第7話 フローラの過去と後悔
前回の分が少し長かったので2話に分けさせていただきました。
一方、ヴィルが探しに向かう少し前。
フローラは無事に温室へとたどり着いていた。
(ここならすぐにはバレないかな)
ようやく隠れ場所を見つけて安堵する。
外から見えないよう植木鉢の傍に隠れると、いろんな草花が目についた。
「わあ、綺麗……」
植木鉢に咲いていたのは小さな白い花だった。
それはまるで雪の結晶のようで、美しい。
あまりの綺麗さにフローラはうっとりを眺めてしまう。
集中しすぎていたせいで、彼女は自分に近づいてきた人物に気づかなかった。
「見つけた」
「ひゃっ!」
「あぶなっ!」
突然の声にフローラは驚く。
その瞬間、彼女の体は後ろに傾いてしまった。
大きな痛みに襲われるだろうと思ったフローラだったが、いつまで経ってもそれは訪れなかった。
(え……?)
ゆっくりと彼女が目を開くと、そこには見目麗しい銀色の髪をした彼がいた。
「殿下っ!」
「ごめん、びっくりさせすぎた。怪我してない?」
「は、はい……」
頬をほんのり赤く染めたフローラの唇に、ヴィルは自身の人差し指を当てた。
「ヴィル、でしょ?」
「あ……」
なんと甘い声だろうか。
フローラの頬はさらに赤みを増していく。
(う……そんな美麗な顔で見つめられると……)
フローラは自身の鼓動が速くなるのを感じた。
彼はにやりと意地悪な顔をしつつも、彼女を地面に降ろす。
「君はわかりやすいね。隠れる場所が読みやすい」
「え、えっ! ……でも、やっぱりそうなんでしょうか……」
「やっぱり?」
彼女の言葉が気になってヴィルは聞き返す。
すると、フローラは昔を懐かしむように語り始めた。
「侍女のアデリナとよく幼い頃かくれんぼをしてたんですが、いつもすぐに見つかっちゃって……それで……」
その瞬間、フローラは何かを思い出したようにハッとする。
「フローラ?」
彼が名を呼んでも彼女は返事をしない。
そればかりか次第にフローラの唇は震えだし、瞳を潤ませているではないか。
「顔色が悪い。屋敷に戻ろう」
ヴィルはそう告げたが、フローラは首を左右に振った。
「すみません、大丈夫です。久々に思い出しただけなので……」
今も苦しそうにする彼女の背中をさする。
「ごめん、嫌だったら殴っていいから。ほっとけなかった」
「いえ、ありがとうございます」
やがて、少し落ち着きを取り戻した彼女は、ヴィルに尋ねる。
「その……ヴィル様は私がルイト様の代理母として願い出た手紙をご覧になったんでしょうか?」
「ああ」
彼の返事を聞くと、フローラは俯く。
その表情はひどく悲しいものだった。
──しばらくの沈黙の後、彼女はようやく口を開いた。
「うちにも弟がいるはずだったんです」