表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/88

サブシナリオ

 魔物が壁に残した痕跡を見つけて、しばらくして僕はうっすらと、思い出しはじめていた。

 この迷宮ダンジョンのことを。

 このシナリオのことを。


 まだゲームの開始時点ではないからと油断していた。ここはサブストーリーで探索した迷宮ダンジョンだ。なんとなく見覚えのある迷宮だとは思っていたのだが、てっきりストーリーと関係なく入ったのだとばかり思っていた。

 だが、あの痕跡にもハッキリ見覚え―――既視感デジャヴがあった。つまり、僕たちの任務はゲームの中に実装されていたシナリオ、だということ。そして僕は何度もプレイしたということだ。


 このシナリオはなんだ?

 どういうエピソードだ?

 ここでいったい何が起ころうとしている……?


「おい、クリム、大丈夫か?」


 レオンハルト様が目の前で手を振っていた。僕ははっとした。


「は、はい、大丈夫です」

「疲れたのか? 索敵はお前に頼ってるけどな、疲れたなら言ってくれよ。休むから」

「……」


 僕はちょっと考えた。

 疲れているわけではない。ないが、考える時間がほしいのも事実だ。純粋に思考を巡らせたいし、注意散漫ではパーティを危険にさらすだけだ。ここは恥を忍んで休ませてもらおう。


「すみません、実は少し休憩したいです」

「おう、わかった」


 レオンハルト様はがしっと肩をつかんで揺さぶった。乱暴な感じはしない。むしろ力強くて頼りになる感じだ。

 けれど、ここは通路のど真ん中だ。小部屋も見当たらない。ずいぶん半端な場所で休憩させてしまったな、と思っていると、


「えいっ」シャルロット様のかけ声が聞こえたかと思うと、迷宮の壁がごりごりと崩れていった。あっという間に原始的な洞穴が遺跡の中に誕生した。唖然とする僕たちの前でシャルロット様は微笑んだ。


「この中で休みましょう」

「シャ、シャルロット様……」


 最初に沈黙を破ったのはベル嬢だった。


「あの、わかってますか? ここは遺跡です。地下遺跡ですよ?」

「ええ、知っていますわ。もちろん」

「壁を崩したりしたら、天井が崩れるかもしれないんですよ!?」

「平気よ。そのときは魔術で天井を押し上げるから!」

「いや、そういうことじゃなくてですね、シャルロット様……」

「話は中で聞くわ」


 シャルロット様は「お説教はうんざり」と言わんばかりにさっさと小部屋の中に入ってしまった。僕たちは顔を見合わせて恐る恐る小部屋の中に足を踏み入れた。……ある意味、この迷宮に入ってから一番身の危険を感じたかもしれない。


「さあさあ、座って座って」シャルロット様は魔術で作った椅子をすすめた。「疲れたでしょう、クリム君」

「え、でも、僕は執事ですから……」

「だったら主人である私の言うことは聞かないといけないわよね?」

「は、はいっ」


 僕があわてて椅子に座ると、シャルロット様はくすくすと笑った。間髪入れず、僕の目の前にティーカップが差し出される。見上げると、ベル嬢が紅茶を淹れてくれていた。「いつの間に用意したんだ?」と内心で驚いていると、ベル嬢は勝ち誇ったような笑みを見せ、レオンハルト様の紅茶を注いだ。もちろんシャルロット様の紅茶は最初に注がれている。


「そういえばクリム君とちゃんとお話しするの、初めてよね」


 シャルロット様はクッキーをかじりながら言った。本来貴族のご令嬢は扇で隠すものらしいが、今シャルロット様は隠さずに食べている。


「お行儀が悪いですよ」ベル嬢がたしなめるように言った。彼女はすでに給仕を終えてテーブルに座っていた。

「いいじゃない。みんなしかいないんだもの。

 ……ねえ、聞いてもいいかしら?」


 シャルロット様は身を乗り出してきた。目がきらきらしている。僕はあわてて自分に【冷静カーム】をかけた。


「私と初めて会った日のこと、覚えてる?」

「ええ、覚えています。あの時はお世話になりました」

「あの泣いていた子はお元気かしら? クリム君の婚約者よね?」

「よくご存じで」僕は微笑んだ。「スクエラは元気ですよ。一昨日、会いました。二年ぶりに」

「二年ぶり? ずいぶんと会っていなかったのね」

「彼女には色々あったので……」

「婚約者ならちゃんと彼女を幸せにしてあげなきゃダメよ?」


 シャルロット様は紅茶を飲みながら、上目遣いに僕を見た。


「クリム君、逃げているんじゃないの?」

「シャルロット様に隠し事はできませんね」

「ふふふ、私に隠し事なんて百年早いわ……。

 君、私のことを見張っている間者スパイかなにかなの?」


 僕は一瞬、シャルロット様が何を言っているのか理解できなかった。間者スパイという単語がとっさに何を意味するか思い出せなかった。

 僕はどうやら、かなり間抜けな顔をしていたらしい。次の瞬間、シャルロット様は笑い転げていた。


「あははははは! ごめんごめん、冗談冗談!

 あははははは! いやあ、ごめんね。いい顔をみせてもらったわ。ありがとう」


 シャルロット様はいつもの微笑みに戻って紅茶を一口飲んだ。


「ごめんね。最初に会った時、私のことをすぐに見破ったでしょ? だからずっと気になってたの。ずっと。君は何者なんだろうって。会ったことないはずなのに、私とベルの変装を見破るなんてただものじゃないもの」


 僕は黙っていた。

 シャルロット様は僕の顔をじっと見つめながら、クッキーをかじった。


「ねえ、どうやって私の正体を見破ったの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ