採点会
「どうだった、彼?」
「いけ好かないですね」
一次試験を終えてクリムが帰ると、ベルは隣の部屋に足音荒く入り、シャルロットから遠い方のテーブルに書類一式を叩きつけた。
「ああもう! なによ、あいつ! 自分に酔ってるんじゃないの!?」
「いい性格していたわよね」
シャルロットは悠然と微笑んだ。ベルの持っている魔道具(魔術のかけられた道具)のおかげで、ベルとクリムの会話はシャルロットにも聞こえていた。
「ふてぶてしいっていうか」
「そう! そうなんですよ! あいつ!」
「それで、テストの方はどうだったの?」
シャルロットは振り返って、ベルが叩きつけた書類を指さした。
「採点は終わったの? っていうか、彼、文字も読めるのね」
「採点はまだですが、ちょっと見た感じだと、ほとんど正解だと思います。もしかしたら満点かもしれません」
ベルは不愉快そうに顔をしかめている。
「それどころか、問題設定のミスも指摘しています。『この問題の正解はこれこれを想定しているのだろうが、この条件ならこうなって、こうなるのが正しい』……って。もう! これ、私が考えた自信作だったのに!」
「どれ? 見せてちょうだい」
「……どうぞ」
ベルはふてくされてため息混じりに紙きれをシャルロットに渡した。シャルロットはその問題をみるなり笑った。
「あはは、これか。なるほどね」
「なんですか、そのリアクション。……まさか、間違ってるってご存じだったんですか?」
「ええ、もちろん」
「も、もちろん……!? ど、どうして何もおっしゃらなかったんですか?」
「このためかしらね」
シャルロットは答案をひらひらさせて微笑んだ。
「ふーん、汚い字ねえ。論理はきれいなのに」
「姫様の字も大概ですよ」
「私は、心が綺麗だから」
「他の回答も見ますか?」
「いえ、いいわ。これで十分わかるもの」
「私は念のためにちゃんと採点しますね。……うわぁ、一番難しいやつもちゃんと正解してる。ひぇー」
「ねえ、他の書類も見せてよ。推薦状があるって言ってたでしょ」
「ああ、バウムクーヘン伯爵の推薦状でしたっけ」
「そう」シャルロットは指を鳴らした。「プリーズ?」
「はいはい、ただいま」
ベルはがさがさとテスト以外の書類をまとめてシャルロットの元に運んだ。
「ありがと」シャルロットは微笑んで書類の中から推薦状をひっぱり出した。「さあて、本物かしら?」
「どっちでした?」ベルはしかめ面で回答にマルをつけながら尋ねた「魔術紋は偽造されていますか?」
「ちゃんと本物ね。まあ、念のために伯爵には手紙で確認を取りましょうか」
「わかりました」
「それにしてもあの子供が、こうして執事になりに来たなんてねえ。どうだった? イケメンになってた?」
「アイマスクしてましたよ」
「マスク外させたんでしょ?」
「よくわかりませんでした。呪われてて……」
「呪い? どうして呪われているの?」
「そこまでは聞いていません」
「まあ、そうね。おいおい聞きましょう。彼が執事になってから」
「悪趣味ですよ」
ベルは採点をすべて終えると、伸びをした。
「ああもう、嫌になる!」
「満点?」
「そうです! 落とす口実もありゃしない!」
ベルはぷりぷり怒りながら部屋を出て行った。
しばらくして彼女が紅茶をいれて戻ると、シャルロットが採点済みの答案をながめていた。
「私より頭が良かったりするかしら」
「ありえません」
ベルはティーカップに紅茶を注ぎながら言う。
「シャルロット様より頭のいい人なんてそうそういません」
「いた方がいいんだけどなあ」
「知恵比べでもしますか?」
「そんなにヒマじゃないわね」シャルロットは答案を机に置き、代わりにカップを取った。「二次試験はいつにしたの?」
「明後日と伝えました」ベルは立ったまま答えた。「その日は予定がないですから」
「あるわよ」
「えっ!?」
ベルは驚いて、メモ帳をとりだした。ページをめくり、いぶかしげに顔をしかめる。
「申し訳ありません。メモしていませんでした。どのような予定ですか?」
「レオンハルトが来るのよ」
「ああ」
ベルは今度はげんなりしたように口の形を曲げた
「あの教会公認のナントカですか」
「勇者、ね」
「しつこいんですよね、あいつ……。いくら姫様が魔術の天才だからって、戦力に数えるなんて……」
「あ、そうだ。良いこと思いついたわ」
シャルロットはパチンと手を叩いて笑った。
ベルはやや顔をこわばらせた。シャルロットが次にいう言葉がわかったような気がした。
「勇者様に試験官をやってもらいましょう!」
シャルロットの楽し気な声を聞いて、ベルはため息をついた。予想が的中したからだ。おかげでせっかく考えていた二次試験の内容が無駄になってしまった。
しかし……、自分があのアイマスクと戦うよりはマシかもしれない、ともベルは思うのだった。




