ではない。【傲岸不遜オーバーウェイト】という名前の魔剣だ。魔力を消費すると質量が変化する。それほど格のある剣ではないし、扱いも難しいが、使い手によっては極めて強力な武器になる。

 ちなみに、ゲームでは初期武器ではなく、サブイベントの報酬だった気がする。もうすでにその迷宮サブイベはクリアしたということだろう。


 しかし、それでも今一つ、決め手に欠けるようだった。サラマンダーの身体が再生していく、ということもある。

 しかしそれは、レオンハルト様が本来の実力を出せていれば、あってもなくても変わらない程度の微々たる魔術だ。

 問題はそこにない。

 シャルロット様の【アンブレラ】はレオンハルト様にも届いている。シャルロット様は【傘】を二つに分けて動かしているのだ。だが、それがレオンハルト様の動きに追いついていない。レオンハルト様はそれがわかっているから、思うように動けないのだ。

 それは、【赤炎剣】の熱のせいでレオンハルト様があと一歩を踏み出せない、と言い換えることもできる。


 シャルロット様はすでに【傘】を二つ展開している。その制御で手一杯だ。スクエラは……文句のつけようがないほどの働きをしている。先ほどまでの緊張した姿とは打って変わって、完全に集中して矢を引きしぼっている。レオンハルト様に当たらないよう、攻撃を妨害するよう、機動力を削ぐよう、サラマンダーの急所めがけて、矢を射続けている。


 問題は僕だ。また僕が遊んでしまっている。万が一、サラマンダーがシャルロット様たちを攻撃してきた場合にそなえて盾役タンクとしてひかえているが、今のところ出番はない。レオンハルト様の立ち回りが上手いからだ。

 このままではよくない。何か手を打たなくてはならない。戦況的にはこちらが有利だが、こちらには時間制限がある。出直してもいいが、同じことの繰り返しになるだろう。ここで決着をつけるべきだ。


 僕の手札はなんだ。考えろ、考えろ……。

 ああもう、いっそ【沈黙の密猟者(サイレントポーチャー)】になれたらな。そうしたらレオンハルト様と協力して一気に―――。

 ……あれ? 待てよ。

 待ってくれ。





 もしかして、僕は、今、【沈黙の密猟者】に「変身できない」んじゃないか?





 どう手品をこねくり回しても、変身した姿をさらせない。そうじゃないのか?

 今、ここには、スクエラがいる。

 スクエラは、僕の素顔を……、僕の目がどんなだったかを覚えている。僕が【沈黙の仮面(サイレントマスク)】をつけていても、スクエラは見抜くんじゃないか?


 ……気づいたら、一歩後ろは崖だった。そんな気分だ。


 僕は頭を振った。

 いや、今はいい。この問題については後で考えればいい。今は、この局面を乗り切ることを考えよう。


 ……。


 やはり、【赤炎剣(レプリカ)】がネックだろう。あれを外せばレオンハルト様が決着をつけてくれる。問題は、どうやって額に刺さっている剣を抜くかだ……。


 いや、抜く必要はない。火が止まればいい。魔力の供給が止まり、いや、少なくなって、火の勢いが弱まるだけでもいいはずだ。それだけでレオンハルト様は決めてくれる。


 そうか。【魔剣】に供給される魔力の流れが乱れれば、それでいいのか。


「スクエラ」僕はインベントリから、あるアイテムを取り出した。「これを撃てる?」


 スクエラはつがえていた矢を射た後、僕が持っているものをちらりと見た。そして手を出した。


「貸して。撃つから」


 僕は彼女の手にそれを渡した。


「頭でいいのよね?」

「うん。【赤炎剣(レーヴァテイン)】の近くに」

「わかったわ」


 スクエラはキリキリと弦を引きしぼり、息を吐き、『矢』を放った。『矢』は吸い込まれるように、サラマンダーの眉間、【赤炎剣(レーヴァテイン)】のすぐ隣に突き刺さった。


 それはただの矢ではなかった。そもそも矢ではない。

 それは【魔剣】だった。いつか僕がレオンハルト様の【防壁ガード】を斬るときに使った【魔剣】。魔力を消費することで、切れ味を増すという代物。もっともその特性は、今はあまり関係ない。むしろその魔力消費の燃費の悪さにこそ、意味があった。

 それは、【赤炎剣】のために集められた魔力を吸収した。

 結果として、【赤炎剣】の炎が弱くなり、【魔剣】はより深く眉間に突き刺さった。

 サラマンダーは突如、眉間に刺さった【魔剣】に驚いて、ひるんでいる。





 そんな好機を、勇者レオンハルトが見逃すはずは無かった。





 のけぞったサラマンダーの瞳が再び、レオンハルト様を捕えたとき、彼はその首元に立っていた。巨大な【傲岸不遜】を高く掲げている。その様はまるで断頭台のようだった。

 全ては一呼吸の間に、起こり、そして終わった。


 サラマンダーは首から赤い血を流して、地に伏した。そのあぎとはしばらくの間、うらめしそうにがくがくと動いていたが、やがて完全に動きを止めた。

【赤炎剣】の炎もマッチ棒が燃え尽きるように、静かに消えた。ふっと空気から圧力が消えたように感じた。


 こうして、【土火竜のねぐら(サラマンダー・ケイブ)】の灼熱事件は幕を下ろしたのだった。

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