暴走する生命
【暴走する生命】。
ブレッドの町から歩き、田園風景の端にうっそうとした森が広がっている。少しずつ暗く、濃くなっていく緑の中を、けもの道にそって進むと、その入り口にたどり着く。
古代文明が作ったなじみのないデザインの遺跡が大口を開いている。遺跡には木化したツタが、内側から乗っ取るかのようにみっしりと絡みついている。内部の暗闇から、えずくような甘い独特の魔力の匂いがただよってくる。
レオンハルト様が僕たちの目を交互にみた。
「みんな、覚悟はいいか?」
「はい」「もちろんです」「ええ」
レオンハルト様は満足そうにうなずいた。
「よし、行こう。くれぐれも気を抜かないよう」
僕たちは、迷宮に足を踏み入れた。
***
隊列について説明する。
先頭はレオンハルト様。索敵と防衛、プラス近接攻撃を担当する。ここは植物系の迷宮だから遠距離戦闘がメインになる。しかし、外部から入り込んだ動物系の魔物と出くわすこともある。そういう場合の急な突進などに対処するのは彼の役割だ。緊急性という意味では、もっとも重要な仕事と言っていい。
二番目は僕だが、説明を飛ばして最後に回す。
三番目はシャルロット様。彼女がメインの攻撃役だ。レオンハルト様が先頭でみつけた敵に遠くから魔術で攻撃し、撃退する。この迷宮のセオリーにそった役回りである。
最後尾はベル嬢。彼女は耳がいい。背後から迫ってくる敵を警戒する役目になった。僕も耳はいいのだが、ベル嬢に「あなたがシャルロット様の背中をお守りするなど百年早い。私がしんがりを務めます」と言われてしまった。まあいいけど。
二番目は僕だ。サブタンクと言ったところだろうか。レオンハルト様の防御をすり抜けた敵を確実に止める役割だ。
みんなには事前に僕の魔力の量については説明してある。僕の魔力量は一般的な魔術師の2~3倍程度だ。平均は超えているから自慢できる数値なのだが、このメンバーの中では物足りない。まったく物足りない。レオンハルト様は魔術師でもないのに10~20倍くらいだそうだし、ベル嬢でも5~6倍だ。しかも彼女は【魔術駆動】の体術しか使用しない。魔力切れを起こす心配はないと言える。シャルロット様にいたっては平均値の100倍以上だ。チートと呼ばれても仕方ない数値である。迷宮中の魔物を殲滅してもお釣りが出るだろう。
魔力量の少ない僕は攻撃面ではあまり役立てない。というよりも役立とうとすると、ペース配分は持たないし、スペースの関係で他のメンバーの長所を殺してしまう。だからサブタンクを務めるのが最適なのだ。
わかっている。これが一番合理的だ。わかっている……。
わかっているけど、やっぱり華々しく戦いたかったっ……!
初陣をシャルロット様の前でカッコよく戦って飾りたかった!
でも、僕は執事だ。戦士じゃない。しょうがない。
誰かがやらなきゃダメなんだ。
カッコ悪かろうとなんだろうと、僕が―――。
「ね」
ちょんちょんと、肩をつつかれた。驚いて振り返ると、シャルロット様が微笑み、ささやいた。
「私のこと守ってね、騎士サマ?」
「ゥガッ……!?」
僕はシャルロット様から目をそらした。僕の視界は魔術によって確保されている。だから向いている方向は関係ない。ただ、そうしなければ正気を保てなかっただけだ。
【冷静】、【冷静】、【冷静】、【冷静】、【冷静】……。
不思議そうに目を丸くしているシャルロット様の前で僕は沈黙し、魔術で精神を安定へ導いた。
よし、大丈夫。帰ってこれた。
「ねえ、クリム君、大丈夫……?」
「ええ、もちろんです。失礼しました、シャルロット様。不肖クリム・ホワイト、全力であなた様をお守りいたしますよ」
「ふふふ、頼んだわね」
よっしゃあ!
僕がシャルロット様の盾だ!
魔物でもなんでもどんと来い!
全部止めてやる!
……ああでも、ベルさん、そんな軽蔑したような目で見るのはやめてください。
視線による精神攻撃は、止められないので。




