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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第六章 織田家の藤吉郎(木下城主編) 弘治三年(1557)~
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58 浮野の戦い 上

皆様お久しぶりです、大変お待たせ致しました。



 永禄元年(1558) 七月一日

 尾張国春日井郡 清州城 大広間 

 

 清州城の大広間に諸将が集められた。

 筆頭家老である佐久間信盛を始めとした重臣や、俺たち馬廻り衆を筆頭にした近習、新たに組織された弓衆や鉄砲衆など錚々(そうそう)たる面々である。


「殿の御成~!!!」

 小姓の声が聞こえると、諸将は一同に平伏し信長の入室を待つ。

 暫くすると信長特有のやや速足な足音が聞こえ、広間へと繋がる戸が勢いよく開かれた。


「一同面を上げよ」

 信長の凛とした声が広間に響き渡った。


「此度、者共を集めたるは外でもない。 来たる岩倉攻めの陣容を伝える為じゃ。皆も知っての通り岩倉では三月に左兵衛が父親である伊勢守を追放し家督を簒奪(さんだつ)した。 左兵衛の暴虐により岩倉を始め、尾張上四郡の統治が大きく揺らぐことに相成った。 尾張下四郡を預かる身として左兵衛の行為は到底許されるものではない」


 信長の言葉に多くの家臣が頷いた。

 所謂戦に臨む為のただの大義名分なのだが、信長の声には不思議と説得力が感じられる。


 確か何とかのゆらぎと言っただろうか? カリスマ性のある者が持つ声色があったと記憶しているが、信長もこの声色の持ち主なのかもしれない…


「私利私欲から不当に家督を簒奪した左兵衛は尾張上四郡を治めるに到底値するものではない! それ故当家が岩倉を攻め落としこの尾張国全体に静謐を齎す!!! 者共、岩倉に蔓延る悪を討つぞ!!!」


「「「「「応!!!!!!」」」」」

 信長の一声に織田家が誇る猛者たちの雄叫びが広間を揺らした。



「これより陣立てを命じる。 先ずは第一陣 佐久間右衛門尉、佐久間大学と兵四百。与力に五郎八と九郎左衛門を付ける」


「はっ!!!」

 名を呼ばれた四人が平伏した。


「第二陣は三左じゃ。 副将に五郎左を付ける故こき使ってやれ。 与力は与四郎と又左を付ける」


「かしこまりました」


 利家はまた可成の所か、お互い槍自慢なのもあってほぼセットなのかもしれないな。




 その後も続々と諸将の名が呼ばれていくが、何時まで経っても自分の名が呼ばれない。

 まだ呼ばれていないのは信長率いる本陣だけだ、俺は信長の脇を固めるのだろうか?


「そして本陣は儂と勝三郎と三郎五郎兄者、造酒守と兵三百五十。与力に新助と小平太を付ける。 先の戦の様にならぬよう励むが良い」


「「「はっ! わが命に代えましてもお守り致します!!!」」」


 遂に本陣の守備隊も呼ばれてしまった。これはもしや留守居を命じられるのか!?

 先の戦で手柄を立てた為、此度は他に手柄を譲れということなのだろうか…?



「藤吉郎!!! お主は手勢をいくら出せる!?」

 俺がそう思いながら俯いているといきなり信長に問われた。


「はっ!? はっ!!! 本拠の守備兵を除けば某を入れて七十五は出せまする!」


「そうか、先の戦では二十五じゃったが、よう鍛えたな。 では此度もお主に遊撃を任す。 己の判断で戦場を駆けてみよ!」

 信長はそういうと”やって見せよ”と言わんばかりに笑みを見せた。


「必ずや殿のご期待に沿う活躍を致します!!!」

 俺はそう声を上げ深々と頭を下げた。


「大叔父と佐渡は留守居を頼む。 出立は十二日を予定しておる故、各自抜かりなく備えをした上で再び清州に登城せよ。 これは尾張のその後を占う一戦じゃ、者ども覚悟は良いな?」



「「「「「応!!!!!!」」」」」

 広間には男たちの力強い返答が木霊した。





「おい、最早お主は一軍の将ではないか 羨ましいぞ藤吉」

 広間を出たところで利家にそう言われながら肩を小突かれた。


「お主は以前と変わらず三左衛門殿の隊だったな。 もし窮地に陥るようなことがあったら俺を呼んでも良いのだぞ?」


「阿呆、そんなことはなるわけなかろうが。 俺の槍ですべてを打ち払って見せるまでよ」

 利家はそう言うと鼻を鳴らした。


「それでこそ俺の知る又左よ。 そうだ戦が終わったら俺の城に来い、旨い酒を馳走しよう」


「おう! …今何と言うた?おみゃあ、俺が知らぬ間に城持ちになったんか?」

 利家は思わず目を丸くして聞き返してきた。驚きの余り訛りが出てしまっている。


「なんや、知らんかったんか? ほいじゃ楽しみにしとってちょ」

 俺はそう言って笑いながら固まる利家を置いて木下城へ帰城した。






 同日

 尾張国愛知郡 中中村 木下城 二の丸 修練場


「殿より此度も一隊を率いる許しを得た。 殿は当家の働きに大きな期待を寄せておられる、その期待を裏切らぬようにせなならん」

 俺は家臣を修練場に集めると皆に言い放った。木下城の修練場は評定の際の広間としても用いている。

 俺の言葉を聞き家臣たちは、武士としての誉れと、期待の大きさからかかる重圧を感じているようだった。


「以前の稲生原の戦いでは全軍で出撃したが、此度は領地を守るために兵庫を留守居役に命じる。 兵は最低限しか残せんが、お主なら当たうると信じておる、中村の民と俺たちの帰る場所を頼むぞ」


「はっ! しかと承ります」


「では陣容を伝える。 先ず小一郎、半三、左近、勘兵衛、新五と兵四十五。 大将は俺で副将は小一郎だ。 小一郎は此度が初陣だがやれるな?」


「はっ!」

 小一郎は力強く言葉を返した。 俺ほどではないせよ長秀も平均以上の上背を持ち、武芸も身に着けてきた、これからの木下家を担う武将として後は経験を積むだけだ。


「もう一隊は彦次郎が率いよ。 兵は三十、副将に清右衛門を与力に勘七と佐介をつける。 勘七と佐介も初陣となる、お主も当家に来て日は浅いが経験は嘘をつかん、これからの木下家を担う若い者を頼むぞ」

 

「新参にも拘らず斯様な大役を…感無量にございます。 必ずや殿のご期待に応えられるよう努めまする」

 重勝はそういうと深々と頭を下げた。


「清右衛門は彦次郎の補佐を頼む、俺の傍で学んだことを存分に活かせ、よいな」


「かしこまりました!」


「出立は十二日じゃ、者ども木下家の武勇を尾張国内に轟かせようぞ!!!」


「「「「応!!!!」」」」」






 永禄元年(1558) 七月十二日

 尾張国丹羽郡 岩倉城 城外


 清州と岩倉は現代の道路で凡そ十キロメートル程と近い所に位置している。

 しかし直線上には川が流れており、攻め辛くなっている為信長軍は迂回することを選択した。


 その信長の動きを見た信賢は、三千の兵を率いて浮野へと進軍を開始した。


「こちらの斥候によると敵方は凡そ二千余り。 それに対して此方は三千、連戦連勝の弾正忠家とは言え兵数の差は歴然。この勝負は貰ったものですな」

 浮野への進軍中、そう言って笑う利忠に憤りを感じた信賢は声を荒げた。


「阿呆! お主は稲生原の戦いを覚えておらぬのか!? あの時も上総介は七百余りで千七百の末森を打ち破った。末森には柴田権六や林美作などの猛将がおったにも関わらずだ。 悔しいかな、当家にはあれ程の豪傑はおらん。 数で勝っとるとは言え決して油断ならんぞ」


「こ、これは大変失礼致しました…」

 怒鳴られるとは思っていなかった利忠は馬上で思わず小さくなった。


「だが、其れをそのままにして戦に臨むほど俺は馬鹿ではない。 犬山の十郎左衛門には此方に味方するよう使者を送っておいた。 奴は上総介とは不仲だったはず、下四郡の権利を仄めかせた故、味方するに違いないはずじゃ」


「流石でございます殿!」


「大和守を討ったと言えあれは卑劣なだまし討ちにすぎぬ、我らが殿こそが尾張を統べるに相応しいお方じゃ!」

 信賢の言葉に周りの家臣は口々に賞賛の声を上げた。


「尾張はこの織田伊勢守信賢の元で一つになるのだ!!!」

 そういって高笑いをする信賢、しかし信賢は知らなかった。 


 自身が当てにしている犬山織田家がすでに弾正忠家の味方になっていることを…


織田軍 全容(筆者創作です)


<本陣>兵三百五十

総大将 織田上総介信長

部将 織田三郎五郎信広 織田造酒守信房

与力 池田勝三郎恒興 毛利新助良勝 服部小平太一忠


<第一陣>兵四百

部将 佐久間右衛門尉信盛 佐久間大学助盛重

与力 金森五郎八長近 塙九郎左衛門直政


<第二陣>兵三百五十

部将 森三左衛門可成 丹羽五郎左衛門長秀

与力 前田又左衛門利家 川尻与四郎秀隆


<右備え>兵四百

部将 滝川左近将監一益 坂井右近将監政尚

与力 滝川儀太夫益重 蜂屋兵庫頭頼隆


<左備え>兵四百

部将 佐々隼人正政次 平手五郎右衛門久秀

与力 佐々内蔵助成政 下方左近貞清


<鉄砲衆>兵五十

鉄砲頭 橋本伊賀守一巴 福富平太郎貞家

与力 橋本道一 福富平左衛門秀勝


<弓衆>兵五十

弓大将 中野又兵衛一安

与力 浅野又右衛門長勝 太田又助信定


<遊撃隊>兵七十五

部将 木下藤吉郎秀吉

与力 桑山彦次郎重勝


総勢 二千七十五



<マイナー武将解説>


水野半右衛門利忠(後の本多因幡守利久) 

岩倉織田家に仕えていたが、後に羽柴秀吉、秀長兄弟に仕える。

秀長配下として三木攻めで戦功を上げるなどして頭角を現し、脇坂安治の後任で大和国高取城主となる。

秀長の命で高取城を改修し、日本三大山城や日本百名城に数えられる近世城郭として整備した。


高取城は山城としては珍しく、多聞櫓で連結した大小天守を始め、城内に十七基の三重櫓を備えるなど他には類を見ない威風堂々とした巨城だった。 関ケ原の戦いでは城主不在の合間を狙われ、石田三成に兵を差し向けられたが、この要害を持って撃退している。


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― 新着の感想 ―
久々の更新待ってました!これからも楽しく読ませてもらいます!
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