第26話 うちの奥さんと子どもを悪く言うのやめていただけますか?
あっという間にルイトの授業参観の日はやってきて、フローラは緊張した面持ちで幼稚園に向かう。
(殿下とは、校門前で待ち合わせってことになってたけど……)
『運動』の授業と聞いていたフローラは、動きやすいパンツスタイルで校門前に立つ。
そんな彼女へ向けて、ひどい言葉が飛び交った。
「あれが『捨てられた子』の親代わりでしょ?」
「そうそう! 学院を中退してまで育ててるらしいわよ~」
「そんな偽善者ぶりたいのかしら」
学院は休学しているだけだが、中退したと思い込んでいる者も実際多い。
もちろん今日来るまでに彼女自身覚悟はしていた。
ルイトの悪口があるということは、彼女自身にもその刃が向けられる。
(私はどれだけ言われても構わない。ルイト様だけ守れればそれで……)
フローラは悪態をついている保護者たちへ歩み寄っていく。
そして、口を開こうとしたその瞬間だった。
「ごめんっ! 遅くなったっ!」
彼の登場に皆驚き、ご夫人たちは頬を染めている。
強い日差しの中で輝く銀色の髪に、爽やかで美しい笑顔は見る者を虜にした。
「殿下っ!」
「だーめ! もういつになったら、ヴィルって呼ぶのに慣れるの!」
「す、すみません……ヴィル様……」
彼の登場で色めきだった夫人たちは、ひそひそと話を続ける。
「どうして殿下がここに!?」
「なぜあの娘と一緒にいるのよ!」
そう口にした彼女らに、ヴィルはにっこりと微笑んだ後、睨みつけて冷たく言い放つ。
「うちの奥さんと子どもを悪く言うのやめていただけますか? 二人を傷つけるのは、僕が許しませんから」
「ひいっ!」
彼のあまりの凄みにひるんでしまった夫人たちは、その場から動けずにいる。
しかし、そんな彼女らにもう一度笑みを浮かべて言い放つ。
「今日の授業参観、よろしくお願いします」
「は、はいっ!」
ヴィルはにっこりと笑った後、フローラの手を引いて幼稚園の中に入る。
自分たちが通り過ぎた後、思わずその場で腰が抜けてしまった夫人たちを振り返りながら、フローラは言う。
「もう、あそこまでヴィル様が言わなくても私が言ったのに」
「あそこは僕に守らせて。それに……」
ヴィルはフローラの耳元に唇を近づけると、吐息交じりに告げる。
「『うちの奥さん』っていい響きじゃない?」
「なっ! 『子ども』が抜けてます! ルイト様を一番に考えてください! 私のことは後回しでいいので!」
「そうはいかない! ルイトも大事だけど、僕にとっては君のほうが大事だ」
むずがゆく恥ずかしい気持ちが溢れてきた彼女は、下を向いてしまう。
そんな彼女の素直な反応が彼はとても可愛く思えて仕方ないのだ。
「ルイト様っ!」
「フローラ! あ、ヴィルも!」
二人の姿を見つけたルイトは手を振って笑顔だ。
その隣には初日に仲良くなったジルバートがおり、仲良く二人で遊んでいたところだった。
すると、先生が園児たちに声をかける。
「みんな~! 今日は授業参観です。保護者の人にみんなが頑張っているところを見てもらいましょうね!」
「はーい!」
揃った返事を聞いてフローラはわくわくしてくる。
(すごい、みんな可愛い~! それにルイト様もしっかり運動着に着替えて準備をしてる!)
グラウンドでだと暑いため、室内での運動がおこなわれるようで、園児たちは先生の指示に従ってマットの準備をしている。
準備を終えると、先生が保護者に向けて声をかけた。
「では、保護者の皆さん、お子さんのところにお願いします!」
(あ、ルイト様のところに行くのね!)
フローラがヴィルと共に向かうと、ルイトは嬉しそうに笑った。
「えへへ、二人と一緒だ!」
「ルイト様の幼稚園でのお姿を見られて、私も嬉しいです!」
皆が子どものところへ着いたのを見ると、先生が今回の運動授業の内容を説明する。
「今日の授業は組み体操です! ここにあるポーズをして先生たちから合格をもらい、早く三つのポーズを終えられたチームの勝利です!」
(組み体操……?)
先生の説明にざわつき始める保護者と子どもたち。
しかし、フローラとルイト、そしてヴィルは目を合わせて微笑み頷いた。
「勝ったな」
ヴィルの声と共に三人は不敵な笑みを浮かべた。
さあ、不敵な笑みを浮かべた三人!
組み体操の行方はいかに!?
「『うちの奥さん』っていい響きじゃない?」
(このセリフとても気に入っています(笑))




