第9話 眠い、眠い、眠い、眠い
「あははは! フローラ! あ~そぼお!」
「ルイト様……その、もうさすがに眠らないと……」
「ううん! ぼく、もっとあそぶ~」
ベッドの上でルイトは嬉しそうに飛んだり跳ねたり楽しそう。
そんな彼とは反対に、フローラの顔色は悪い。
(ああ……やっぱりアデリナの予想は当たったのね)
『アデリナの予想』というのは、先ほど伝えられた言葉。
耳元で告げられたそれをフローラは半信半疑で聞いていた。
『お気をつけください、お嬢様。この様子だと、ルイト様はまだ遊ぶ気満々なので、おそらく寝ません』
この悪魔の予言はまさにその通りとなった。
(さすがアデリナだわ……)
侍女の勘に唸っている間も、ルイトは遊んでいる。
おもちゃを箱から出しては床を滑らせて遊ぶ。
さらに、ベッドにブロックを律儀に一列に並べていく。
その顔つきはまさに職人のよう……。
(そうか、ルイト様はお昼寝したから元気なのね……)
本日ルイトは二時間ほどお昼寝をしており、朝の庭遊びの疲れは彼から消えている。
一方、普段運動をしないフローラはヘトヘトで体中が痛い。
かくれんぼと侮るなかれ。
走って隠れる場所を探し、そして隠れ場所に合わせて見事に体を変形させなければならない。
(しゃがんだ足が痛いし、腰も痛い……)
フローラの体は悲鳴を上げていた。
(眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い、眠い……)
必死に目を大きく開くが、瞼が閉じていく。
(ああ……だめ……)
自らの脆弱な意思に負けたフローラは、目を閉じてしまう。
ふと意識が飛びそうになった瞬間、ルイトが彼女の袖を引っ張る。
「フローラ、みて~! クマさんごはんたべたよ~!」
「うん、ご飯食べたねー」
なんという棒読みだろうか。
まったく抑揚もなければ声に張りもない。
申し訳程度に開けられた瞳もすぐに閉じられていく。
(アデリナも、世のお母様方も、こんなに苦労をなさっているの? それに、毎日こんな……なんて体力のいること……)
フローラは「子育て」の認識が甘かったと猛烈に反省した。
「ねえ、フローラ」
「なんですか?」
今度はどんな遊びへの誘いだろうか。
そう思っていた彼女だったが、彼は発したのはクマさんとのおままごとでも追いかけっこの誘いでもなかった。
「ママはどこ?」
「あ……」
「メリーは?」
(メリーって、公爵家の侍女さんかな? そうだ、私たちは事情を知っているけど、この子にしてみれば、いつも遊ぶ私とずっと遊んでいるだけで、いつか家に帰るものだと思っている。いえ、むしろ三日も両親と離れて過ごすことができただけでもすごい)
そのことに気づいた瞬間、フローラは言葉を失ってしまう。
(なんて言えば……ルイト様に、子どもにわかるようにどう説明すれば……)
彼女が思案している間もルイトは不安そうだった。
フローラは大きく深呼吸すると、ルイトを膝に乗せて優しく語りかける。
「ルイト様」
「ん?」
「ママとパパ、それにお兄様は……またいつか会えます。きっと、だからそれまで私と一緒に遊んでいましょう」
しばらくの沈黙の後、ルイトはついに俯いてしまう。
けれど、すぐに顔をあげると、フローラに笑顔を見せた。
「うん、フローラと遊ぶ!」
それ以降、ルイトは再び遊び始める。
一時間ほどした後、彼は疲れたのかついに眠った。
(よかった……)
彼が眠ったのを見て安心し、フローラも気を失うように眠ってしまう。
しかし、先ほどの自らの言葉が間違いだったことに気づいたのは翌朝だった。
「うぅ……」
まだ体の痛みが残っていた。
ゆっくりと目を開くと、隣にはルイトはいない。
「ルイト様っ!?」
フローラの眠っている間に、ルイトがいなくなってしまっていたのだ。
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