第24話 「ただいまー!」
「ただいまー!」
元気なその声を聞いてフローラは急いで玄関へと向かう。
(帰ってきたっ!)
玄関まで行くと侍女アデリナと手を繋いだルイトの姿があった。
その顔には満足気な笑みが浮かんでおり、彼はフローラの姿を見つけると駆けだして彼女の胸に飛び込む。
「フローラ!」
「ルイト様、おかえりなさいませ!」
今日は幼稚園初日ということもあり、半日の登園であった。
しかし、本人としてはまだ足りなかったというようにフローラに訴えて話している。
「それでね、ジルとあとカエデちゃんと……それから……」
「本当に楽しかったのですね、幼稚園。でも、先にそのどろんこの服を着替えましょうか」
「はーい……」
幼稚園のグラウンドにある砂場で遊んだルイトの服には泥がたくさんついていた。
(よかった……替えの制服も買っておいて)
外遊びや外での授業もあると聞いていたので、念のため制服は二着購入していた。
運動着に至っては三着用意している。
風呂場でシャワーを浴びせて、洗濯しないと……と考えていたフローラは、二人の後ろに父親ルーカスがいるのに気づく。
(あら、お父様?)
不思議に思った彼女はアデリナに告げる。
「アデリナ、ルイト様のお着替えとシャワーお願いできる?」
「もちろんでございます! では、ルイト様、いきましょうか」
「うんっ!」
アデリナに連れられてルイトは風呂場へと向かっていった。
フローラは父親と二人きりになると、彼に尋ねる。
「お父様、一緒に戻ってきたということはもしかして……」
「ああ、幼稚園でルイトくんの様子を見てきたよ」
予想通りの答えで思わず笑ってしまったフローラだったが、母親である自分を差し置いてルイトの幼稚園での様子を見ていた父親にわずかな嫉妬心が生まれる。
そんなわけで少し意地悪をしたくなり、彼女は父親に詰め寄った。
「お父様、私が学院へ初登院した時にはお仕事でいなかったのに」
「そ、それはっ! 職場で入園式の挨拶を任されてどうしても行かなくちゃいけなくてだな……」
「運動会にも滅多にいらっしゃらなかったわ」
「うう……どうしてもその日に職場の幼稚園の手伝いがあって……」
「ふふっ」
あまりにも必死に弁明するものだから、自分の父親が可愛らしく思えてフローラは笑みを浮かべた。
大好きな娘に詰め寄られて、ルーカスの額にはじんわりと汗が滲んでいる。
「ごめんなさい、お父様。少し言い過ぎたわ。ルイト様のご様子、聞かせてくれる?」
「あ、ああ……」
ルーカスはこめかみを掻いて少し気まずそうな顔だったが、ルイトの様子を思い出したのか嬉しそうに語り始めた。
「ジルバートくんが率先して幼稚園での暮らしを教えてあげてたよ。ルイトくんもすぐに慣れたようで、カエデちゃんやロアスくんたちと遊んでいた」
「何をして遊んでいたの?」
「ボールや積み木でよく遊んでいたな。どうやら遊具が気に入ったようで、ジルバートくんとずっと遊んでいたよ。お絵描きの授業では逆に真剣な顔つきで、最後まで夢中になって描いてたな」
「あら、お絵描きが好きなのかしら。そういえば、うちではあまりしてなかったわね」
「そうか。新鮮で面白かったのかもしれんな」
(じゃあ、今度お絵描き道具を揃えて、お家でも遊べるようにしておこうかな)
家でもルイトの興味があること、好きなことができるように環境を揃えてあげたいとフローラは考えていた。
こうして幼稚園での様子が聞けることにありがたいと感じる。
「でも、そんなに楽しそうなんだったら、私も見に行きたいわ」
すると、ルーカスがにっこりと笑って答える。
「あるぞ。見に行く方法が」
「え……?」
ルーカスはポケットに入れていた幼稚園のおたよりを出すと、フローラに渡した。
「授業参観のお知らせ……?」
「ああ、月に一度幼稚園では授業参観を実施して保護者の人にも子どもの様子を見てもらえるようにしている。その授業参観が来週ある。行ってみたらどうだ」
(授業参観……)
おたよりをじっと見つめて考えを巡らせる。
(行ってみたい……!)
自分にもルイトの様子が見られる機会があると知り、フローラは胸を躍らせた。
しかし、おたよりの最後の一文を見て困ってしまう。
(授業は『運動』です。なお、子どもと保護者二名の三人一組での催し物があるため、保護者は二名以上でお願いします?)
自分一人では授業参観に行けないことを知り、どうしようかと考え込んでしまう。
ルーカスが一緒に行ってくれるだろう、と思っていた彼女だったが、あてが外れる。
「ああ、父さんは学院で用事があるから行けない。だから、殿下をお誘いしてみてはどうだ?」
「……へ?」
とんでもない爆弾発言だ。
そうフローラは思ったものである。
お父様とてもナイスな助言です!
さあ、どうするフローラ!?




