プロローグ
暖かい日差しの中で、少女と一人の子どもがかくれんぼをしていた。
「ルイト様、み~つけた!」
「わあっ! フローラ! みつかっちゃった~」
フローラと呼ばれた少女は、子どもをぎゅっと抱きしめる。
まだ四歳のルイトは、そんな少女の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
「ねえねえ! たかいたかいして~!」
「ええ~、一回だけですよ~?」
ルイトは甘えた声で少女にせがむ。
しかたがないと言った様子を見せる少女も、なんだかんだこのルイトが可愛くて仕方ない。
高くルイトを抱き上げた少女の顔は穏やかだ。
自分の背よりはるかに高いところに到達したルイトは、嬉しそうにきゃっきゃと声をあげる。
フローラは再びぎゅーっと抱きしめると、今度はルイトの頬をぷにぷにと触った。
「もう、いつもぷにぷにする! やだあ~」
「ルイト様のほっぺは、ぷにぷにで気持ちいいんですよ~」
二人はじゃれ合って本当の姉弟のように遊んでいた。
そんな幸せな時間も束の間で、遠くの方からルイトを呼ぶ声がした。
その声を聞いたルイトは、体をビクリとさせて怯える。
「ぼく、いやだ。お兄様のとこ、行きたくない……」
先程までとはうって変わって、彼の声は震えてか弱い。
さらに目をかたくつぶって今にも泣きそうな顔をしているではないか。
(ルイト様、もう少しご辛抱ください。もうすぐ、もうすぐであなたをお救いできますから。そうしたら……)
ルイトの怯える様子を見た少女は心の中でそう呟く。
そして、彼を宥めるように優しく頭を撫でてあげた。
「大丈夫です、またすぐ会えますよ」
「ぜったい?」
「はい、絶対お約束いたします」
フローラの優しい笑みにルイトはうんと一つ頷いて、彼は兄の方へと走っていった。
その折、何度も振り返ってはフローラのほうを見つめる。
少女は彼が安心するように微笑んだ。
やがて、ルイトの姿が見えなくなると、少女の顔は真剣な顔つきになる。
(ルイト様。必ず、あなたを助けてみせますから……)
ルイトは少女──フローラの婚約者であるディーターの弟であったが、彼ら兄弟は母親が違ったためにルイトは兄ディーターに虐げられていた。
婚約者として過ごす日々の裏で、フローラはこうした現状に心を痛めていた。
なんとかして幼いルイトを救ってあげたいと願った彼女は、自身ができる唯一の方法で彼を救うことを計画する。
そして、ルイトを救うための「ある計画」は着々と進められていき、その計画は明後日の卒業式でおこなわれることとなる。
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