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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
巫女は聖なる炎にくべらるる
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噂には下ごしらえを

 結局、村長の予想通り、領主への使いは手ぶらで戻った。彼らは「領主様の助けはありません」と告げた。しかし、村長たちはそれほど落胆した様子をみせなかった。それもそのはず。ここには勇者も【預言巫女オラクル】も皇女もいるのだ。下手に助けをよこされるよりも余程ありがたかっただろう。


「それほど特別なことをするわけじゃないわ」


 シャルロット様は言った。領主をこらしめるための策を説明するときのことである。


「要は、『放っておいてもいい』という状況にならなければいいの。大変な状況だったのに助けなかった領主、という感じの噂にならなきゃダメなの。だから、私たちもただ単に助けるだけじゃあ、ダメ。

 まずは勇者様ね。『実力はよくわからないけど、なんかすごい気がする』と評判の勇者様のネームバリューを前面に打ち出すわ」

「実力はよくわからない……?」レオンハルト様は心なしかショックを受けているようだった。「え……、そうなのか?」

「でもまだこれだけじゃ、ちょっと弱い」シャルロット様はつづけた。「不肖、私シャルロット・ローズロールも稀代の天才魔術師としての名前を出しましょう。不服ですけど。……実際、私がいないと、あの迷宮には入れないでしょうし」


 僕たちは使いの人たちが帰ってくるまでの間に、問題の迷宮には足を運んでいた。迷宮は死火山の中腹にある洞穴だった。


 村長の言うとおりだった。

 生身ではとてもではないが、入ることはできない。

 それは入口に立っただけでわかった。

 まるで溶鉱炉のすぐ近くに立っているような、熱量だった。熱いとか、快不快とか、そういうレベルではなく、どれくらいの時間ここにいると死ぬのか、というレベルなのだ。


 とても魔術の補助なしでは入れない。

 補助、と言っているがそれは、常に氷結魔術をかけ続けるという状況と変わらない。場所やタイミングによって常に変化するであろう温度に合わせて適度な強さで冷却する必要がある。それを迷宮に入ってから出るまで続ける必要がある。

 圧倒的なまでの集中力と魔力が必要なのだ。

 そんな芸当ができるのは、今この村にいる中ではシャルロット様だけだ。


「私の説明、わかったかしら?」


 シャルロット様はなかば諦めたような表情でそう尋ねた。それもそのはず、誰もピンと来ていないような微妙な表情だったからだ。


「クリム、あなたはどう? わかった?」

「もちろんです、シャル」


 僕は微笑んだ。


「みんながわかるようにまとめましょうか?」

「じゃあ、お願いするわ」

「では……」僕は席払いをして前に出た。「つまり、領主の面目をつぶそう、ということです。

 領主の助けなしでも問題が解決した、ではなく、

 無能な領主の代わりに勇者様たちが問題を解決した、という話になればいい」

「だから、俺たちはすぐにでも迷宮に行って問題を解決すればいいんじゃあ……」とレオンハルト様。

「いえ、まだです。今日一日は準備に費やします」

「準備? なんのために?」

「ただ、噂話になるだけでは、ダメなんです」


 僕は強調した。ここが重要なポイントだからだ。


「いいですか。焦って問題を解決しても、この村にとってよくないことが将来必ず起こります」


 まあ、上手くいったとしても領主の気分次第でよくないことは起こりうるのだが……。それは言っても仕方ないだろう。シャルロット様もわかっているはずだし、そもそも他の方法は選べない。さらに時間がかかるからだ。


「領主の耳に届くくらい、領主に恥をかかせるくらい、領主がこの村ではなく、勇者様一行……つまり僕たちに、憎悪の目をむけるくらいの噂にならなければならないんです。

 それは半端な噂じゃダメです。問題を解決するだけじゃダメなんです。最初からちゃんと計算して、流行するような噂じゃないと。最初から尾ひれがついて、面白い噂じゃないと、ダメなんです」

「う、ううん……。で、ではどうすればいいんだ?」


 僕はちらりとシャルロット様の顔をみた。彼女は無表情でうなずいた。好きにしなさい、とおっしゃるように。


「一芝居うちましょう」僕は言った。「この村には、今日来たことにします」

「はあ?」

「この村には、あのすがりつく演技をもう一度やってもらいましょう。今度こそ、本当に領主様の助けがないと絶望する村人たちの演技を」


 僕は、唖然とするレオンハルト様たちを前にして笑った。


「さあ、勇者様。困っている人を助けるのが性分の勇者様。思う存分、人助けをしてください」

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