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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第四章 織田家の藤吉郎(近習編) 天文二十三年~天文二十四年(1554~1555)
33/65

31 謀略

少し長めです。

 

 天文二十三年(1554年) 七月末

 尾張国愛知郡 中村郷中中村 木下屋敷 広間


「いや藤吉郎殿 大変申し訳なかった! 其方をすっかりほったらかしにしてしまった!」


「申し訳ございません殿。 某も話に興が乗ってしまいました」


 広間へ移動した後、俺は二人に謝罪を受けていた。

 結局見回りから帰ってきた清右衛門たちが、「話をするなら広間に行っては?」と言われるまで俺は蚊帳の外だった。


「まあ、久々の再会でしょう、拙者もとやかく言うつもりはありませぬが、ご自身がここへ来られた理由を忘れんでくだされ」


「いやぁ面目ない… にしても昼飯まで用意して貰えるとはな」

 三左衛門殿の前には昼食を乗せたお膳が置かれていた。


「すべて我が領内で取れたものになります。 特に鮎や野菜は今朝採れた新鮮な物です。 是非ご賞味下さい」

 米は言わずもがなだが、汁物の野菜もうちの畑で採れたもの、糠漬けに至っては母の手作りだ。


「そうか! 儂は魚が好きだで嬉しいわい。」

 豪勢な食事を前にして、三左衛門殿の口調が砕けてきている。 どの時代も食事は楽しみなものなのだろう。


「槍については昼飯後でようございますか? 槍を見せるだけでなく、是非「攻めの三左」と名高い三左衛門殿と槍合わせを出来たら光栄なのですが」


「おう!儂で良ければいくらでも相手になろう。 ついでじゃさっきの若者たちも連れてくるがいい、儂が少し手解きしてやろう」

 一心不乱に飯を口に運びながら、三左衛門殿がそう言った。 


 イケメンが夢中で飯をかっ食らう姿は中々見られるものではない、少し笑いそうになってしまったが、笑いをかみ殺して俺も汁に口を付けるのだった。




 木下屋敷 道場


「ではまず十文字槍の特性からですな。 この槍は攻撃にも秀でていますが、実は守りも固く…」


 食後に少しの間を置き、俺たちは道場へ向かった。

 武術修練をするのには、広く屋根がある場所が良いだろうと兵庫と小一郎が作ってくれていたのだ。


 弟の小竹も勘次郎と時を同じくして元服し、木下小一郎長秀と名を変えた。

 まだ成長途中だが、身の丈は五尺五寸に届こうとしている。 槍の稽古も始めたようだが、普段はその頭脳を持って木下家の家計をまとめてもらっている。


「では実際に見て頂きましょう。 清右衛門、半蔵、左近頼んだぞ」


「「「承知致しました!」」」

 俺は三人を相手にしながら、演武を行った。 所謂時代劇における殺陣のようなものだ。


 普段の修練では実戦を意識して行うのだが、今回は三左衛門殿に技を見せるのが目的なのだから、こちらの方が適当だろう。

 実際に三左衛門殿は食い入るように見ている。



「以上が十文字槍の戦い方になります。 如何でしょうか?」

 五分程度の演武を終え、俺は三左衛門殿の方へ向き直った。


「正直驚いたぞ。 まさかここまで考えてあるとは思わなんだ。 これは其方一人で考えたのか?」


「発案は某ですが、大和国の宝蔵院に胤栄という僧が居りまして、その者と共に技を開発した次第にございます」


「ほう、あの武名高い宝蔵院か 足を運んだことはないが噂は耳にしたことがある」

 三左衛門殿は感心したように顎をさすっていた。


「では約束の槍合わせじゃな。 儂もその十文字槍とやらに興味がわいてきた。 始めはいつもの槍で行うが、儂にもその槍を使わせてもらっても良いか?」


「是非、まだ改良中故使っていて気になった事がありましたら、某にお伝えください」


 それからしばらく俺と三左衛門殿は槍合わせを行った。

 俺と三左衛門殿の勝敗は五分といった所だったが、俺は十文字槍を、三左衛門殿は素槍を使用していた。

 恐らく条件が同じだったら、きっと俺が負け越していたに違いない。 流石織田家中で槍の名手と言われるだけある。


 結局三左衛門殿は、清右衛門たちに稽古をつけた後、「久々に稽古で腕の立つ連中と競えてよかった」と言って帰っていった。


 譜代家臣である三左衛門殿と誼を結べたのは、今後の俺の出世に役立つかもしれない。 

 人間関係を利用するようで悪い気もするが、これも家中で上手く立ち回る術と割り切っていこう。




 数日後 尾張国愛知郡 那古野城 御殿 森三左衛門可成


「なんじゃ三左。 儂に折り入って相談があるなどとは、珍しいではないか」


「一つ殿に上申したきことがありまして。 殿の近習である木下藤吉郎秀吉という男についてなのですが」


「そうか、申せ」


「あの者は某に比肩するほどの武と旧土岐家臣をも従える人徳を持っております。 家人の若衆も年に見合わぬ武芸の腕を持っておりました。 お言葉ですが近習にしておくにはもったいないかと…」


「ふん、お主が言いたいのはそれだけか?」

 信長は可成をじぃと見つめた。 切れ長の目からは二〇を超えたばかりの若者とは思えないほどの圧力があった。


「お主の言いたいことは分かった。 しかし奴は儂に仕えて日が浅い、暫くは儂の所に留め置くとする。」


「そうでありますか…」

 そう言って可成が退出しようと腰を浮かせた時、信長が言葉を続けた。


「奴の有能さはこの儂がよく知っておる故、三左が心配するようなことはない、安心せい」


「そうでありますか! ではこれにて…」


「待てい 儂も事を急く癖があるがお主も同じじゃのう。 大和守を終わらせる策がある、お主にも一つ噛んでもらいたい」

 そう言って信長は怪しげな笑みを浮かべた。 

 十中八九悪巧みをするつもりだろう、その顔に可成はうつけ時代の信長を思い出して懐かしさを感じた。




 天文二十四年(1555年) 一月

 尾張国春日井郡 清州城 広間 織田大和守信友


 安食の戦いからおよそ半年、大和守家は紛糾を極めていた。

 元々信友には四人の家老がいたのだが、坂井甚介が萱津の戦いで、河尻左馬丞と織田三位が安食の戦いで討死してしまい、残るは坂井大膳ただ一人となってしまっていた。


 四家老は小守護代として信友を補佐していたのだが、度重なる敗戦で求心力を失い、統治に支障をきたしていた。



「大膳、このままではいかんぞ。 何か策はないのか!?」


「お言葉ですが、武衛様弑逆の件と敗戦が尾を引いております。 農民の逃散や家臣の離反も相次いでおります」


「だからこの状況を打開する策がないのかと申しておるのだ!」


「そんなものが容易く献策できるとお思いになりますか!?」


「ぬぅ…」

 大膳に一喝され信友は押し黙ってしまった。


「一つだけですが、策がございます。 しかし確実性には欠けると某は思います。 それでも殿は聞かれますか?」

 大膳はため息をつきながら、献策を申し出た。


「聞こう、出来る事ならば何でもやる覚悟じゃ」

 藁にも縋る思いで信友は耳を傾けた。


「守山城の織田孫三郎殿を味方につけるのです」


「しかし孫三郎は上総介の側についておるぞ? 萱津や村木でも信長に援軍を出しておる」


「ええ、その為生半可な条件では寝返らないでしょう。 そこでです。先程何でもやる覚悟とおっしゃいましたね?」


「言ったぞ。 最早なりふり構っている場合ではなかろう」


「では条件をお話ししましょう。 殿の守護代の地位を孫三郎殿に分け与えるのです。 所謂分割統治ですな。」


「そうか、守護代の地位を分け与えれば、孫三郎は上総介より立場は上になるな。 しかしそれだけで寝返るのか?」


「ではこの清州城も分け与えてはいかがでしょうか? ここは由緒正しき尾張守護の拠点になります。悪い条件ではないでしょう」


「孫三郎が居れば、上総介も迂闊に攻め寄せられぬだろうな。 城も地位も半分渡すことになるが、仕方あるまい。 大膳、孫三郎の元へ使者を送るのだ」


「心得ました」





 翌日 尾張国愛知郡守山 守山城


「という条件で如何でしょうか?」

 信光の居城である守山城に大膳の姿はあった。

 信光の心を動かすには、自分自身が使者となるのが良いとの考えからであった。



「確かに甥は力を付けてきたこともあり、儂に対する態度も少々横柄になってきてな。 このまま奴を弾正忠家の当主にしておくべきか、儂も悩んで居った所だ。 その話謹んでお受けしましょう」


「それは誠ですか!? いやぁ孫三郎殿がお味方して下さるほど心強い事はありませぬ! して何時頃清州に来られるので?」


「ふむぅ…今年は寒くこれから雪が降るかもしれませぬ。 しかも弾正忠家にこのことが露見せぬよう下準備もいりましょう。 卯月の頃ではどうでしょう?」


「卯月ですと!? いくら根回しが重要とて、そこまで時を置く必要があるのですか? まさか我らを謀るお積もりでは!?」


「滅相もない! 大膳殿もご存じかと思いますが、今の儂の立場は上総介の後ろ盾として働いております。 その儂がすぐに弾正忠家から手を引くのは余計な疑念を抱かせるに違いありませぬ。 なんなら神仏に誓い、起請文に(したた)めても良いのですぞ!?」


 疑われたことに腹を立てた信光は、大膳ににじり寄った。 

 非情な剣幕でまくし立てる信光に、大膳は思わず後退りをしてしまった。


「申し訳ございません、孫三郎殿を疑うような真似をしてしまい。 決してそう言う意図ではございませんでしたが…」


「お主先程、我らを謀る気かなどと言いおったではないか! 疑われたままでは気持ちが悪い、やはり起請文を書かせて頂きましょう。 これを持って某の大和守殿への忠節の証としたい」


「ええ、我が主にそう伝えさせて頂きます」


 すっかり怯えてしまった大膳は、信光から起請文を受け取ると、這う這うの体で守山城を後にした。



 守山城の広間で一人残った信光の顔には、悪巧みが成功したかのような不気味な笑みが浮かんでいた。





 数日後 夜半過ぎ 尾張国愛知郡 那古野城 御殿


 大和守の調略を受けたはずの信光は、なぜか那古野城に出向いていた。

 そして信長に謁見すると、大膳とした会話を洗いざらい話した。


 その話を聞いている時の信長は、まさに豆鉄砲を喰らったかのような顔だったという。


「いまいち状況が呑み込めんが… それで叔父上はなんと? …いやここに居るということは調略を断ったのだな」


「いえ、お受けしました」

 信長の言葉に信光はあっさりと返した。



「はぁ!? それではなぜここにおる。 裏切ることを事前に言う馬鹿者など、居るわけなかろうが」

 益々わけがわからないと言った様子の信長が可笑しかったのか、信光は笑いながら続けた。



「なぁに、儂が大和守を油断させ内に入り込むじゃろ? そして信頼されたのを見計らい、城を乗っ取るのよ。 そうして乗っ取った清州城をお主に渡そう。 その代わりに儂にはこの那古野城を宛がって貰いたい。 其方が於多井川の西を、儂が東を治めるようにしたいと思うてな。 どうじゃ?其方にも利のある話ではないか?」

 信光は自身の考えを信長に提案した。


(確かにこの策が成れば、大和守家を滅ぼし、尾張下四郡を手に入れることが出来る。 叔父上の力が強くなってしまうが、今は自身の後ろ盾として働いてくれている。  これから尾張を統一するにあたって必ず叔父上の力は必要になってくる。 ここは恩を売っておいてもいいかもしれん。)


「うむ、叔父上の策で行こう。 だが乗っ取るにしても城内で戦いが起きるだろう。 俺の方からも槍自慢をいくらか出す故、時期を教えてほしい」

 得をすることが大きいと判断した信長は、信光の献策を聞き入れることにした。


「大膳には卯月の頃と言ってある。 その頃になったら儂の所にその者たちを寄越してほしい。 儂の近習らに混ぜて清州城に入らせよう」


「心得た」



 夜半過ぎの御殿では、謀略を練る二人の笑い声が密かに聞こえるのだった。


久しぶりに週間ランキングの3位になっていました。 ご愛読していただき誠にありがとうございます。

やはりランキング上位にくると嬉しい物ですね。 これからも更新頑張ります!


面白い!続きが読みたい!と思われましたら、いいね、ブクマ、感想等頂けると幸いです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 秀吉がイケメンとはそうそうはない設定なのがいいです…。 これでは、他の作品とかでそのユニーク容姿のおかげで、嫌っているという設定が多いあの主君の妹君とはどうなるか今後の展開が気になります。…
[良い点] いやあぁ~(*゜∀゜人゜∀゜*)♪今後が楽しみですぞおぉ~♪……あえて言えば…本来の歴史で信光さんは奥さんの浮気相手に殺されるか、信長の暗殺だが…生きて欲しいな……。
2024/04/08 15:13 ざまぁ好き
[気になる点] >木下小一郎秀長 史実では小牧長久手の戦いの後、『秀』の字を上にして『“秀”吉』が『信“長”』を超えた事を暗に示す為に、『長秀』から『秀長』に改名したと言う説が有る事を思うと、最初か…
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