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第25話 殿下をなんとかしてお誘いせねば!

 父親ルーカスの思わぬ提案にフローラの目が点になる。


(授業参観に殿下をお誘いする……!?)


 提案が頭の中を駆け巡ったフローラは、首を大きく左右に振って反論する。


「殿下をお誘いって、そんな大それたこと……!」

「そうか? 殿下は代理母であるお前とルイトくんの監視役でもあるのだろう? 二人の様子を近くで見るのは殿下としても都合がいいのではないか?」

「あ……なるほど……」


 一瞬動きを止めたフローラだったが、いやいやといった様子でもう一度首を左右に振る。

 そんな彼女を自分の娘ながら今日は思考と表情が忙しいな、とルーカスは見ていた。


(でもどうしましょう! お誘いするってどうやって? 授業参観に一緒に来てほしいって? 大それたことじゃないかしら!? 殿下のご気分を害したりしない?)


「……でも殿下ならいいって言うかも、いやいくら監視役のお役目とはいえご公務も忙しいし……」


 フローラの考えはだんだん口に出て独り言になっている。

 慌てふためく娘が可愛くてルーカスは思わず顔を背けて笑ってしまう。

 その時に、彼はふとあることに気がつくがその人物に「静かに」と口元に手を当てて牽制されたため、にっこり笑いながら頷いた。


 一方で、フローラはまだ独り言を続けている。


「どうしましょう。ですが、殿下をお誘いするとしてどうやって……」


 その時だった。

 フローラの耳にその「殿下」と声が届いたのは──。


「僕がどーしたのっ?」


 茶目っ気たっぷりな表情で大柄なルーカスの背中からひょいっと顔を出しているのは、間違いなくヴィルだった。


「殿下っ!」


 どうやってヴィルを誘うかということに意識が向いていた彼女は、彼が父親とアイコンタクトをして驚かそうとしていることに気づいていなかった。

 突然現れた渦中の人物にフローラの戸惑いが加速する。

 そんな時、ルーカスがわざとらしく声をあげた。


「あっ! 父さん、職員会議があるんだった! 殿下、娘からお話があるようでしてお願いできますでしょうか?」

「ああ、もちろん。そうだ、父上が後ほど学院の予算と校舎の建て替えについての件を手紙で送ると言っていたよ」

「左様でございますか。かしこまりました。届き次第すぐに対応させていただきます。それでは、私はこれで失礼いたします」


 そう言ってルーカスは娘にウインクして去っていく。


(もう、お父様っ! やってやった感出さなくていいからっ!)


 心の中で叫びながら、フローラはため息をついた。


「フローラ、何か僕に用事だった? もしかして──」


 ぐいっと彼女のもとへ近づくと、耳元で甘く囁く。


「デートのお誘いとか?」

「そ、それは……!」


 意外にも否定しない彼女の様子にヴィルは少し驚いた。

 彼女を見守っているとたどたどしい口ぶりで話し始める


「あの、その……殿下……」

「ん?」

「えっと、その殿下はご公務がお忙しいと存じますが……ら、ら、来週のっ!……ていはいかがでしょうか?」


 必死で絞り出して口にした彼女だったが、どんどん頬を赤く染めていく。


(で、デートのお誘いみたい……!)


 すぐ近くにいる彼にドキドキしてしまい、彼を誘う一言をうまく紡ぐことができない。

 ヴィルは優しい笑みを浮かべて、返答する。


「公務は忙しいけど、でも君からのデートの誘いなら迷わずそれを優先する……」

「それはやめてください。だめです」

「あ……はい……」


 さっきまでの緊張して顔を伏せ気味だった彼女が顔をあげてきっぱりと叱る。

 思わずそんな凛々しい彼女にヴィルも従うしかなかった。


 しかし、その返答で顔をあげたがゆえに、彼女の頬が真っ赤であることがヴィルにバレてしまう。


「あれ、どうしたの? フローラ。顔が真っ赤だよ」


 意地悪そうな表情を浮かべて顔を近づけるヴィルに、フローラの鼓動はさらに速まった。


「からかわないでください!」

「からかってないよ」

「え……?」


 いつになく真剣な表情を浮かべる彼、そして彼に腕を掴まれて蒼い瞳に捕らえられる。


「僕は君が好きだよ。ずっと前から」

「殿下……」


 突然の告白にフローラは時が止まるような思いだった。

 近づいてくる唇に彼女は動けなくなる。


 その瞬間、耐え切れなくなった彼女は叫ぶ。


「授業参観に一緒に行ってくれませんか!?」


「…………へ?」


 甘い雰囲気を吹き飛ばすような叫び。

 ヴィルは思わず固まってしまい、頭の回転が速い彼でもさすがに今回の彼女の言葉には思考が停止した。


「フローラ、僕の聞き間違えだったらごめん。授業参観って言った?」

「はい、申しました」

「それは……誰の……」

「ルイト様です! 授業参観が来週あるのですが保護者二名以上でないといけないのです。なので、一緒にいっていただきたいのです。殿下に! その、殿下はルイト様と私の監視役ですし、何かとご都合も……」

「わ、わかった、わかった!! 君の言いたいことはわかったよ。その授業参観に誘いたかったってことね」


 フローラはまだ頬を赤くさせながら、彼の言葉に頷く。

 ヴィルは彼女の予想外の誘い文句に思わず笑ってしまう。


「ふふ、ふははは!」

「殿下?」

「うん、いいよ。一緒に行こう、授業参観。でも、条件がある」

「条件……?」

「授業参観の後、僕とデートしてほしい」

「……へ?」


 またしても意地悪でニヒルな笑みを浮かべた彼に、フローラは捕らわれてしまった。

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