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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第一章 中中村の日吉丸 天文六年~二十年(1537~1551)
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04 日吉丸元服

 

 天文二十年(1551年) 尾張国愛知郡 中村郷中中村


 新年を祝うため、親父も久しぶりに帰ってきている。

 本来正月や盆は寺も忙しく、普通は帰ってこられないのだが、今回は俺の元服の儀を行うため特別に帰宅を許されたらしい。


 元服の儀といっても木下家は農家であるため、武家のように冠を被ったり、烏帽子親に名を着けてもらったりすることはない。

 だが和尚曰く、一応長男の元服だし祝ってやれということらしい。

 元服を機に家を出ていこうと思っていることを、直接親父にも伝えられるのはありがたいことだ。



「これで日吉丸も一人前だな。生まれたときはこんに小さかったのにこない大きゅうなるとは…驚きじゃ。」

 酒を飲み、赤い顔をした親父が俺の肩を叩きながらそう言った。


 仮にも出家した身なのに、酒を飲んでいていいのだろうか…。

 まあ比叡山延暦寺の僧侶も、般若湯と言って酒を飲んでいたぐらいだしいいのか。と深く考えずに勝手に納得することにした。


「あんた、もう日吉丸じゃなしに藤吉郎だ。 あんた久しぶりの酒でもう忘れたんだか? だども藤吉郎の作った農具のおかげで、こんなにええ暮らしができるなんて思ってもみなかっただ… ほんにありがとうな藤吉郎」

 母がそう言いながら俺に頭を下げた。


 今母が言ったが元服後の俺の名は史実の通り木下藤吉郎に決まった。


「んだ、藤吉にぃのおかげでおまんまが腹いっぺぇ食えるんだな!おら藤吉にぃみたいな人の所に嫁さ行きたいだ!」


「んだな、旭だったら大丈夫だ。智ねぇはどうするだ?そろそろ行き遅れになっちまうだよ」


「小竹ぇ?おめぇさなんか言っただか?」

 上から旭、智、小竹だ。 智ねぇと小竹、祝いの席で喧嘩はやめてくれ…。 


 旭は天真爛漫な村娘といった感じだ。 少々ブラコン気味な気もするが幼いうちだけだろう。

 確か旭は政略結婚の為、秀吉に無理やり離縁させられて家康の後妻になった。そして間もなく病で没したはずだ。俺が秀吉に転生したからには、旭も幸せにしてあげたいと思う。


 智はいい歳恰好の貰い手が偶々居なかっただけで、好きで行き遅れたわけじゃない。

 史実では三輪吉房の所に嫁に行って、三人の男子を産むはずだから大丈夫だろう。

 長男の秀次はもちろんだが秀勝も秀保も若くして死んでいる。 旭同様史実より幸せな家庭にしてあげたいものだ。


 小竹はこんな冗談を言っているが、誰よりも優しくて賢い奴だ。

 俺が居なくてもこいつが居れば木下家は安泰だろう。

 後世では、秀長が生きていれば豊臣政権は長く続いたかもしれない、と言わしめるほどの人物になるはずだ。俺もお前の力を当てにしている所があるのでぜひ頑張ってほしい。


 俺は全員の顔を見渡してから意を決して口を開いた。


「親父、いや父上。 誠に勝手なことながらこの藤吉郎、この世に生を受けてから1つの大望があり申した。 一農民で終わるのではなく、この腕と頭を使ってどこまでのし上がることが出来るか、試しとうございます。 つきましては誠に勝手ながら、木下の家を辞して立身出世の旅に出とうございます。 どうか旅へ出るお許しを戴きとう存じます」

 そう言って俺は家族へ深々と頭を下げた。


 先程まであんなに騒がしかった場が静まり返った。

 恐らく皆が俺の言葉に驚き、呆気に取られていることだろう。



 永遠とも思われる静寂を破ったのは親父ではなく母だった。



「顔を上げぇ藤吉郎。おらは何となくそう思っていだだよ。 おめを産んだ時おらに日吉権現様の声さ聞こえた気がするんだ。 「日輪の子を頼む」とありゃ聞き違えじゃなかったんだな… おめは特別だったんだな」

 母が当時の事を懐かしむように語りだした。


「俺が止めてもおみゃあは行くんだろ? だったら止めるだけ無駄だ、黙って出てきゃいいもんを律儀なやっちゃ… ただ家を出るならその分大きゅうなってけぇってこいよ、そこらでおっちぬんでねぇぞ。 俺からはそんだけだ。」

 親父がそう言うと兄弟たちも口々に話し出した。



「うちの事は俺たちに任せてけろ!藤吉にぃのようにはいけねぇかもしれんが頑張るでよ!」

 小竹が胸を叩いて言った。


「んだ、おらも手伝うだよ! だから藤吉にぃは気にしんでええよ!」

 別れが寂しいのか少し涙声だが、旭も小竹に続いた。


「んだんだ。ところでどこに旅さ出るだか? 尾張の殿様は焼香をぶちまけたうつけっちゅう話だが…」

 智は行き先が気になるようだ。そうかこの時期まだ信長はうつけ扱いか。



 確か最初は今川家臣の松下加兵衛(まつしたかへえ)って人に仕えたんだよな。俺もそれに倣うとするか…

「今川治部大輔(じぶたいふ)の領国である遠江方面へ行こうと思うておる」


「ほう街道一の弓取りと名高いお方か。なら安泰かもしれんな。」

 親父が頭を撫でながらそう呟いた。やはりこの辺りで一番の有力大名だ、ネームバリューはピカイチらしい。


「武家に仕えるなら月代(さかやき)を作らなかんな、剃刀をおとぅに頼まにゃならん」

 俺の門出を祝うためか母は少し楽しそうだ。 母につられてまた場が賑やかになってきた。


 その様子を見ながら俺はこの家族をどうにか幸せにしてやりたいと、また決意を新たにするのだった。


ジャンル別日間ランキング(歴史)に本作が入っており驚きました。

(日間6位)1/22現在

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― 新着の感想 ―
[一言] 来たる時の為に、諸国の内情や地理を知るのは大事ですな。川並衆とも事前に繋ぎ取るのも手ですなぁ〜
[良い点] 史実と違って秀吉の今後が楽しみです [気になる点] 史実に沿って話が展開していく所からどう成り上がりするのかが気がかりです [一言] やっぱり信長との絡みが重要だと思うので、敵対はして欲し…
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