第23話 ともだち
フローラとルイトは苦い想いをした幼稚園へ再び戻ってきていた。
校門の少し前に差し掛かると、彼女はルイトの手をぎゅっと握って尋ねる。
「ルイト様、本当にいいのですね?」
「うん、ぼくちゃんといける」
幼稚園に通うということはさっきのように同級生から心無い一言を浴びせられる可能性が高い。
それでもルイトは自分のため、そしてフローラのために通うと決めた。
フローラはそんなルイトの決意を尊重することにしたのだ。
校門の前まで来た二人は目を合わせて頷いた。
そして、ルイトはフローラの手を離して幼稚園へと向かっていく。
(大丈夫、ルイト様ならいけます)
フローラが校門の外で見守る中、ルイトを再び迎えたのはあの金髪の男の子だった。
そして、彼の同級生たちも登園してきており、彼の近くで立っている。
どうやら金髪の彼から同級生へルイトの登園のことが広まったようで、皆集まってきていた。
「よお、『すてられたこ』!」
その言葉にルイトの体はわずかに震えだした。
しかし、後ろを振り返ってフローラの姿を確認すると、彼女との約束を守るために奮起する。
「ぼくは、おとうさまにもおかあさまにも、おにいさまにもきらわれてるかもしれない」
「ははっ! やっぱりな。おかあさまのいったとおりかわいそうな……」
「でもっ!!」
ルイトは彼の言葉を遮るように叫ぶ。
そして、拳を握り締めて勇気を振り絞ると、彼なりの想いを込めて伝える。
「ぼくにはフローラがいる。フローラはいつもあそんでくれて、いっしょにいてくれて、やさしくて。そんなフローラがぼくはだいすきだ!」
「なっ!」
あまりに真っすぐなルイトの言葉に、金髪の子も目を丸くしている。
それでもルイトは伝えるのをやめない。
「フローラがぼくのおかあさまだ! だから、かわいそうなんかじゃない。ぼくは……ぼくはたのしい!」
「ルイト様……」
離れたところから見守っていたフローラの心に、彼の決意表明がぐっと刺さった。
そんな彼女の隣にやって来たヴィルは、彼女に言う。
「成長したな」
「はい……立派です」
ヴィルの言葉に涙声で同意したフローラは、ルイトの背中をじっと見つめる。
(いつの間にかこんなに大きくなっていらっしゃった……)
守るだけ、守らなければならなかった存在の大きな成長ぶりに、それ以上言葉が出ない。
「ひたむきに君が愛情を向けた証だよ」
ヴィルはそう呟く。
ルイトの真っすぐな瞳を受けてたじろいだ金髪の子は、追い詰められて涙を流す。
「おまえは『すてられたこ』なんだ! ぼくにそんなくちをきいて、なまいきだ!」
すると、ルイトはゆっくりと金髪の子に近づいていく。
「な、なんだよっ!」
動揺する彼にルイトは手を差し伸べた。
その行動に驚いた金髪の彼は思わず手を振り払う。
(ルイト様っ!)
フローラが息を飲んで見守る中、ルイトは泣かずに根気強く彼に伝える。
「ぼくはようちえんで、たくさんあそびたい。だから、きみともなかよくしてみたい」
「なっ! おまえなんかきらいだ! だれがあそぶか!」
フローラは自分の胸元で手を強く握りしめて我慢する。
今すぐにでもルイトを守りにいってあげたい。
しかし、彼の背中は今助けを求めていない。
「ぼくにまかせて」と言っているようにフローラには聞こえた。
その言葉通りルイトは自分の想いを伝えていく。
「ぼくはきみとあそんでみたい。みんなともあそんでみたいんだ! ぼくはきみをきずつけないから」
ルイトの純真無垢な言葉は金髪の子の心に響いた。
「おまえ、なんでそんなにぼくに……」
「だって、ぼくにこえをかけてくれたから。きみが」
存在を無視され虐められる実家での日々の辛さを知っている彼は、言葉をかけてくれた彼に感謝していた。
たとえ傷つく言葉が最初だったとしても、自分の存在を認めてくれる。
それはルイトにとってまわりが思うよりも遥かに大きなことだった。
「フローラがね。『あくしゅ』してともだちをつくるっていってた。だから、ぼくと『あくしゅ』してくれないかな、えっと……」
彼の名前がわからず困ってしまうルイトに、金髪の子は小さな声で答える。
「ジルバート」
「え……」
「なまえっ! ジルでいい」
そう言って差し出された小さな手。ルイトはその手を嬉しそうに握り返した。
「よろしくね、ジル」
「……わるかった。ひどいこといって」
「ううん。ありがとう。ぼくのともだちになってくれて」
二人は手を繋いで教室に向かっていった。




