俺達は変人だ、誰かと比べるなんてバカバカしい。そんな暇なんてないだろ?
新年度がスタートした。
年度末の多忙と、季節の変わり目。
迂闊にも体調を崩してしまった俺は、連載作品の執筆も止まってしまい、2週間くらい仕事と休息に専念している。
ここ『小説家になろう』サイトのユーザーインターフェイスがガラッと変わった事も、執筆離れに影響を与えたかも知れない。
個人的にはこの変化、嫌いじゃないのだが、慣れないうちはどうしても身構えてしまうし、面倒になってしまうものだ。
とは言うものの、近年は小説やエッセイ、そして30年も昔から作詞作曲をしてきた俺は、創作活動から離れてしまうと落ち着かなくなる。
具体的にはひとりの時間、或いは運転中などに、これまでの人生における「黒歴史」みたいなものがフラッシュバックしてしまう。
子どもの頃の失敗やバカ騒ぎなら、むしろ笑い飛ばしてしまえるだろう。
しかしながら、思春期の後悔や社会人になってからの不義理などはいつまでも忘れられず、車の運転中にさえ対向車線に出て事故死してしまう、そんなシミュレーションが脳裏に浮かぶ事さえあったのだ。
やるべき事をやっていないという後ろめたさみたいなものが、俺を創作に向かわせようとストレスを与えているに違いない。
そして、これを読んでくれている皆も共感してくれると思うのだが、創作活動をする様な人間は自分の行いだけでなく、他人の行いも部分的に詳しく覚えているものである。
特に自分が傷ついた経験に対しては、その原因になった他人の言葉や行いを覚えているだろうし、許そうと思っていてもなかなか許せないだろう。
自分のこの粘着性が嫌でたまらないという人は沢山いるだろうし、いわゆる『オタク』や『陰キャ』というカテゴリーに分類されてしまう様で、俺も嫌いだ。
ただ、職場の仲間や久しぶりに会った同級生との昔話になると、驚く事がある。
彼等は昔話について、本当に大きなイベントや印象的な出来事しか覚えていない。
そして俺の記憶による追加情報に、「凄いな、よくそこまで覚えているな」と、ポジティブに感心してくれるのだ。
この評価は勿論、それなりの仲で、悪い印象を持っていない相手同士だから素直に喜べる。
だが裏を返せば、例えば俺が昔いじめられていたとして、いじめっ子が俺にした事を覚えている訳がないという証明にもなるだろう。
創作活動をする様な人間の大半は、普段の生活ではともかく、創作家としての自己愛や自意識は間違いなく高いはず。
だが一方で、常に自分以外の人生や故郷以外の景色にも憧れがあり、多彩なキャラクターの生き様や、感性豊かな風景を描き出そうと苦心しているはずだ。
辛い過去を自分の中だけで消化する事は難しいし、苦しく時間がかかる事なのだが、ここに他人を巻き込んでも何の収穫もない。
嫌いな相手を許す必要はないが、創作に役立つ事実や感情だけを残して余計な怨念は忘れ、前に進むしかないだろう。
何が言いたいのか。
つまり俺達は変人なのだ。
世間一般の人達をいとも簡単に驚かせる個性や価値観に対し、どこか誇らしげに、また、どこか引け目も感じている変人なのだ。
激動の世界と情報の洪水の中にいる変人は、人の心をもてあそぶ刹那的な思想や価値観から見れば、格好の攻撃対象となるだろう。
また、対外的な成果がなければ自己肯定が出来ない性分ならば、いつの日か安全な隠れ家から他人を攻撃するだけの敗者に、自ら成り下がってしまうだろう。
自分を誰かと比べるなんてバカバカしい。
比べるのは、誰かが生み出した生き様や風景にするべきだ。
作家なら沢山本を読め、ミュージシャンなら沢山音楽を聴け。
これは創作家にとっては常識で、今では本業以外の芸術も時代を問わずに触れる事が必須と言っていいだろう。
プロとして創作活動を行いたいのであれば、新しい作品に触れる事は何より重要。
だが、プロになるというこだわりがないのであれば、どんな芸術であれ古い作品に触れた方がいいと思う。
その理由は、故人となった作者と、今生きている自分を比べる必要はなくなるからだ。
自分が「故人」というカテゴリーに入ってから、自分が知らない誰かから比べられる事があれば、その時あの世から聞いていればいい。
故人の作品は、どれほど優れていようが、今を生きる自分にとってのコンプレックスにはならない。
作品だけではなく、その生き様や普段の生活まで、残された情報全てが教材だ。
俺の好きな故人の作家やミュージシャンには、何のドラマもなく、普通の努力で何とか暮らせるくらいに稼ぎ、庶民の店に入り浸り、庶民のカンパで闘病し、貯金も残さず天に召された人間が山ほど存在する。
俺は、物心ついた時から今まで、華やかな世界にだけ興味があった訳ではない。
それが今、自分が変人である事を自覚しながらも、他人との比較で憂鬱になったりしないメンタリティを育てるのに役立っていた。
俺達は、いや、創作家は変人だ。
誰かと比べるなんてバカバカしいし、そんな事をしている暇はない。