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第14話 殿下と床を共にする!?

(一緒に寝る……ヴィル様と……?)


 フローラは状況が理解できない。

 それに比べてヴィルは余裕の表情である。

 彼はベッドに手を向けて、「さあ、行こう」とばかりに彼女を誘う。

 フローラは目を泳がせながら戸惑いの声をあげる。


「ですが、殿下ともあらせられるお方と床を共にすることは、私には……」

「できないの?」


 そう言われてしまうと困るのだ。

 彼に視線を向けると、じっとフローラのことを見ている。


(そ、そんなこと言われても……! 殿下とご一緒に寝るということはつまり、そういうことで……)


 フローラも子どもではない。

 床を共にするということはつまりそういうことではないか。

 あんなことやこんなことと妄想を膨らませて頬を染めている。

 ついには両手を頬にあてて、恥ずかしそうにヴィルに背を向けた。


(どうしましょう……こんな状況になるなんて聞いていません!)


 すると、そんなフローラにヴィルの甘い声が襲う。

 

「ふふ、安心して。ベッドは二人用の大きなものだからゆったり寝られるよ。でも、僕は君と密着して寝たいけどね」


(そんな甘い声で言わないでください! 吐息が、吐息が耳にかかって……)


 フローラの頬と耳は真っ赤だ。

 けれども、彼の甘く蕩けるような攻撃は止まらない。


「ほら、こっちにおいで」


 彼はそう言うとフローラの手を引いてベッドに座り、彼女を自分の膝の上に座らせる。


「ヴィル様っ!」

「ふふ、今度は名前で呼んでくれた。このまま君の反応を楽しんでもいいんだけど」


 彼はフローラを抱き上げると、そのままベッドに寝かせる。

 そうして自身もその隣に横になり、彼女に腕枕をした。


(ヴィル様の腕、逞しくて男の人の腕って感じ……って! 私、こんな時に何考えて!) 


 フローラの脳内は忙しい。

 ときめきと背徳感に襲われつつ、なんとか理性を取り戻そうとしている。

 しかし、彼女に追い打ちをかけるようにヴィルは彼女の長い髪を掬い取ってちゅっと唇をつけた。


(殿下の唇がっ!)


 彼は甘い罠で彼女を攻めつつ、この行動の理由を説明する。


「一応ね、資格取得のカリキュラムとして講師と生徒は期間中生活を共にするという決まりがあるんだ」


 その言葉を聞いた時、フローラは気持ちの高ぶりは収まってしまう。


「あ、そうだったんだ……」


 思わずそう口にした。


(ヴィル様が私と共に寝るのは、「決まり」だからなのね)


 彼の言動に納得すると、なんとなく寂しさを感じた。


(ちょっとがっかりして……なんて、変よね)


 そうして考えていると、彼女は次第に眠気に襲われる。


「フローラ……?」


 ヴィルは顔を覗いて話しかける。

 すると、フローラはうつらうつらしながら、一生懸命言葉を紡ぐ。


「資格講座の一環なら……仕方ない、ですね……ヴィル様と、一緒に……」


 彼女は最後まで言い終えることなく寝息を立て始めた。


「う、嘘だろ……」


 あまりの警戒心のなさにヴィルも驚く。

 しかし、それがなんとなく彼女らしさのような気もして笑ってしまう。


「本当に君は、面白い子だよ」


 そう呟くと、彼はフローラに布団をかけた。

 そして、愛おしそうに見つめながら彼女の頬に触れて微笑む。


「昔と変わらない。真っすぐで清らかで、でも……」


 ヴィルは彼女の頬に唇をちゅっとつけた。


「美しくなった。もう逃がしはしないよ、必ず僕に惚れさせてみせるから」


 ヴィルは灯りを消して、静かに部屋を後にした──。



 一方、ルイトはというと王宮の一室にて面倒をみられていた。

 その傍らにはフローラの侍女であるアデリナの姿があった。


 実は王宮へ来た際に一時はおとなしくできていたものの、フローラもアデリナもいないことでルイトが大泣きしてしまったのだ。

 フローラの講師中だったヴィルはそのことを聞きつけると、国王に直訴してアデリナを呼び寄せることにした。

 なんとか今は機嫌を直して、アデリナとボール遊びをしているところである。


「ルイト様、それっ!」

「わっ!」


 ルイトは走るのが得意なのだが、ものを使って何かをすることが苦手であった。

 それをなんとか克服しようとボール遊びで感覚を養っている。


(ルイト様、なかなかうまくならないですね……)


 遊びを始めて三十分ほど経つが、一度も床に落とすことなくつかめたことがない。


(まずは近くの距離から、少しずつ離れてみましょう)


 アデリナはそう考えると、ルイトに二歩ほど近づいて声をかける。


「ルイト様、いきますよ~! せーのっ!」


 すると、ルイトはアデリナの投げたボールを初めて取った。


「出来ましたね!」

「うんっ!」


(よし、一歩だけ今度は下がって……)


 アデリナは床についた膝を一歩下げた。

 そして、さっきよりも高めにふわっと投げる。


「あっ!」


 しかし、ボールはルイトの手をすり抜けて転がっていく。

 ルイトは走ってボールを追いかけるが、急に立ち止まってしまう。

 その行動を見たアデリナは悪い予感がしてくる。


(まずい、機嫌が悪くなってしまったかもしれませんね。そろそろ一時間経つ頃……。子どもだと集中力が切れてしまってもおかしくないです)


 アデリナは急いでルイトに駆け寄っていく。

 すると、彼は涙ぐみながら俯いていた。

 彼女はにっこり笑顔を見せて言う。


「ルイト様、一旦おやつにしましょうか! アデリナも疲れてしまいました~」


(おやつよりも一度お休みさせたほうがよいかもしれませんね)


 そう考えて彼を抱き上げようとした時、彼は首を左右に振って拒否した。


「どうしました? ルイト様」


 じっと黙ったまま立ち尽くしている。

 やがて、ルイトは小さな声で話し出す。


「……ばる」

「え?」

「ぼく、がんばる」


 顔をあげた彼はしっかり前を向いていた。

 そしてもう一度ボールを投げる準備をしている。

 彼はアデリナの準備を待っているようだった。


「ルイト様……」

「フローラとあそびたい。ボールできるとこみてもらうの!」


 彼は願いを叫びながら、力いっぱいボールを投げた。


(そっか、お嬢様のためだったのですね。お嬢様と遊びたいから、だから……。お嬢様、ルイト様も頑張っておりますよ。だから、絶対に試験に合格してください!)


 ルイトの投げたボールは、見事アデリナの腕の中に収まった──。




 翌朝、フローラの資格取得二日目が始まった。

 しかし、フローラは疲れ切ってよく眠っている。


「ん……」


 朝の弱いフローラはシーツにくるまって、なかなか起き上がれない。


(眠い……)


 まどろみを続けていると、甘い声がフローラの耳に届く。


「そんなにお寝坊さんしてると、僕が食べちゃうよ?」

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