第6話 アデリナの勘違い
(お嬢様とルイト様を守らないと!)
アデリナが二人の安全を守ろうと駆けだした時、フローラの声が響き渡る。
「ヴィル・クライン第一王子……!」
(え……!)
彼女は急ぎナイフを背中に隠した。
そのままゆっくりと後ずさって三人から見えない位置まで引き下がる。
(あ、危ない……私、王子様を刺しにいってしまうところだったわ。危なかった……お嬢様、ありがとうございます。お声をあげてくださって……)
キッチンにナイフをしまった時、アデリナの思考はようやく冷静になってきていた。
(よく考えると、どこからどう見ても只者じゃないわ……)
うんうんと何度も頷き自身を納得させる。
アデリナは少々せっかちなところが多く、今回のような早とちりが多い。
それゆえ、次にこう考えてしまうのだ。
「えっ! もしかして、ルイト様って本当はお嬢様とヴィル王子の子……!?」
彼女は両手で口元を抑えた。
そして、急いで周りに聞かれていないか確認をする。
(これは確認しなければ!)
侍女としての使命感からか、それとも噂好きの性からか。
アデリナは外の様子をもう一度観察することにした。
「あっ! かくれんぼが始まったわ!」
ルイトが走り出した少し後、フローラも急いで隠れ場所を探していた。
その光景を見たアデリナは昔の思い出を口にする。
「お嬢様、昔からかくれんぼがあまりお上手ではないのよね……」
今から十年以上前のことである。
フローラの子守りをしていたアデリナは、二人でやったかくれんぼを思い出す。
「お嬢様、大丈夫かしら。あ、ルイト様! そこは素晴らしい隠れ場所です! そこの植木はなかなか大人からでは見つけられないんです! さすがです!」
苦戦するフローラとは違い、ルイトは見事に隠れ場所を探し出した。
どうやらアデリナの見立てでは、ルイトの動きは素晴らしいらしい。
一方、フローラはいまだ隠れるところを決めきれずにいた。
その理由に、アデリナはようやく気づく。
「そっか! 昔とお庭が違うから戸惑っていらっしゃるんですね!」
いくつかの場所に身を隠してみるもののしっくりこないよう。
フローラはすぐさま違う場所を探そうと何度も庭を行ったり来たりしていた。
アデリナが彼女のそんな動きを見続けてから数十秒のこと──。
フローラはようやく隠れる場所を見つけたのか、温室のほうへと向かっていった。
「温室ですか。なるほど、そこならもしかしたら……」
かくれんぼの視聴に夢中だったアデリナは、ある訪問者に気づかなかった。
「やあ、君はここの侍女かな?」
「きゃっ! で、殿下!」
アデリナは驚き体をのけぞらせた。
そんな彼女を心配した後、ヴィルは謝罪をする。
「はじめまして。すまない、門の衛兵には伝えている。あと、ハインツェ伯爵夫人には許可をもらっているから安心してほしい」
「それはもう、もちろんでございます! 当家の不備などございましたら、いつでも仰ってください!」
彼女は深々とお辞儀をした。
慌ただしくも誠意のある様子のアデリナに、ヴィルは微笑む。
「ふふ、ありがとう。素敵な庭とお屋敷だよ」
すると、彼は「そういえば」といった様子でアデリナに尋ねる。
「さっき、庭に温室が見えたんだけど、入っても大丈夫かい?」
「え? 問題ございませんが……」
『あそこにはお嬢様がいらっしゃいます』
そう言葉にしそうになるが、寸でのところで呑み込んだ。
(お嬢様がいってしまいましたが、私がここで何か反応をするのも変ですね)
主人の不利を心配するも、自分がゲームの勝敗に関わってはならないと平静を装う。
きっと彼は偶然そこに向かい、フローラは彼に見つかるのだろう。
アデリナはそんな未来を考えていた。
しかし、彼の答えは意外なものだった。
「たぶん、フローラはあそこにいるだろう」
「え?」
予想外の言動に思わず声が出てしまった。
しまった、とばかりに口元に手を当てたが、もうどうしようもできない。
「どうしてそう思うのか、気になっているね。簡単だよ、フローラは寒い場所が苦手だからね」
「ああっ! なるほど!」
アデリナは合点がいったという様子で大きく頷く。
隠れる時間が終了した頃を見計らい、彼は口を開いた。
「では、彼女を見つけてくるとしようか。ルイトのこと、よろしく頼むよ」
「はいっ! かしこまりました!」
アデリナは背筋を伸ばした答えた。
その様子に満足したヴィルは温室へと向かっていく。
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(追記)
少し長かったので、2話に分けました。




