シャルロットにおまかせ
「うっ、ご、ごきげんよう、町長殿、本日はよろしく……。うぷっ」
「大丈夫ですか、勇者殿……?」
体中から肉の匂いを漂わせた勇者レオンハルト様は町長を驚かせた。
「勇者様はここに来るまでにお食事を済ませておいでなのです。どうかご容赦ください」
ベル嬢はすました顔でお辞儀をした。僕は心底凄いな、と思った。串焼き肉をニ十本食べて「もう無理だ、もうやめてくれ……」と懇願する勇者様に「甘えないでください。まだ食べれるでしょう」とさらに十本口につっこんだ人と同一人物とは思えないすまし顔だ。魔術なしでこの顔なのだろうか。彼女も【冷静】の使い手なのではないか?
ところで食べ過ぎで吐きそうになっている勇者様に「勇者様が一番最初に挨拶してくださいね。その方が一番臭いをばらまけますから」と提案したのは僕だ。それが一番合理的だからである。まさか最初にシャルロット様に口を開いていただくわけにはいかないだろう。
シャルロット様が微笑んで会釈をした。
「町長殿、本日はよろしくお願いしますね」
***
別室に案内された僕たちは町長殿に話を聞いた。
この町の近くに迷宮がある。遺跡が迷宮化したか、迷宮に遺跡を作ったタイプで、基本的に地形が変化しない。比較的探索が楽な部類だ。
生息する魔物は主に植物系。植物系の迷宮の例にもれず危険度は決して高くない。植物系の魔物は基本的に根を張って動かない。動くやつもいるが、近づかなければ反応しないか、動物系に比べれば鈍いやつしかいない。距離をとって魔術で攻撃すれば安全に倒せる。ただ、放置していると際限なく巨大化するのでマメに迷宮全体の手入れをする必要があるだけだ。
ルーチンワークで十分管理できる迷宮ということ。
ただ、今回はルーチンワークでは解決できない例外が発生したらしい。迷宮は数多い。こういうことはある。
迷宮には隠し部屋と呼ばれる空間が稀に発生する。初期マッピングのミス、地盤の崩落や不可解な魔術現象など、発生原因は様々だが、それは新たな【遺物】発見の機会であると同時に危険をはらんだパンドラの箱でもある。
その中に処理されずに育った魔物がいるかもしれないからだ。
「遺跡のどこかに隠し部屋が発生していたようです。そこで育った魔物が上層に進出したものと。あちこち魔物に破壊された痕跡が残っていて……」
つまり、僕たちに押し付けられた仕事はその「隠し部屋で成長した強力な魔物の討伐」というわけだ。
***
「……以上が、この町の現在の状況になります」
町長は汗をふきながらそう言って説明を締めくくった。部屋は暑くないし、町長は特別汗かきなようにも見えない。明らかに緊張からくる汗だ。
説明もやたらと責任逃れ……というといくらなんでも可哀そうだが、いかに問題なく日々の仕事をこなしていたかに重点が割かれていたように思う。迷宮の管理でヘマをしたということになると、町長の責任が追及されたりするのだろうか。
「どうか、どうか、町の取りつぶしだけは、ご容赦ください。どうか、お慈悲を……!」
町長の責任どころではなかった。
なにそれ。そんな大ごとなの、これ。
え、そんな問題がおきてる迷宮に今から僕たち、行くの?
死んじゃうのでは?
「ご安心下さいませ、町長殿」
シャルロット様は、町長の肩をやさしくたたいた。
町長はいまや席を立ち、シャルロット様の足元にひれ伏して泣き崩れている。
僕はただただ戦慄していた。シャルロット様の慈悲深さに。そして、事態の深刻さに。
行きたくない。できることなら変わってほしい。僕の代わりに誰か他の人に行ってほしい……。
しかし、シャルロット様が行くのなら、僕も行かなければ。まだゲーム開始時点じゃないから、それほど深刻な事態にはならないはずだけれど、シャルロット様がかすり傷でも負おうものなら、僕は後悔のあまり何日か発狂してしまうだろう。【冷静】をかけても無駄なくらいに。
「迷宮の問題は、私シャルロット・ローズロールが引き受けます。迷宮深部に巣食うボスを討伐してまいりますわ。それで問題は解決です。取りつぶしなどという話は私の耳には入っておりません。ご安心ください」
「おお、シャルロット様……」
「大丈夫です。ここには、勇者レオンハルト様と、優秀なメイドと……」
シャルロット様は僕をみてにっこりと微笑んだ。
「抜け目ない執事もいるんですから!」
抜け目ないって褒め言葉なのかな、と僕は苦笑した。
仕方ない。シャルロット様にこう言われた以上、仕方ない。
粉骨砕身。たとえ身が引きちぎれようとも、シャルロット様のお役に立つまでだ。




