表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第六章 織田家の藤吉郎(木下城主編) 弘治三年(1557)~
60/65

56 風流踊り


 弘治三年(1557) 七月八日 

 尾張国愛知郡 中中村 木下城


 信長の迷案から半年以上、その間尾張には束の間の平穏が訪れていた。


 史実では四月頃に信広が斎藤家と共謀して謀反を起こしたのだが、この世界でも不発に終わっている。


 意気揚々と後詰めに来たと清州に行ったら、当の信長から「そんな命令は出しておらん」と言われたのだ。


 普段戦が起きれば信長は必ず出陣するのに、何故今ここに!?

 と信広は思ったことだろう。


 信広の処遇は史実と特に変わることなかったようで、少し肩身が狭そうにしているが連枝衆として信長に引き続き仕え続けている。



 俺は新たに加入した家臣と共に領国経営に勤しんでおり、主に旧大秋城周辺の土地の状況把握、それに付随した野盗の排除や領民の慰撫。


 そして拠点となる木下屋敷の改築を重視して行った。



 結論から先に言うと、屋敷だった拠点が城郭と呼べる代物にまで進化した。


 現代では中村公園が位置する場所をそのまま城郭化した為、外堀を含めると東西南北に百十間(200m)と大規模な物となった。



 本丸には俺たちが住むための屋敷や、親父の為に作った御堂がそのまま入り、二の丸には一門や譜代の為の屋敷や武器や食料を収めるための蔵、修練の為の道場が作られた。

 三の丸には清忠の鍛冶場や正信の工房、厩が位置する他、母の希望で畑も作られている。



 本丸横の二重櫓は未だ建設中だが、二重に張り巡らせた堀に土塁と土塀を造成し、各曲輪の門は枡形虎口を採用するなど防御力に磨きをかけた。 

 門の上部は櫓にして矢を射かけられるようにしたので死角はない。



 ちなみに枡形虎口は戦国末期に成立した物なので、この時代のどこを探しても存在しない。

 恐らくこの木下城が日ノ本一の堅城と言えるだろう。 俺が寄せ手ならこの城は絶対に攻めたくない。


 前世での趣味が城郭巡りだったので、つい張り切ってしまったが、冷静になってみるとこれはやりすぎてしまったかもしれない… まあ作ってしまった物はしょうがないのだが…



 この出来映えを見た信長からは「今度どこかで築城をする際はお前に命じる」と言われてしまった。


 これは後の墨俣城か小牧山城のフラグが立ったのかもしれない…




 その信長だが、信広謀反などでひと悶着はあったものの露見することなく、先日無事に男児を出産した。

 俺も抱かせてもらったが、新しい命の誕生に感動して思わず涙が溢れてしまった。


 まあその後に信長が『奇妙丸』と名付けたことにより、その涙も引っ込んだのだが…


「幼名などいつか変わるので何でも良い」と信長は言ったが、やはり奇妙丸はないだろう…

 息子よ… この世界でも逃れられぬ運命だったと諦めて強く生きてほしい。




「殿~! 何方に居られますか?」

 俺がそう思いながら清州方面に視線を向けていると、何処からか俺を呼ぶ声がした。


 この声は…重定か? そこまで考えが及ぶと俺は急いで声の方へ駆けだした。


「すまぬ主膳! お主に踊りの稽古を頼んでおいて忘れておったわ!」


「ここに居られましたか! お探ししましたぞ! 本番は十日後です、大殿はもとよりご家中の歴々や津島衆の前で恥は晒せませんぞ?」


 信長の発案で十日後に津島で祭りが催されることとなっていた。

 史実では秀吉は関与していなかった為気楽に考えていたが、なんと弁慶役を仰せつかってしまった。



 一月前の評定で聞かされた時は、思わず呆け顔を晒してしまった。


 それを隣にいた利家に笑われたが、直後にこいつも弁慶役に命じられていた。 

 人の事を笑うからだ、ざまあみろ。



 他の配役も若干変わっており、赤鬼が平手家当主の平手五郎右衛門久秀、黒鬼が苅安賀城主の浅井新八郎政貞になっていた。 

 ただ史実も平手内膳と浅井備中守だったはずなので、もしかしたら官職名が違うだけで同一人物なのかもしれない。


 実際、餓鬼が滝川左近将監一益、地蔵が小田井城主の織田太郎左衛門信張であり、他の弁慶役は飯尾近江守定宗と伊藤武兵衛で史実と変わっていなかった。



 それにしても踊りは産まれてこの方やったことがない、重定がいなかったらどうなっていた事やら…



「何分芸事には疎くてな… お主が頼りじゃ主膳」


「はっ!」

 俺は本番まで重定と共に、修練場で踊りの稽古に励むのだった。





 弘治三年(1557) 七月十八日 

 尾張国海東郡 津島



 織田家の豊富な財力を支えているのは津島と熱田の津料にほかならない。


 特に津島は津島神社の門前町であることに加え、尾張と伊勢を結ぶ海運の要衝として繁栄を極めており、織田家はその恩恵を得ていた。


 今回の催しは津島の民に対しての労いをすると共に、織田家の力を津島衆に見せつける思いがあるのだろう。

 その方法が風流踊りと言うのが、何とも信長らしい。




「これより当家が誇る武者らが、僭越ながら一つ舞を踊って見せまする。 皆の者どうかご照覧あれ」

 平手の爺様の声掛けで織田家臣の風流踊りが始まった。


 ちなみに風流踊りとは、みやびかな衣装に身を包み、風情に富んだ踊りを小話やお囃子に乗せて踊る群舞である。

 現代風に言うとミュージカルなどが近いのかもしれない。



 皆それぞれが様々な衣装を身に纏って踊る姿に民や津島衆は大いに沸き立った。

 中でも弁慶役の四名の威風堂々とした佇まいには、観客は皆息を呑んでいるようだった。



 しかし会場の視線を釘付けにしたのは信長だった。

 信長の仮装は天人、そして華麗な女踊りをしたのだった。



 弁慶らの前で舞う姿は、まるで静御前のようだったと津島の民は口々に呟いていた。

 それほどまでに信長の舞は美しかった。



 まあ信長の秘密を知る俺たちには冷や汗ものだったが…

 後、出産直後なのにそんなに激しく動いて大丈夫なのだろうか… 俺はそちらの意味でもハラハラしっぱなしだった。




「息災か道空! お主には正徳寺の件では世話になったのう。 そら茶だ、飲むが良い」

 舞い終わると信長は、天人に扮したまま津島の有力者と交流をしていた。


「殿様!儂には勿体のうございます!」


「遠慮せんでええわ! そら、老体には今日は暑かったろうに、扇いでやるでこっちゃこい」


「そんな滅相もない!」

 道空と呼ばれた老人が恐縮しきった様子で受け答えをしていた。


 それもそのはずだろう。 守護代の身分ともあろう人物が、その土地の有力者といえど民に気軽に話しかけるなど本来はありえない。


 しかも高級品である茶まで勧めている… フレンドリーにも程があるだろう…




 後世では第六天魔王と呼ばれる信長だが、実は家臣や民には優しい。

 現代では少しずつその事が明らかになっているが、世間では未だ苛烈なイメージを持たれている。


 確かに自身を裏切った浅井、朝倉に行った仕打ちや比叡山延暦寺の焼き討ちなど、敵対者には容赦しない面もあることはある。そういう意味では仁君などと言う言葉は似つかわしくはないだろう。



 しかし俺の前で民と共に笑いあっている信長は、天女のように美しく慈愛に満ちた姿に映った。


奇妙丸爆誕!!!


産婆などはどうしたのかと言うと、平手の爺様とその奥さんがやりました。

信長は性別を隠していて、おいそれと医者に掛かれない為、平手の爺様が医術を学んでいます。

にしてもこの爺さん何でもできるな…


<史実との変更点>

風流踊りの顔ぶれ

平手内膳→平手五郎右衛門久秀 浅井備中守→浅井新八郎政貞

この二名は調べても詳細が出てこなかったので、同性の織田家臣に置き換えました。

平手久秀は平手の爺様を若くした感じです。 浅井政貞は後の赤母衣衆で秀吉と共に箕作城攻めで活躍します。


弁慶役

市橋伝左衛門→木下藤吉郎秀吉 前野但馬守→前田又左衛門利家

市橋伝左衛門利尚は現時点では斎藤家臣、前野但馬守は岩倉織田家臣なのでそれぞれ置き換えました。 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
信長ってこんな気さくで民思いでもあったのにあんだけ裏切りにあいまくってしまうからな。やっぱ人と人との関係はそんなに上手くはいかないと言うことか。 枡形虎口の原案者を調べたらあの藤堂高虎だったとは。主…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ