できれば女子会にまざりたい
「どうだった?」
宿のベッドに腰掛けて、シャルロット様がにこにこしながら、僕とベル嬢に尋ねた。今、この部屋には僕たちしかいない。
「いいこと言ったと思わない?」
「思いました」とベル嬢。
「そうでしょう?」
「ですが、今のが無ければ、もっとよかったですね」
「なにそれ!」
シャルロット様が頬を膨らませると、部屋の戸をノックする音がした。シャルロット様がうなずくと、ベル嬢が「どうぞ」と言った。
「私、こっちで寝てもいいかしら……?」
おずおずと部屋に入ってきたのはキャリオ様だった。
「あの、でっかい人、おっかなくて……」
「リズリーね。あなた、さっきそのおっかない人をめちゃめちゃ叱ってたわよね?」
「あ、あの時は、怒ってたから! 忘れて! 忘れて!」
キャリオ様は両手をめちゃめちゃに振り回しながら言った。小鳥はその手を避けながらパタパタと飛んでいる。
「あの人、ずっと顔しかめてるし、なにも言わないし、なんかあっちの部屋、変な雰囲気で……」
「え、レオンハルト様がうまくフォローしてくれたりとかは?」
「うーん、どうかしら。フォローはしてるけど、空回ってる感じ。リズリーさんは黙ってるし、スクエラさんは返事はするんだけど明らかに落ち込んでるし……」
「そう、それはいけないわね。クリム?」
「ぼ、僕は謝ったし、フォローもしましたよ!?」
「なに慌ててるの? 違うわ。そうじゃなくて、チェンジしましょう」
「え?」
「チェンジ」
シャルロット様は手をくるっと回して入れ替える仕草をした。
***
「ようこそ、我らが自由なる男子部屋へ! 歓迎するぞ、クリム!」
「……よう」
「ど、どうも……」
僕はレオンハルト様とリズリーの歓迎をうけて部屋に入った。
なぜ僕がこちらの部屋に来ることになったのか? 話は簡単だ。シャルロット様に売られたのである。代わりにスクエラが買われていった。彼女は元気でやっているだろうか。やってるだろうな。僕もあっちがよかった。こっちはなんだか怖い。
「ここ! ここがクリムのベッドだ。真ん中をあげよう」
「え、ああ、はい」
「……シャルロット様と、キャリオ様、怒ってたかな?」
「え?」
荷物を置いて振り返ると、レオンハルト様がすこし心配そうな顔をしていた。まるで先生に叱られた小学生のようだ。リズリーも同じような表情で僕をみていた。僕は吹き出さないよう気をつけて、微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お二人とも、もう怒っていらっしゃいませんでした」
「そ、そうか」
「……悪かった」
リズリーは近づいてきて、僕に頭を下げた。僕は首をふった。
「いいえ。最初にあなたがおっしゃったことは間違っていません。スクエラには笑っていてほしいと思います。ただ、蒸し返すようですが、僕はベルさんが言ったことが間違っていたとも思いません。
僕は、スクエラに嘘をつきたくなかったし、それは今もそうです。だから、とっさに嘘をつけませんでした」
「そうか」
「精進が足りませんでした」
「そうか」
リズリーはぽつぽつと続けた。
「……俺はずっと、盾役として仕事をしてきた。凶暴な魔物を止めるきつい仕事だ。物理的にも、精神的にもな。それだけに、毎日を平穏に、ぬくぬくと生きている貴族連中にたいして、俺は良い感情を持っていない。不公平だと、思ってきたし、おそらくこれからも変わらない。
だが……」
リズリーは表情を一層険しくした。
「子供じみた、ひがみにも似た、克服しなければならない感情なのだと、俺は今日実感できた」
リズリーはスッと手を伸ばした。同じ人間とは思えないほど、大きな腕と手のひらと、傷の数々だった。その手に圧倒されて、握手を求められていると気づくのにしばらくかかった。
「ありがとう。君の主人にも、伝えてくれると、嬉しい」
リズリーは感謝を伝えているとは到底おもえないほど、眉間に深くしわを刻みながら言った。握手は意外と優しく、軽く上下にウェーブして終わった。
握手が終わると、レオンハルト様が僕とリズリーの間に割って入り、肩を組んできた。
「よしよし、ちゃんと仲直りできたな」
「最初からしてましたよ」
「そうだ」
「なあ、クリム、こいつ、いくつに見える?」レオンハルト様がいきなり言った「何歳だと思う?」
「えっ……?」
困った。本当に困った。ちらりと、リズリーを見る。ダメだ。ちっともわからない。三十代か、四十代だろうが……。
「えー……、三十歳、とか……?」
「……」
「わははははは! 三十! 三十だってよ、リズリー! わははは―――、痛っでぇ!」
レオンハルト様は爆笑しはじめたが、すぐにリズリーに拳骨を食らった。どうも僕は間違えたらしい。それは明らかだ。
「え、ええと、おいくつなんですか……?」
「……八だ」
「え、二十八?」
だったら大差ないじゃないか。
レオンハルト様がまた笑い出す。リズリーは深くため息をついた。
「十八だ!」
「じゅう、はち?」
具体的な数字が頭に入ってこなかった。それがわかったのか、レオンハルト様がまた笑う。十八? 十八って言ったのか? 馬鹿な。十八歳なわけがない。それじゃあ、僕と四つしか変わらないってことじゃないか。レオンハルト様はたしか十七だから、一歳差だ。シャルロット様なんて、十九歳だからリズリーよりも年上ということになる。
「馬鹿な、ありえないですよ。こんな十八歳がこの世に存在するわけないでしょう」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味じゃないか?」とレオンハルト様。
「そのままの意味です」僕はうなずいた。
「よし。歯を食いしばれ」リズリーはめきめきと音をたてて拳を握りしめた。「お前の頭のねじを締め直してやる」
「拳で!? ねじじゃなくて釘の間違いじゃないですか!?」
「いまそれ重要なのか?」レオンハルト様は巻きこまれないように距離をとった。
「それもそうだな。これ以上おかしなことを言わないよう、釘を刺してやる」とリズリー。
「ひ、ひええ、お手柔らかにぃいい……。ぎゃっ」




