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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第五章 織田家の藤吉郎(馬廻編) 天文二十四年~弘治二年(1555~1556)
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48 稲生の戦い 中

激戦開幕です!

 

 弘治二年(1556) 八月二十四日 

 尾張国春日井郡 清州城 森隊


「三左衛門殿、先程はお口添えありがたく存じます。 危うく殿に手討ちにされる所でござった」

 俺は軍議の場での礼を言う為、行軍前に可成の隊を訪れていた。



「なあに、気にすることは無い。 お主には大良河原での借りがある故、それを返したまでよ」

 可成はそう言うと、頭を下げる俺の肩を叩いて笑っていた。


「しかし藤吉郎殿は、ようあの場で大殿に言上出来たもんじゃ。 某なら恐ろしゅうてようやらんわ」

 可成の後ろにいた兼友が、わざとらしく身震いをして見せた。


「いや五郎左衛門の心の臓には毛が生えておるのではないか?」

 可成がそう兼友を揶揄うと、森隊の兵たちの中からもドッと笑い声が起きた。

 その和気あいあいとした姿は、とてもではないがこれから戦へ向かう者たちには見えなかった。



「三左衛門殿の所は良いですな。 某も先の撤退戦で共に戦いましたが、この隊は居心地が良うございます」

 俺は兵たちの様子を見てそう呟いた。


「儂の自慢の家臣らじゃ。 儂は家族や、家臣らが笑って過ごせるよう己が槍を振るっておる。 お主も隊を率いる将となるのだ、今のうちにそのような心構えをしておくと良いぞ?」


「お心遣いありがたく頂戴致す、ではご武運を」


「お主の用兵術にも期待しておるぞ? ではまた生きて会おうぞ」

 可成から将としての金言を貰い、俺は森隊を後にした。





 行軍前 木下隊


「この戦いで我らは殿より遊撃の任を仰せつかった。 木下隊二十五名は俺の指揮の下動くこととなる、皆の者覚悟は良いか!?」

 俺は自陣に戻ると、家臣たちに信長から与えられた任務を伝えていた。


 まさかの任に木下隊の兵たちは驚いていた。 特に今回が初陣となる三人はまさか!?と言った様子だ。

 それもそうだろう、まさか隊の初陣でいきなり重要な任務を言い渡されたのだ、実際俺も軍議の場では驚いた。



 俺は今一度木下隊の面々を眺めた。 戦を前にして不安そうな顔をしている者もいる。

 将である四人は別として、兵たちは皆、中中村出身の農兵である為、怖気づくのも無理はない。



 戦の常とは言え、この兵たちが戦後に無事でいられる保証はない、もちろん俺もその中の一人ではあるのだが…

 しかしここで俺たちが倒れれば、故郷の家族や仲間の身も危なくなる。 それを彼らには気づかせてやらねばならない。



 それに加え、将である俺の役目は、この兵たちを一人でも多く生きて家族の元へ帰すことだ。

 俺は覚悟を新たにしながら、隊の皆に語りかけた。



「この戦いは当家が数的劣勢であり、その分戦いは熾烈なものになるであろう。 しかし我らが倒れれば村にいる家族はどうなるか、想像するに難くない。 そうならぬよう我らは身命を賭して戦う必要がある! 我らは僅か二十五名だ、しかし精強を誇る木下隊の二十五名は、この戦況を覆す力があると俺は信じておる!! 俺は先陣で槍を振るう!! お主らは俺の背を見て戦うのだ!! 我らが一丸となれば末森など恐るるに足らん!! 皆の者良いか!? 勝って再び中中村に帰るぞ!!!」



「「「「「うおぉぉ!!!」」」」」

 俺の檄に兵たちは雄叫びを挙げた。

 農兵といえども、兵庫たちが手塩にかけて育てた兵たちだ、覚悟さえ決まってしまえば、並の者たちには負けはしないだろう。


 俺は初陣となる三人に視線を移した。 既に迷いは消え、目には闘志が宿っていた。 流石未来の鬼たちだ。


「清右衛門!半三!左近! お主らは此度の戦が初陣じゃ! お主らの誇る武勇を敵味方に知らしめよ!」


「「「はっ!」」」



「兵庫!お主には多くを語る必要はないじゃろう! 期待しておるとだけ言っておきく!」


「殿の期待を裏切らぬよう励みまする!」

 流石歴戦の猛者は落ち着きが違う。 静かに頭を下げた兵庫だが、その佇まいからは風格を感じた。


「では木下隊出陣じゃ!!!!」


「「「「「応!!!!!」」」」」


 俺たちは戦場へ向け、行軍を開始した。






 弘治二年(1556) 八月二十四日 正午頃

 尾張国春日井郡 於多川付近 稲生原 柴田隊


 末森城から出陣した信勝軍だが、隊を二手に分け、林隊千が名塚砦攻略に向かった。


 そして、残りの千は勝家が率い、砦の救援に向かった信長軍を待ち受けることとなった。



「眼前に織田木瓜と隅立て四ツ目! 先陣は佐々隊と思われます!!!」

 物見に出ていた兵士が、勝家の元にやってきた。


「佐々か… 率いるは恐らく隼人殿か、孫介殿だろう。 相手にとって不足なし! 出るぞ!!!」


「「「応!!!!」」」




 同時刻 佐々隊


「丸に二つ雁金の紋!! 敵先陣は柴田隊!!!」


「織田家きっての猛将が相手か… 内蔵! お主は危うくなったら迷わず逃げよ!」

 孫介は勝家が相手だと知ると、苦虫を嚙み潰したような顔をした。


 小豆坂七本槍の猛将といえども、鬼柴田の武勇には一目置いているらしい。 

 それか己が猛将だからこそ、かえって勝家の強さが分かるのかもしれない。


 孫介は近くに控える成政にそう注意を促した。


「何を申すか兄者!! ここで引いては佐々家の名折れ! 例え骸をこの地に晒すことにになろうとも、引くことは(まか)りなりません!」


「ふん、松に諭されるとはな。 佐々家の武名この戦場に轟かせん! いざ!!!」


「「「「おぉぉぉ!!!!」」」



 今ここに稲生の戦いの幕が上がった。






 稲生原 戦端 柴田隊


「かかれっ!!! かかれぇ!!!! 弓隊放て!!! 槍隊は槍衾で前進せよ!!!」

 勝家は馬上で大声を張り上げながら、兵に指示をしていた。


 信長軍は兵こそ少数だが、全軍をほぼ譜代や馬廻りで揃えていた為、士気が非常に高かった。

 しかし勝家の用兵を前に、次々と討ち取られていった。



「そのお姿! 柴田権六殿とお見受けする!!!  いざ尋常に勝負!!!」

 柴田隊の兵を切り崩し、一人の将が勝家の前へ躍り出た。

 身体にいくつかの傷はあるが、槍を携えた姿は、いかにも武辺者という出で立ちだった。



「あれは猛将山田治部左衛門! 柴田殿お気を付けを!!!」

 勝家の隣にいた兵が叫んだ。


「構わん、儂がやる。 お主らは下がっておれ!!!」

 勝家は下馬すると、槍を構えて治部左衛門の前に立ち塞がった。



「己が一撃を喰らえ!!!」

 裂帛の気合と共に槍を突き出した治部左衛門だったが、勝家には容易く受け止められてしまった。


「ふん、この程度で猛将とは… 清州もたかが知れとるわい!!!!」


「ごはぁ!?」


 勝家はその剛力をもって治部左衛門の槍を握り締めると、残る片腕で槍を繰り出し、治部左衛門の首を刺し貫いた。



「儂は亡き大殿に武勇を見込まれ、下級武士から家老にまでのし上がった男だ!!! 織田家において儂よりも強い物は居らん!!!」


「「「うおぉぉぉぉ!!!!」」」

 勝家の武勇を見た柴田隊の兵は奮起し、佐々隊を追い詰めていった。


 柴田隊千に対し、佐々隊は僅か百。 士気でも上回られた佐々隊に最早為す術はなく、柴田隊の前に飲み込まれるのだった。





 稲生原 信長本陣


「先陣だった佐々隊ですが、柴田勢を前に壊滅!!! 勢いに乗る柴田勢は、三左衛門殿率いる二陣に襲い掛かっております!」


「孫介らは無事か!?」

 先陣が壊滅したという知らせに、流石の信長も驚きは隠せなかった。 焦った様子で伝令に問いかけた。


「佐々孫介殿、山田治部左衛門殿は討ち死にされた模様! 内蔵助殿は不明にございます!」



「くっ… 知ってはおったが権六め、やりおるわい…   右備、左備の将に伝えよ! 三左が押しとどめている間に、挟撃するのだ!」

 歯嚙みしながら指示を飛ばす信長だったが、刻一刻と魔の手が忍び寄っていたことに、未だ気づいていなかった。





 同時刻 稲生原激戦地 木下隊


 遊撃隊を率いる俺は、先陣の佐々隊が崩れ、柴田勢が森隊に襲い掛かる姿を目の当たりにすると、救援の為に森隊へ加わった。



「進め!!! このまま柴田勢を行かせてはならん!! 我らが引けば本陣にいる殿の身が危険だ!!! 各五人組は今から言う将に付け!!! 吾作は兵庫へ! 田兵衛は清右衛門! 権八は半三! 庄助は左近じゃ!!!」



 ここでいう五人組は後の世で言われる物とは違い、古代中国、春秋戦国時代における「伍」に近い。

 まだ多くの兵を動かせない木下隊は、それぞれが精鋭とはいえ、広がると各個撃破されてしまう危険がある。


 その為、乱戦時には各将の所へ集まって互いの背を守りながら、戦う事を推奨した。


 多対一を強いるこの戦法は卑怯に映るかもしれないが、一騎打ちなどの礼儀を重んじる源平の合戦の頃とは違い、効率的な集団戦法が求められる戦国時代なのだ、そんな苦情は受け付けない。



「殿!!! 殿の元には兵が居りませぬ!!!」

 清右衛門が槍を繰り出しながら叫んだ。

 各将に五人ずつ、これで二十四人 確かに俺に付ける兵士はいない。



「構わん!!! 俺の槍を潜り抜けられる者など、ここには居らんからなぁ!!!」

 俺は鳴神を縦横無尽に振り回し、敵を切り刻んでいった。



「皆の者! 俺に続けぇ!!!!」


「「「おぉぉぉ!!!」」」





 同時刻 稲生原激戦地 森隊


「ん? あの声は藤吉郎殿か? 負けては居られぬな のう前田殿?」

 可成は血に濡れた槍を懐紙で拭いながら、隣の利家に声をかけた。


「このままでは藤吉に手柄を取られかねませぬな。 ったく、先日家督を継いだと聞いたら、此度は一軍の将と来た、こうしちゃおられませぬ! 失礼!!!」

 利家は言うが早いか、敵軍へと突っ込んでいった。



「若いと言うのはよいのぉ のう、権六殿?」

 可成は利家を見送ると、眼前に視線を向けた。


「全く。敵とはいえ、生きのいい若武者は良いものでありますな」

 可成の眼前の兵が吹き飛ばされると、血に濡れた勝家が姿を現した。

 無論その血はすべて返り血である。



「三左よ、膝の怪我は癒えたのか? 旧知の中とはいえ、容赦はせんぞ?」

 そう言って勝家は槍を構えた。


「ふっ、敵を気遣うとは余裕だの権六。 攻めの三左の槍の味を心ゆくまで味わうが良い!!!」

 可成はそう叫ぶと、勝家に槍を繰り出した。


 先程の治部左衛門とは段違いの鋭さの槍筋を見て、勝家は思わず身を翻して避けた。



「「うぉぉぉぉ!!!!」」

 ここに二人の猛将の戦いの火蓋が切って落とされた。





 稲生原激戦地 木下隊


 俺たちは依然激戦地で乱戦を続けていた。

 しかし、左右の備えが参戦したことで、柴田勢の攻勢も多少緩んでいた。


 このままなら本陣を守り切れることも能うだろう。


 俺はそう思いふと、森隊の方を見た。

 先程から声が聞こえているが、あそこでは可成と勝家の一騎打ちが行われているらしい。

 両家が誇る最強の武将同士の戦いなのだ、その戦いは熾烈を極める物に違いないだろう。 


 もし俺が、森隊の与力のままだったならば、近くで見られたと思うと少し勿体ない気がする。


 槍術を極める者として、そう思いながらも槍を振るう俺だったが、その時脳に一筋の電流が流れた。


()()()()()()()()()()()()()()

 その事に気が付いた俺は、指笛を鳴らして馬を呼んだ。



「兵庫は居るかぁ!!!」

 俺は馬に乗ると兵庫を探した。


「ここに!!!」

 兵庫は敵を槍で刺し貫きながら、返答した。


 近くを見ると、初陣の三人も五人組を率いて戦っていた。掠り傷などは負っているようだが、それぞれが数多くの敵を屠っている所を見ると、心配する必要はなかったらしい。



「俺は本陣に行く! ここでの指揮は兵庫に任せる!!!」

 俺はそう叫ぶと馬首を本陣へ向けた。


「な、何故本陣へ!? 伝令であれば我らがっ!!」


「殿の身が危ないんじゃ!!!!!」

 そう言いかける兵庫の声を遮り、俺は馬腹を蹴って馬を走らせた。




 史実の通りなら、林隊が本陣に来襲するはず!

 本来なら信房と可成が本陣に居るはずだが、その可成が未だ前線に居る!!!


 そんな状態で、史実より増強された林隊が本陣に襲い掛かったら…


 俺は最悪の想像を頭から振りほどきながらも、本陣へ馬を走らせた。





 暫く馬を走らせた俺の目に広がった光景は、信長のいる本陣へ、猛然と林隊が攻めかかっている所だった。


 本陣は信房の後備を含めても、二百。 そして対する林隊は、名塚砦に抑えの兵を残したのだろうか、いくらか減っているものの、本陣の倍以上の兵力はいるように見える。


 誰がどう見ても絶体絶命の危機に対し、俺のやることは一つだった。




「いざ死地へ参らん!!!!」


 俺は再び馬腹を蹴ると、鳴神を振り回しながら、林隊へ()()()突入した。



「なっ! なんじゃあれは!? 気でも触れたのか!?」

 林隊の兵は俺の姿を見ると驚愕の色を浮かべた。 騎馬武者、しかも単騎なのだそう思われても不思議ではない。



「木下藤吉郎じゃぁ!!! 死にたくなくばそこをどけぇ!!!!」

 俺は信長を救いたい一心で馬を走らせた。



 俺は突き出される槍や、射かけられる矢を幾度となく防ぎ、唯々敵陣を駆け抜けた。


 林隊の包囲を破り、開けた場所に出ると、そこには通具に今にも突き伏せられそうになっている信長の姿があった。



「間に合え!!!!」

 俺は勢いのまま、通具へ突進した。


 落馬したのだろうか、全身を砕かれるような激痛が奔った。

孫介が成政のことを松と呼ぶ一幕がありますが、成政の幼名は伝わっていない為、成政の嫡男、松千代丸からとりました。

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― 新着の感想 ―
まさかのこんなに早く投稿していただくとはありがとうございます。 やはり激戦ですね。可成と勝家の一騎討ちか。これは後世に残る一騎討ちですね。 だが気になるのは信長の窮地を秀吉が助けることが出来るのか? …
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