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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第五章 織田家の藤吉郎(馬廻編) 天文二十四年~弘治二年(1555~1556)
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46 一触即発


 弘治二年(1556) 五月末 

 尾張国愛知郡  鳴海荘 末森城 


 末森織田家の本拠である末森城、その一室に四人の武将が密談をしていた。


「まずは美作守殿よう来てくれた。 儂と並び武の誉れ高い美作守殿がお味方して下さるとは、まさに百人力と言ったものでしょう!」

 そう言って豪快に笑うのは、末森織田家の筆頭家老である柴田権六勝家だった。


 座っているのにも関わらず、その大きさは隠しきれていない。豊かに蓄えられた髭も相まって、熊を連想する男である。



「しかし佐渡守殿はこちらへ降りませんでしたな… 佐渡守殿は弾正忠家の筆頭家老、こちらへ降ってこれば内情は筒抜けだったものを… これは惜しい事をしましたな、美作守殿?」

 そう話すのは、信勝の近臣である津々木蔵人だった。



 津々木蔵人。 信勝が信を置く側近であり、以前の『喜六郎射殺事件』では、勝家とともに大将格として守山城に攻め寄せている。

 出自や諱などの情報が残っておらず、謎に包まれた人物ではあるが、元は信勝の若衆として取り入り、勝家に並ぶ権勢を得たようである。


 信勝に気に入られたとだけあってか、蔵人も美形であった。 しかし性格は良くないようで、史実でも勝家を侮るような行いがあったと言われている。

 今も意地の悪い顔で、通具を詰っていることから、その性根が分かると言うものである。



「その事につきましては某の不徳が致すところ、誠に申し訳ござらん。 ただ兄は、城下で屋敷を構え隠棲するとのこと。 その為、清州へ手を貸す心配は無きことと存じます」


「…しかし美作守殿が味方になったおかげで、こちらの戦力は大幅に増え申した。 恐らく彼方の倍はあるのでは?」

 頭を下げる通具を見て、急いで勝家がフォローをした。


 折角こちらの味方になったというのに、不快な思いをさせる必要はないと言うのに… そう思い、蔵人を睨むが、奴は何ともないといった様子だ。



「しかし大学が裏切った。 次席家老として優遇してやったにも拘らず… まあ良い、裏切った者には、後で目にもの見せてやるわ…」

 そう冷たく言い放ったのは、末森織田家の当主である織田勘十郎信勝だ。

 その声を聞くとバツが悪いのか、三人は思わず閉口した。



 織田勘十郎信勝 信長の同母弟であり、史実では兄である信長に反旗を翻し、後に討たれた武将である。


 破天荒な信長とは反対に、堅実で品行方正であると伝わる信勝だが、実は詳しい資料があまり残っておらず、生年や幼名なども不明である。

 また、諱も複数伝わっており、「信勝」「信行」「達成」「信成」など多くの名がある。


 有能な人物ではあったようで、病床の父信秀に代わって政務を取り仕切っていた記録が残っている。

 もし信勝が謀反をしていなかったら、織田家の運命は大きく変わっていたかもしれない。




「大学は次席家老として、末森の内側も知り得てよう。 兄がその事に気づかんはずがない、恐らくこちらの陣容は筒抜けと考えてよい。 数は多くとも、内情を知られては戦えん、なにかここから巻き返せる策はないか?」


「兵の配置を変えることはもちろんですが、彼方の力を削ぐことも考えねばなりませぬな…」

 信勝の言葉に考え込む大男二人、対して蔵人は涼しげな顔をしていた。


「蔵人、お主何か言いたそうな顔をしておるな? 策があるのか?」


「そうですな、一つあり申す。 彼方の力を削ぐ妙案が。 筆頭家老である柴田殿を差し置き、某が堂々と献策するのは(いささ)(はばか)られるかと思っておりましたが…」

 蔵人は勝家を一瞥すると、つらつらと話し出した。 


「勿体ぶらずにはよう言わんか」

 その姿に流石の信勝も痺れを切らし、若干苛立ちながら声をあげた。


「守山ですな」


「守山というと、今は安房守殿が入られているあの守山か?」

 蔵人の言葉に通具がそう反応した。


「その守山以外に何があるのですか。 守山城には坂井喜左衛門と角田新五という両家老が居ります。 その坂井の息子である孫平次が、安房守にいたく気に入られたようで、先日若衆に取り立てられたとのこと。 安房守の寵愛は相当なもので、そのことに角田が諫言(かんげん)をしたのですが、その事が原因で安房守には煙たがられているようです」


「そうか、それは良いことを聞いた。 蔵人、手の者を使い守山に噂を流せ。 『孫平次は何れ重臣足り得る器である。 そして安房守に意見した角田は何れ失脚するだろう、その後釜には孫平次が付く』とな」


「承知仕りました。 角田もこちらへ引き込みまするか? 事を起こした後に、逃げ込むところがあれば奴も踏ん切りがつくことでしょう」


「我が一門を手にかけたものを近くに置いておくのは少々思う所はあるが、今はそうも言ってられんからな。 構わん、お主がやりたいようにやれ。 では評定はこれまでとする」


「かしこまりました」

 そう言って蔵人は部屋を後にした。


 勝家と通具も持ち場に戻ろうと立ち上がった所、信勝に声をかけられた。


「新しく入った美作は兎も角、権六… お主は戦には強いが、謀になるとてんであかんのお? もうちっと頭を使わねば、立場も危うくなろうものだ。 そうならぬよう励むのだぞ?」

 そう言い残すと信勝は去っていった。


「…申し訳ござりませぬ」

 勝家は奥歯を噛みしめながら、そう呟いた。





 弘治二年(1556) 六月初旬 

 尾張国春日井郡  清州城 中庭


 中庭で弓の修練をしていた信長に凶報がもたらされた。


「喜蔵が討たれたか…」


「他にも家老である坂井喜左衛門と、その嫡子である孫平次が城内で死んでおりました。 下手人は同じく家老である角田新五であると思われます。 その角田ですが、既に城内に姿がなく、最後に目撃した者によると、末森に向かったのではないかとのこと」


「守山城は混乱しておるな… 今は誰が指揮をしておるのだ?」


「丹羽源六郎殿が騒動を収めようとしているようですが、城内、城下ともに未だ激しい混乱が続いております」


「家老が家老を殺したのだ、簡単な事ではこの騒動は収まらん… 如何致すか…」

 信長は思案しながら、弓を引いた。 放たれた矢は、的を掠め安土に刺さった。


「っち、心が乱れては矢も乱れるか… 孫十郎だ! 前城主であり、出奔した孫十郎を探せ! 奴なら守山衆を懐柔できよう! それに元はと言えば奴が逃げたからこうなったんじゃ! 喜六郎の事は不問にする故、戻ってこいと伝えよ!!」

 信長は怒りのままに、手に持った弓を地面へ叩きつけながらそう怒鳴った。



「か、かしこまりました!!」

 余りの迫力に若干気圧されながら、使者は庭から出ていった。



「大学が裏切ったことに対しての意趣返しか… 勘十郎め、やりおるわい…」

 信長は伝令が出ていったのを確認すると、足元の弓を拾い、再び矢をつがえた。 

 放たれた矢は的の中央を射抜いていた。



「じゃが、儂も簡単にはやられんぞ?」

 信長はそう言うと、笑みを浮かべた。





 信長の命により、捜索された信次だが、尾張領内で浪人している所を発見され、信長の前に召しだされた。


 最初は殺されるのではないかと戦々恐々としていた信次だったが、赦免されるだけでなく、守山城主にも再び任ぜられると知ると、滂沱の涙を溢れさせて感謝を述べた。


 しばらく混乱していた守山城だが、以前の城主である信次が戻ってきたことで、徐々に落ち着きを取り戻していった。



 しかし、一連の事件で信長と信勝の対立は表面化し、また新たな戦の炎が巻き起ころうとしていた。





 弘治二年(1556) 八月二十二日 

 尾張国春日井郡  清州城 広間



「申し上げます!!! 末森城兵が篠木三郷で刈働きを行ったとのこと!!」


「篠木は我らの直轄領!! まさか!?」

 伝令の言葉に広間の家臣は騒めいた。



 刈働きとは、敵領内の田畑に実っている作物を刈り取ってしまうことである。

 一見地味だが、自軍の兵糧を増やし、敵軍の兵糧を減らすことができるという、非常に理にかなった策であった。


 ちなみに刈り取る時間がない時には、田畑や民家に火を放つ『焼き働き』をしたそうだ。

 信長は近江攻めの時に、よく焼き働きをしていたらしく、こちらも敵軍に打撃や恐怖感を与えることができる。


 これを信勝が信長にやったということは、明確に敵対することを表明した。所謂(いわゆる)()()()()に他ならなかった。



「恐らく勘十郎は砦を築き、愛知郡、山田郡へ圧力をかけようとするだろう… 大学!! お主は急ぎ名塚に砦を築きそこに入れ!! 名塚は於多井川を渡った地点で、抑えの要衝だ、しかと守り抜け!!!」


「はっ! この身に変えましても必ずや!!!」

 信長の下知を聞き、盛重は声を挙げた。



「皆の者!! この織田弾正忠家の当主は儂一人だ! 奴らは儂から家督を奪おうとする逆賊にすぎん! 大儀は儂らにある!!! 儂に続け!!!」


「「「「「「応!!!!!」」」」」」





 同時刻

 尾張国愛知郡  鳴海荘 末森城


「刈働きのことは兄上の耳にも入ったことだろう… 兄上はきっと俺の考えを読んで、名塚辺りにでも砦を築くに違いない…」


「その砦を奪いに行けば戦が起こりますな」


「皆の者! 機は熟した!!! 砦を奪いに行けば、必ず奴らも出陣してくる!!! そこで決戦だ! 敵は寡兵で精強を誇る我が軍には遠く及ばない!!! 権六!美作! お主らの武勇を清州の弱兵共にしかと見せて参れ!!!」



「「はっ!!!」」



 ここに織田家の家督争いである『稲生の戦い』が勃発しようとしていた。


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― 新着の感想 ―
早速読ませてもらいました。いよいよ稲生の戦いか。この戦いで主人公がどう活躍するか楽しみですね。まあそれと同じくらい利家の活躍も楽しみです!
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