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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第五章 織田家の藤吉郎(馬廻編) 天文二十四年~弘治二年(1555~1556)
38/65

35 落命

 

 天文二十四年(1555年) 六月二十六日

 尾張国春日井郡 清州城


 宴が行われてからひと月が過ぎたある日、清州城に急報がもたらされた。


「織田喜六郎秀孝 射殺」「守山城主 織田孫十郎信次出奔」「織田勘十郎信勝 守山城へ向け挙兵」


 一度にもたらされた急報に織田家中は騒然とした。



「その話の真偽、確かめねばならんな」

 信長はそう呟くと、供も付けず一人馬に乗り守山へ向かった。


「殿、お待ちください! 又左!お主は手が空いている者を集めよ! 俺は先に行く!」

 流石に一人で行かせるわけにはいかないので、俺は利家に声をかけつつ厩舎へ走るのだった。


 幸いにも城を出てすぐの所で信長を見つけることが出来た。

 しかし信長の馬が駿馬である上、信長は馬術の名人ということもあって、みるみるうちに差が付き、終いには見失ってしまった。


 守山城方面に行けばきっと追い付くことが出来るだろう。 俺はそう信じて引き続き馬を走らせるのであった。




 ~四半時後

 尾張国愛知郡 守山町口 矢田川


 守山城へ向かっていた信長は、馬を休ませるため矢田川の畔で休息を取っていた。 そこに使者と思われる者が通りかかった。



「そこを行く者よ どこの家中の者じゃ、名を名乗れ」


 一瞬迷惑そうな顔をした使者だったが、信長の服装から身分の高い者だと気づいたのか、慌てて下馬した。


「大変失礼いたしました、某は守山城主織田孫十郎が家臣、犬飼内蔵と申します。 只今清州へ伝令の為、急ぎ馬を走らせておりました、どうかご容赦を」

 そう言って頭を下げた。


「そうか、それは丁度良かった。 儂が弾正忠家当主である上総介信長じゃ 伝令の内容申してみよ」


 目の前の武士が伝令先の者、しかも当主だということに驚く内蔵だったが、信長が名乗る際に諱を使ったことで信用し、伝令の内容を話すのであった。





 ~数刻前

 尾張国愛知郡龍泉寺  於多井川 松川渡し



 兄である信光から、守山城を譲り受けた信次は、この日家臣を連れて川狩りに興じていた。


「殿! 今日は鯉が取れ申した!」


「そうか!でかしたぞ才蔵!」


 鯉は急流の滝を登って龍になるとの言い伝えから、当時の武士の中では縁起の良い魚とされていた。


 喜ぶ信次一向だったが、そこに一人の若者が騎馬のまま通りかかった。



「あの無礼者!! ここに殿がおいでと知っての狼藉か!? 下馬せず通り過ぎるとは不届き千万!」

 怒った才蔵は弓を手にすると、若者に目掛けて矢を放った。


 その矢は肩を射抜き、バランスを崩した若者は、そのまま地面に叩きつけられた。


「才蔵!! 少々やりすぎではないのか!? なにも落馬させずともよいものを!」

 信次は、才蔵の行き過ぎた行いに異を唱えた。


「申し訳ございません… 少し脅かすつもりだったのですが…」

 才蔵も命を奪うつもりはなかったようで、申し訳なさそうに頭をかいていた。


「全く、怪我の手当てをせねばなるまい… 若者はどこの家中の者なのだ? 誰かあの若者を連れてまいれ」


 信次の命令で小者が若者を連れてきたが、当たり所が悪かったようで、既に絶命していた。


 詫びを入れねばなるまいと、若者の顔を見た途端、信次の顔面は蒼白となった。

 そして今度は真っ赤な顔になると、渾身の力で才蔵を殴りつけた。


「才蔵!!!!! お主、なんということを!! この方は喜六郎様ではないか!!!」


 才蔵が射抜いたのは、信長の同母弟である『織田喜六郎秀孝』だった。


「これはとんでもないことをしでかしてしまった… どうするべきか…」

 才蔵を叱りつけたことで若干冷静さが戻り、再び焦りだす信次。


 それもそのはずである、喜六郎は美男子として織田家中で評判であり、兄である信長や信勝も可愛がっていた兄弟である。

 信次はその二人を完全に敵に回すことになってしまったのだから、焦って当然だろう。


 そしてその二人からの報復を恐れた信次は、そのまま出奔してしまった。





「これが事の次第でございます」

 内蔵が話終える頃、ようやく俺は信長に追いつくことが出来た。


「単騎での行動は軽率であり、この件は喜六郎にも咎がある為、不問とする。 喜六郎の奴め、この儂の弟とあろう者が、家来も連れずに単騎駆けとは非常識極まりない!」

 そう言って立腹する信長だった。



 ん? そう言う信長も今()()でここまで来ていたよな?

 

 と思ったが、触らぬ信長様に祟り無し、黙っておくことにしよう。


 向こうを見ると、同じことを思っていたであろう内蔵と目が合い、俺たちは黙って頷きあうのであった。





 ~数刻前

 尾張国愛知郡 末森城


 喜六郎射殺の報は、場所の関係上清州より先に、末森の信勝の元へ届いていた。



「なにぃ!! 喜六郎が討たれただと!? して下手人は!?」

 使者の話を聞き信勝は怒りをあらわにしていた。 


「それが、守山の洲賀才蔵なる者だそうです 主である孫十郎殿は報復を恐れ出奔したとか…」


「一体何をやっておるのだ! 許せん! 権六、急ぎ兵を集めよ! 喜六郎の弔い合戦じゃ!」

 寵愛する弟が討たれた怒りから、信勝は信長に無断で挙兵を命じた。


「お待ちください! 清州におわす兄君へ無断で挙兵するのは…」


「五月蠅い! これは最早謀反に等しい! 四の五の言う前に動かねばならんだろう!」

 今挙兵すれば、こちらも疑われかねないと考えた勝家だったが、怒りに支配された信勝に聞く耳は残っていなかった。


「…かしこまりました では某が大将を務めさせていただきます」


「あいわかった」


 言っても無駄だと思った勝家は、せめて自身が大将を務めることで、信勝に嫌疑が掛からぬようにするのであった。


 勝家は出陣の報を清州に伝えると、手勢を集め、守山城下へ火を放つと末森へ引き返すのだった。






 天文二十四年(1555年)七月

 尾張国愛知郡 守山城


 主君である信次が出奔してしまい、途方に暮れる家臣だったが、信勝に城下を焼かれた為、一先ず籠城の構えを取ることとなった。



「まさか我らを残し出奔されるとは… 誠情けなし」

 家老である角田新吾がそう言ってため息をついた。


「一先ず籠城をしたものの、我らは弾正忠家と事を構える気はのぅござる 何か和睦の手はない物か…」

 同じく家老である坂井喜左衛門も顎に手を当てていた。


「そうじゃ! ここは前城主であり、殿の兄君である孫三郎様にとりなして頂くというのは!?」


「そうじゃそれが良い! 至急那古野城に使者を送るのだ!!」


 両家老は急ぎ那古野へ使者を送ったが、信光から色よい返答が来ることは無かった。

 紛糾極まる重臣たちは、その後幾度も繰り返し使者を送るも、結果は変わることは無く、終いには返答すら得られなくなってしまった。


 重臣たちはどうして良いかが分からないまま、冬を迎えるのだった。




 弘治元年(1555年) 十一月

 尾張国愛知郡 那古野城 広間


「殿! なぜ守山城からの便りを無視されるのですか!? 守山にいる者は弟君の家臣であり、殿に長年尽くしてきた民たちも居ります! 殿はその者を見殺しになさるのですか!?」

 信光に向かってそう叫ぶのは、家老である坂井孫八郎だった。


 孫八郎は守山城の坂井喜左衛門とは同族であった為、信光の日和見に対して怒りを覚えていた。



「五月蠅いのぅ! 儂にどうにか出来たらとっくにやっとるわ!孫十郎の奴めどこに行きおったのだ… お主も何べんも同じ事を言うでない!」


 そう言って信光は手に持っていた扇子で孫八郎の額を叩くと、広間から出ようと後ろを向いた。


 信光もこの現状をどうにかしたい気持ちはあるのだが、事が事なだけに動くことが出来ず、この状況に苛立ちを隠せなかったが故の行動だった。


 しかしそんな信光の心中を知らない孫八郎は、信光に叩かれたことを馬鹿にされたと思いこんだ。

 これは守山城の件で怒り心頭だった孫八郎を凶行に走らせるには、十分な引き金だった。




「ぐぅ!?  ま、孫八郎!? お主、なにを…」

 孫八郎は脇差を抜くと、信光の背中を渾身の力で突き刺した。


 背中から胸にかけてを貫かれた信光は、その場に力なく倒れ伏した。


 孫八郎は刺したことで冷静になり、とんでもない事をしたと気づくとその場から急いで逃げ出すのであった。



「…よ、よもやこのような形で 死する、とはな… ふふ、これが神仏に 背いた男の最、期…か」

 そう言い残し、信光はこと切れるのであった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あぁ……( ´-ω-)やはり逝ってしまわれたか…家臣の逆上か…このままだと信行(アレ?…信勝?)も史実通りに成るのか…先が楽しみですぞおぉ~。
2024/04/24 08:26 ざまぁ好き
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