第18.5話 再会の幸せ
フローラが国家育児専門師の資格を取得した日から数日が経過した。
再会と果たしたフローラとルイトは、久々に庭で遊んでいる。
「フローラ、うではもうだいじょうぶ?」
「はい、もうすっかりよくなりましたよ」
教会で野犬に襲われて負った怪我は、ずいぶんよくなっていた。
(アデリナはもうちょっと安静にしろっていうけど……)
怪我をしたと聞いたアデリナはそれはもう驚き、フローラに絶対安静を言いつけた。
これに関しては、フローラの母親であるエミリも同意見で、二人ともフローラを屋敷で見かけては「ベッドで安静に!」と部屋に連れて行った。
しかし、フローラはじっとしているのは嫌だった。
(せっかくルイト様と再会できたのに、遊べないなんてできないわ)
そう考えながら、庭の真ん中で大きく伸びをする。
フローラの伸びを見たルイトは、彼女と同じように自分も空に向かって手を挙げて背伸びする。
「ふふ、ルイト様も伸びですね」
「うん、フローラといっしょ!」
ルイトはお日様の下、満面の笑みを浮かべた。
(ああ~! なんて可愛いの~!!)
フローラの胸は幸せでいっぱいになる。
すると、ルイトは庭に片隅に置かれていたボールを取りに行き、フローラに声をかける。
「フローラ、みて!」
そう言ってルイトはフローラに向かってボールを投げた。
投げられたボールは見事にフローラの目の前に届き、彼女はそれを受け取る。
「ルイト様……」
ルイトは得意げにフローラに笑みを見せると、彼女はルイトの成長ぶりに驚く。
「いつの間にこんなこと……」
すると、ルイトがフローラの疑問に答える。
「あのね、アデリナとれんしゅうしたの! すごい?」
「す、すごいです!」
フローラはそう言うとボールをゆっくりルイトへ投げ返す。
彼女からのボールを両手でしっかりと取ったルイトは、フローラに向かって叫ぶ。
「いくよー!」
ボールは再び放物線を描き、フローラのもとに届いた。
(私が資格の勉強をしている数日の間に、こんな成長するなんて……)
子どもの成長の早さを感じ、フローラは感心する。
そんな時、ある人物が来訪した。
「やあ、元気にしているかい?」
「殿下!」
フローラは声をあげたが、それ以上の大きさでルイトが彼の名を呼ぶ。
「ヴィル!」
「そう、ヴィルだよ。フローラ、名前で呼ぶ約束だっただろ?」
「そ、そうでした。ヴィル様……」
いまだ慣れない名前呼びに、少し照れが含まれる。
そんなフローラのわずかな照れをヴィルは見逃さず、彼女の耳元で囁く。
「ふふ、名前で呼び合うなんて恋人みたいだね」
「なっ!」
ヴィルの甘い一言でフローラの頬はどんどん赤くなっていく。
そして、首を左右に振って反論する。
「そ、そんなっ! 殿下と、こ、恋人だなんてとんでもないことです」
「そう? 僕は君と恋人になれるなら、嬉しいんだけど」
「ですが、殿下には婚約者の方とか……」
「いないよ」
「え……?」
「僕に婚約者はいない」
その言葉を聞いたフローラの心臓はドキッとする。
(どうして私、ちょっと安心してるんだろう)
ヴィルは再び笑みを浮かべて言う。
「どう? 安心した?」
「し、してません!」
そう言ってフローラはルイトの手を握ってヴィルから離れていく。
「さ、ルイト様。私と遊びましょう」
「ヴィルは?」
「ヴィル様はお一人でゆっくりなさりたいそうです」
フローラは背中のほうで「そんなこと言ってないんだけどな」という独り言が聞こえたが、気にせずにルイトとボールで遊び始める。
少し拗ねた彼女の様子を見て、ヴィルは謝る。
「ごめん、機嫌直して?」
「嫌です」
フローラはぷいっとわざとらしく顔を背けた。
「もう機嫌直してよ~」
(ふふ、いつもからかわれているので、お返しです)
そう思いながらもフローラはこの三人で遊ぶ時間が楽しかった──。
少し第二章へと繋がるお話を更新しました!
皆様、いつも読んでくださってありがとうございます!!