第19話 初夏の風と一通の手紙
お待たせしました!まだ不定期ですが、再開します!
フローラが資格取得してから二か月が経過した。
暖かい春の陽気も過ぎ去り、初夏の風が吹いている。
「ルイトさまっ!」
「えへへー! こんどはフローラが『おに』ね!」
「ちょっと休憩してください! そろそろお水を飲まないとです!」
しかし、彼女の忠告も聞かずにルイトは走り続けている。
フローラは立ち止まり、ルイトに向かって叫ぶ。
「ルイト様っ!!」
真剣な声色に、思わずルイトは肩をビクリとさせた。
彼女のほうへと視線を向けると、怒りでもなく少し悲しい表情をしているではないか。
「フローラ……」
ルイトは急いで彼女のもとへと走った。
戻ってきた彼に、フローラは目線を合わせて言う。
「ルイト様。今日のお約束、覚えていますか?」
「……うん」
「お約束は、なんでしたか?」
ルイトはゆっくり口を開く。
「あそんだら、おみず、ちゃんとのむこと」
「どうして、でしたか?」
「おみずのまないと、たおれちゃうから」
フローラはバツが悪そうに下を向くルイトの頭を撫でて、ぎゅっと抱きしめた。
「そうです。もう暑いですから、お水を飲まないとお水が足りなくなっちゃうんです。はい、ではこれを飲みましょうね」
そう言って彼女は水を差し出した。
ルイトはそれを受け取り、喉を鳴らして美味しそうに飲んでいく。
「ぷはっー! おみずおいしい!」
「ふふ、ルイト様の体がお水を欲しがっていたんですね! すぐに動くとしんどいですから、少しベンチで休みましょう」
「うんっ!」
フローラとルイトは仲良く手を繋いで歩いていく。
ルイトを抱っこしてベンチに座らせ、彼女自身も隣に腰かける。
ベンチは大きな木の下にあり、日陰になっている。
心地よい風が二人の頬を撫でていく。
「すずしい~!」
「はい! 風が気持ちいいですね!」
夕方ではあるが、まだ日は残っている。
日陰で水を飲みながら、二人はゆっくりと過ごしていた。
「ルイト様」
「なあに?」
「お家は楽しいですか?」
少し不安がありつつ、フローラは尋ねてみた。
すると、そんな彼女の不安をかき消すような元気な声が届く。
「うん!! すっごい楽しいよ!!」
「そうですか……」
(ルイト様が楽しそうにしている。笑って過ごしている。それが嬉しくてたまらない)
『ルイトに幸せな時間を過ごしてもらう』
それが、フローラの目標であり、一年限定の代理母を務めたいと願い出た理由──。
資格を取得してから大きなトラブルもなく過ごしていた二人。
それもフローラが資格を取って、基礎的知識をきちんとつけたからだった。
風邪の対処、食事での接し方や栄養素の把握、寝る時間など規則正しい生活や諸々の必要時間と事項の把握など。
ヴィルに教えてもらった知識をもとに、実践を繰り返した。
(うまくいくことばかりではないけど、私は一人じゃない。お母様もお父様も、それにアデリナもいてくれる。それに、ヴィル様も……)
家族や信頼できる人の存在は、フローラの大きな支えとなっている。
(ルイト様を責任をもってお育てする。これが私の使命……)
フローラはルイトの手をぎゅっと握った。
「ん?」
不思議そうに大きなおめめがフローラを見つめる。
「ふふ、なんでもないです」
彼に愛情を注ぐように、もう一度握り締めて笑った。
そんな時、庭の入り口から声が聞こえてくる。
「フローラ! ルイトくん!」
「お父様!」
フローラの父親であるルーカスが戻ってきたのを見ると、ルイトは嬉しそうにはしゃぐ。
「わあ! ルーおじさん!」
待ちきれないといった様子でルイトはルーカスのもとへ走っていく。
がたいのいいルーカスは、ひょいっと彼を抱き上げて高い高いする。
フローラもルイトに続いて彼に駆け寄った。
「お父様、今日は確か学院の課外授業だから帰りは遅くなると……」
「ああ、その予定だったんだが、国からこれが届いたので、急いで届けようと思ってな」
そう言ってルーカスが差し出したのは、一通の手紙だった。
ルーカスは三つの国家学院のうちの一つの学長を務めている。
そのため不定期に家を空けることが多い。
そんな彼が急いで届ける手紙ということで、フローラはいつもと違う何かを予感した。
手紙を受け取ったフローラは開けていいかとそんな彼を見る。
それに対し、大きく頷いた。
「これって……」
受け取った手紙は、王宮にある子ども支援所からのものであった。
中にはこう書かれていた。
『フローラ・ハインツェ様
ルイト・キルステン様
ルイト・キルステンを、ルビリア国家学院の幼稚園へ通うことを許可する。
なお、その際の保護者を、王歴577年3月までフローラ・ハインツェが務めることとする。
シュテルン王国 子ども支援所』
フローラとルイトの新生活が始まろうとしていた──。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます!
第二章の始まりとなりまして、大変お待たせいたしました。
まだ少し原稿作業中なので、急遽のお休みあるかもですが、
なるべく更新できるように頑張ります!
そして、クオリティもきちんとあげてお届けします!