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僕はあなたをハッピーエンドへ連れていく  作者: 甲斐柄ほたて
三十八年間のプロローグ
1/16

死因はメテオ

「君の死因はメテオです」


 保健室の先生が座っているような、安っぽい回転椅子に座った長髪の男が言う。細長い指で、自分の頭を指さす。


「君の住んでるアパートの屋根をつきやぶって、ついでに君の頭蓋骨と脳みそを木っ端みじんに粉砕しちゃいました。

 君は即死だったよ」


 男は「よかったね」と言って微笑んだ。

 僕は唖然とするばかりでそのジョークに笑うことも怒ることもできなかった。

 そこは見たこともない場所だった。

 場所、というにはあまりにも抽象的過ぎる。

 夢の中でさえ、もっとはっきりしている。


「ここがどこか気になる?」男はくすくすと笑った。「あんまりよそ見をしない方がいいよ。ここは君たち人間には認識できない場所だから。下手すると気が触れちゃう。せっかく私が殺した君がそんな風になったら目も当てられない」

「あんたが殺した?」


 僕は眉をひそめた。

 聞き間違いかと思った。男はあまりに平然としていたから。


「死因は隕石だって言ったじゃないか」

「そうだよ。君の死因はメテオで、君を殺したのは私だ」


 男はへらへらと言った。今度こそ聞き間違いではない。


「どういう意味だ?」

「私は神様なんだ」男はくるくると回転椅子で遊んでいる。「地球人類の健やかな進化を心から応援する、神様さ」

「神様? 健やかな進化……?」僕は混乱した。「ちょっと待ってくれ……」

「待たない。君が理解する必要のない事柄だ。忘れていい」


 じゃあ、言うなよ……と僕が心の中で思っていると、自称神様はパチンと指を鳴らした。

 ピタリと回転が停止する。


「君、【バッドエンドは猫も食わない】をプレイしただろ?」

「は?」

「しただろ?」

「ああ、まあ」


 たしかに僕はゲーム【バッドエンドは猫も食わない】のプレイヤーだ。

 とても熱心なプレイヤーだ。


「それがどうしたんだ?」

「あれを作ったのは、私なんだ」

「え、あなたが【くるくる安楽椅子】様ですか!?」


 僕は驚きのあまり、偉大なる開発者様の名前を叫んでいた。

【バッドエンド】は日本製のロールプレイングゲームだ。個人開発のゲームだったが規模はかなり大きい。クラウドファンディングで「こんなゲーム作るよ!」と言って出資を募っていた。僕もブループリントを見て興奮し、出資した一人だ。

 ……いや、そうじゃない。

 このゲームの説明は一言あれば足りる。


 神ゲーである。


「開発者様にお会いできるなんて、感激の極みです……!」

「お、おう……。神である私ですら予想できないくらいの急角度で喜ぶね、君……」


【くるくる安楽椅子】様は苦笑した。


「でも、私はくるくる安楽椅子君じゃないよ」

「じゃあ、あんたは誰なんだよ」

「あれ!? さっきまでの神妙な態度は!?」


 僕は床に唾を吐いた。


「かーっ、ぺっ!

 よく考えたら、安楽椅子様がこんな胡散臭いやつなわけないよな。いい加減にしろよ、さっきから。何者なんだよ、あんた」

「私は地球の神で、くるくる安楽椅子君にシナリオ、システム、世界観など諸々のアイデアをプレゼントした者だ」

「あああああ!」僕は叫んだ「ご無礼をお許しください、神様ぁあああ!」

「君、ホントに情緒どうなってんの?」


 神様はにこにこしている。


「人生楽しそうだね。神様冥利に尽きるよ」

「ありがとうございますぅうううう!」


 僕が体液をまき散らしながら感謝すると、神様は「うん……」と曖昧にうなずきながら距離を取った。


 僕は神様に質問しまくった。

 神様は苦笑いして答えてくれた。


 僕がした質問の大半はゲームのシナリオやキャラクターに関することだったんだけれど、それは今となってはもう忘れてしまった。

 ただ、かろうじて覚えているのは次の内容だ。

 ・この神様は地球の神様である。

 ・【バッドエンド】のシナリオは紛れもなく、神様が開発者に教えたものである。

 ・ただし、シナリオは神様の完全なオリジナルではない。

 ・オリジナルは、異なる世界の異なる人類の物語である。

 ・神様の趣味は異なる世界をのぞき見ることだった。

 ・それはよその国のライブカメラを見るのに近い。

 ・趣味のさなか、神様は可愛らしい猫を見つけてしまった。

 ・ただし、猫は崖っぷちに立っている。誰も猫に気づいていない。

 ・その国は鎖国同然の状態で、連絡もできない。

 ・助けたいが、助けられない。



「その猫がシャルロットだ」神様は言った。「君の一推し。大好きなシャルロット様だよ」

「ん……? え……?」


 僕の思考は間違いなく十秒近く停止した。


「つまり、えっと、シャルロット様は実在する……?」

「そう。実在している」

「……」

「あれ、大丈夫? おーい……」


 神様が近づいてきて、僕の頬をつついた。

 僕はそのまま大の字になって倒れた。


「うわあ、気絶しちゃった……」


 神様は天を仰いだ。


「こんな子に任せて大丈夫かなあ……?」

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