第13話 あなたが講師、ですか?
(ヴィル様がどうして……)
状況が呑み込めないフローラに、ヴィルはあっけらかんという。
「だって、僕が講師だから」
「え、講師……」
「そう、講師。君の今日から6日間の資格講師」
さすがにフローラもこの展開は予想していなかった。
あまりの驚きと混乱で動きが止まってしまう。
(私の資格の先生が、ヴィル様……? でも……)
彼女は必死に思考を整理してみる。
しかし何度考えても自分だけでは答えでなかった。
だから、彼に一つずつ質問していく。
「国家育児専門師って、プラチナ以上の方が講師としていらっしゃるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「殿下はさっき講師と言いましたが……」
フローラの発言を聞いたヴィルは彼女に近づく。
そして、彼女の顎をくいっとあげた。
「へ……?」
「僕はプラチナ資格者だよ」
プラチナ資格者のブローチを見せ、彼はにやりと笑った。
「安心して。じっくり、こってりしごいてあげるから、さあ、フローラ一緒に頑張ろうか。それと、殿下じゃなくてヴィルって言う約束でしょ」
(これは、とんでもない六日間になってしまうかもしれません……)
あまりにもニヒルな笑みがフローラに向けられた。
資格取得の授業はすぐに始まった。
「違うっ!」
「す、すみません……」
ヴィルの怒号が部屋に響き渡る。
フローラは特段勉強が苦手というわけではないが、今回のカリキュラムは大変厳しく感じた。
内容の難しさよりも、短期間すぎるというのが最大の難点となっている。
「では、子どもにあげてはならないもので代表的なものは?」
「はちみつ、です」
「正解。ちなみに卵なども昨今では死亡例があり、あまり小さな子どもにあげることは避けたほうがよい」
(ルイト様は四歳で確か卵は普通に食べていたはず……でも、気をつけないとね)
分厚い教科書の重要な部分をノートにメモしていく。
「ルイトは四歳だね。この頃は好奇心旺盛だから、様々な事故に注意しなければならない。貴族の家は広いから目を離さないようにして、あと落としたら危ないものは手が届くところに置かないこと。いいね?」
「はい。危ないものは……落ちないようにする……と」
ヴィルの言葉を聞き逃さないよう、集中して耳を傾けた。
こうして1日目は終了した。
あまりの忙しさで食事も部屋で取って勉強しながら食べたほど。
「じゃあ、今日はこれで終わり! お疲れ様」
「ヴィル様、ありがとうございました!」
授業終了の合図と共に、フローラはうんと伸びをした。
その瞬間、一気に眠気に襲われる。
(うう……眠い……)
勉強は10時間以上行なわれた。
もちろん休憩を挟みながらではあるものの、体に疲労がたまる。
そして、今回は短時間の取得ともあって特別にこの部屋に住居環境も整えられていた。
そのため、彼女はこのままここで寝泊まりすることになっている。
(ああ、あの後ろのベッドに今すぐ飛び込みたい……)
それほどまでに彼女の疲労が蓄積されていた。
しかし、部屋にはまだヴィルがいる。
第一王子である彼の前でだらしない姿は見せられない。
(仕方ない、ヴィル様がお戻りになるまで待とう)
そう思っていると、ヴィルがフローラに告げる。
「さあ、そろそろ寝ようか」
「かしこまりました。ヴィル様、おやすみなさいませ。明日もよろしくお願いいたします」
(よかった、ようやくこれで寝られる)
ヴィルをドアまでお送りしようと待っているが、彼は一向に部屋を出ない。
「あの……?」
不思議に思いフローラは首を傾げた。
しかし、彼はそんな彼女に向かってにっこりと笑って告げる。
「さあ、一緒に寝ようか。フローラ」
「え……?」