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戦国転生日吉丸公記~秀吉に転生したけどなぜかイケメンな件について~  作者: まーしー
第三章 放浪の藤吉郎 天文二十二年~天文二十三年(1553~1554)
19/65

17 完全栄養食品

 

 天文二十二年(1553年) 美濃国大野郡 大御堂城 座敷


 吉助殿を看病して丸一日が経った。まだ熱は高いが、呼吸は落ち着いている。


「遠江守殿、どうやら山は越したようでござる。しかしまだ吉助殿の体は弱っております、引き続き看病させて頂くがよろしいか?」


「おお!誠か!?どうお礼を申したら…。協力は惜しまぬ故、引き続き頼む。」

 相当嬉しかったのだろう、遠江守殿は俺の手を取って喜んでいた。


 昼頃になると、吉助殿も起き上がれるようになった。そろそろ粥なども食べられるようになっただろう。

 俺は食事を用意する為、吉助殿の首に巻いた葱を回収し炊事場に向かった。




 美濃国大野郡 大御堂城 炊事場


 今回作るのは『卵粥』だ。

 暫くなにも口にできなかった吉助殿の状態を鑑みると、粥のような胃腸に優しいものがよいだろう。

 今回は栄養のバランスを考えて卵を使用することにした。


 卵は非常に栄養価が高く、食物繊維やビタミンC以外の栄養素をバランスよく含んでいる。そのうえ人間の体で生成することの出来ない必須アミノ酸をも含有しているスーパーフードだ。

 日本では仏教の影響で卵を食べることは殺生に当たると忌避されていた。江戸時代になってから漸く食べられるようになったが、高級品であり庶民が常食できるようなものではなかったそうだ。


 俺は鰹の煮干しで出し汁を取るとそれを火にかけた。

 出し汁が沸騰するころに炊いた米を投入し、米が柔らかくなったころに溶いた卵を回し入れる。

 卵が固まったら火から下ろし、刻んだ葱を入れて完成だ。冷めないうちに吉助殿の所に持っていこう。




 美濃国大野郡 大御堂城 座敷


「藤吉郎でござる。吉助殿お加減は如何かな?」

 座敷に戻ると吉助殿は起き上がって書物を読んでいた。未だ病身だというのに勤勉なものだ。


「ありがとうございます、貴方のおかげでだいぶ良くなりました。元気になったからか今まで感じなかった空腹感が押し寄せてきていましてね…お恥ずかしい限りです。」

 話している途中、吉助殿の腹からクゥ…と子犬が鳴くような可愛らしい音が鳴った。

 吉助殿は羞恥の余り顔を真っ赤にして俯いた。


 こう見るとただの女の子にしか見えないが、ちゃんと男の子だったので安心してほしい。(確認済)


「丁度ようござんした。そろそろ食べられる頃だろうと思い粥をお持ちした次第に。どうぞお召し上がりを。」


「かたじけのうございます。これはなにが入っているのですか?黄色に緑に色鮮やですね。」


「卵と葱を使っています。どちらも栄養豊富で吉助殿の活力へ繋がるものになります。」


「卵!?卵とはあの鶏の産むあの卵ですか!?」


「はい、南蛮では卵はすでに常食されているとのことです。もし仏罰が降りかかるのなら、料理した某でしょう。吉助殿は心配されなくてもようござる。」


 やはり吉助殿は驚いたようだが、空腹には逆らえないのか戦々恐々という様子で口に運んだ。

 口に運んだ途端、吉助殿の目が輝いた。漫画なら背景も一緒に光り輝きそうないい表情だった。


「このように美味な物は今まで食べたことがありませぬ!」


 久方ぶりの食事に対する喜びか、未知の味への感動なのか。吉助殿は涙目になりながら粥を口に運んでいた。

 ここまで喜んでもらえると作った甲斐があるというものだ。



 ~数日後


 食事を取れるようになると吉助殿の体調はみるみるうちに回復し、数日するといつも通りの生活が送れるようになっていた。


 勘次郎と吉助殿は互いに歳が近いこともあって、かなり仲良くなったようだ。

 2人で槍や刀の稽古をしたり、書を学んだりするなど以前からの親友のように過ごしている。

 見ていて微笑ましいと思う反面、俺もそんなに歳が離れているわけではないのになぁと少し寂しく感じた。


 勘次郎と共に過ごす姿を見て、遠江守殿は病に臥せる前よりも元気になっていると驚きを隠せない様子だった。

 あまりの回復具合にいったいどんな手を使ったのかと遠江守殿に聞かれた為、正直に卵を食べさせたことを伝えた。


 最初は吉助殿と同様に驚いた遠江守殿だったが、弱り切った吉助殿を回復させた食材として好意的に受け取ってもらえた。

 そればかりか、「そこまで滋養にいいなら日頃から食べたほうがいいだろう!」と城内に鶏小屋を作り始めた為、今度は俺が驚かされた。


 卵料理もいくつか教えてほしいと言われたが、戦国時代にフライパンはないので茹で卵や温泉卵、かきたま汁ぐらいしか伝えることが出来なかった。


 あまりの傾倒具合に怖くなったので、冷暗所での保管や食べる前に卵をしっかり洗う事。1日1個までにすることや必ず新鮮な物を使用することを約束するよう伝えた。


 ただでさえ史実の半兵衛は早死にするというのに、卵のせいで食中毒や脂質異常症などで早死にしてしまうなんて本末転倒にもほどがある。


 そんなことをしながら1週間以上世話になっていたが、そろそろ祖父の所へ行かねばならない。

 遠江守殿へ出立の意思を伝えると渡したいものがあるから広間に来てほしいと言われた。




 美濃国大野郡 大御堂城 広間


 広間には遠江守殿と吉助殿、俺と勘次郎の4人が集まっていた。


「藤吉郎殿、貴殿には本当に世話になった。貴殿が居なければ吉助の命は失われていたに違いない。心よりお礼申し上げる。」


「藤吉郎殿は命の恩人です。本当にありがとうございました。」

 遠江守殿と吉助殿の両名がそう言って頭を深々と下げた。


「いえ、目の前で困っている者がいたら助けるのが武士である故、礼には及びませぬ。」


「こちらは吉助を助けて頂いたお礼です。どうぞお納めを」

 そう言って手渡されたのは一振りの刀だった。


 遠江守殿に許可を得て刀を抜いてみると、刀身に山を3つ連ねたような独特の刃紋が見られた。


「これはまさか…」


「刃長は2尺3寸。三本杉の刃紋が示す通り、孫六兼元の刀になります。」


 孫六兼元とは兼元派の2代目であり、室町時代後期の美濃鍛冶を代表する刀工だ。

 初代兼定の下で作刀を学び、2代目和泉守兼定と兄弟の契りを結んだとされている。


 孫六兼元の刀は現代では最上大業物と格付けられており、戦国の世でも「折れず、曲がらず、よく切れる」と多くの武将に愛され佩刀になっている。


「良いのですか!?このような業物を」


「ええ、どうぞ使って下され。その方が刀も喜びましょう。」


「かたじけのうございます。」


「確かこの後は武儀郡へ向かわれるのだとか」


「はい、祖父の下で槍を受け取った後、近江、山城、大和へ行こうと思おとります。」


「それは長旅ですな、道中お気をつけて。何かありましたら是非当家にお立ち寄りくだされ。なに、困っている者を助けるのが武士ですからな。」


「そうですな、遠江守殿世話になり申した。」


 俺たちは遠江守殿と吉助殿に別れを告げると、武儀郡へ向けて出立するのであった。


女の子のような見た目の吉助くんですが、ちゃんと男の子です。

汗で濡れた着物とか着替えさせてますしね。

なにを確認したかって野暮なことは言いっこなしでお願いします。


感想欄に砂糖、卵、鰹節についてのご意見が寄せられました。感想欄で説明をしましたが、あとがきにも載せさせて頂きます。


まず卵については奈良時代には食べられていたと書物には残っているそうですが、675年天武天皇が出した肉食禁止の布告や、730年に聖武天皇が出した「殺生禁断の令」により卵を食べる事に忌避が出たとの記述もある為、本作はそちらの説を採用させて頂きました。


次に鰹節についてですが、今と同じ鰹節は角屋甚太郎という漁師が江戸時代中期に作ったものだそうです。

しかし鰹節の原型になったものは古事記に「堅魚」という鰹の煮干しがあったという記述があるそうです。

室町時代に入ると堅魚に「焙乾」という技術が導入され、現在に近い鰹節が制作されるようになったそうです。本作はその記述を元に鰹節を登場させました。

厳密には鰹節ではないので鰹の煮干しに変更しました。


砂糖については届いたばかりで遠江守がまだ知らなかったということにしておいてください。

ご都合主義で申し訳ございません。


あおのり様、貴重なご意見ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼少期の竹中半兵衛と知り合うきっかけとしては面白い [気になる点] 砂糖がいち国人の城にあれば城主が知らないはずがないし砂糖はない。 卵はもっと昔から食べられていて仏教での忌避ではない 鰹…
[一言] もし半兵衛が若死にしなかったら歴史はどう変わるのか? まあ、この事に恩義を感じて家臣ルートは確実だけど、家臣にならなくても言いから長生きして欲しいな。
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