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三界のシリウス  作者: 匿名希望
序章 白銀の少女編
3/6

怪物と初任務

 カノンが落ち込んでる様に見える、いや、間違いなく落ち込んでいる、恐らく悩みを抱えてるのだろう、カノンは性格的に悩みを抱える事は稀で、悩みを抱えてもしばらくするとすぐに天真爛漫な様子に戻る、カノンはそんな人間だ。


 私は直感的にカノンはしばらく悩みを抱えてると思った、だから私は大雑把に尋ねた。


「何を悩んでいるの?」


 細かい配慮に欠けた質問だ、もしかしたらカノンの心を傷つけるかもしれない、聞いてほしく無い事なのかもしれない、でも、カノンは分かりやすく落ち込んで見せた、本当に踏み込んで欲しくなければ、無理矢理にでも元気な振りをし続けると思うから……


「あはは、やっぱり分かっちゃうよね」


 カノンの顔は明らかに嬉しそうだった。


「凄いわかりやすく落ち込んでたから」


「ちょっと、色々ね……それを考えるだけで憂鬱だよ」


 隠す気が無くなったのか、思いっきりため息をつくカノン。


「私を呼んだのはこの為?」


「うん、久しぶりに会いたいが半分、悩みを聞いて欲しいが半分」


 正直にカノンは答えた。


「私、騎士団に入団したでしょ?」


「そうらしいね」


「正確には見習い騎士から正式な騎士に昇格なんだけど、少し早いよね?」


「言われてみれば確かに早い」


 一般的には、学校卒業後に見習い騎士になる、それから2年後に正式な騎士になるのが、常例だ、つまりは18歳に見習い騎士に、20歳の成人と共に王国騎士へとなる。


 しかし、カノンはまだ19歳だ。


「カノンは実力も申し分なく、即戦力なんじゃないの?」


「うん、そうらしいね、そう言われたよ」


 カノンは明らかに嬉しくなさそうだ。


「シリウスの強さに憧れて、自分の何かを変えようと騎士を目指した事に後悔は無いし、命を掛ける覚悟もあるの」


 カノンは騎士に向いていない、実力は申し分無いが、王国を守り国民を守る為に命を掛ける騎士になるには、純粋で優しすぎる、それでも自分の何かを変えようと必死に頑張っている。


「実は近々、初任務があるの」


 王国騎士になるからには任務があるのは当然だ、エレメントの討伐、稀だが魔獣の討伐、犯罪の取り締まり、人間の護衛、様々な任務が与えられる。


「その任務がね、怪物って言われてるエレメントの討伐なの」


「怪物?」


 ギルドで男達が話していたのを思い出す。


(噂の怪物の討伐、今の所誰も達成出来て無いらしいな)


(騎士団も対処に当たってるらしいが、てんで駄目らしい)


 恐らく、その怪物とやらが悩みの種で間違い無さそうだ。


「その怪物っての、詳しく教えてくれる?ギルドで耳にしたんだけど、詳しい事はわからなくて」


「うん、ここ最近、目撃されてる化け物のようなエレメントの事」


「化け物のようなエレメント?」


 エレメントとはこの世界に存在する魔物だ、古くから存在していて、人間の脅威となってきた存在の事だ。


 「そう、普通の個体より体格が大きく、雰囲気が全く違うらしいの、そして何より……」


カノンはこの先を注目して欲しいとばかりに、言葉を区切った。


「人間の言葉を発するらしいの」


 エレメントは本来、意志を持たない魔物だ、言葉を発するなんてもってのほか、しかしその個体は喋るらしい、明らかに特異だ。


「それは確かに異質だね……」


「そうだよね、冒険者ギルドも王国騎士も対処に当たってるんだけど、全然駄目らしいの」


「強すぎて?」


「そう、命を落とす人も多くて、運良く帰って来れた人は口を揃えて、怪物だ、勝てる訳がないと言うらしいの」


 冒険者ギルドや王国騎士団について率直な感想を言うなら、そんなに強くない、だ。


 この世界は、突飛して強い人間は稀にしか居なく、ほとんどが平凡的な強さだ、それは人間と敵対するエレメントにも言える事だ、エレメントも突飛して強い個体は稀で、ほとんどが平凡的な強さだ、個体数が少なく遭遇が稀な魔獣の方が強い個体は多い。


 平凡的な人間の中に、いきなり異質な強者が現れたら、そりゃ大変だ。


「なるほどね、その討伐にいきなり任命されたって事……」


 カノンの悩みの種がわかった、確かにこれは憂鬱にもなる、でも。


「カノンの強さなら、なんとかなるんじゃないの?いつも謙遜するけど、カノンの強さは相当だと思うよ?」


 そう、カノンの実力は平凡な人間から突き抜けて、突飛な実力者とも言える、決して絶望的な戦いでは無いと思うけど。


「うん、私も絶望に打ちひしがれてる訳じゃ無いの、でも、なんとなく憂鬱な感じ……」


 なるほど、やっぱりカノンはそもそも騎士団に、それ以前に戦う事に向いてないんだ、何かを変える為に騎士団に入った事は知ってる、でも、カノンは絶望的に騎士には向いてない。


「カノン、無理して戦うこと無いよ、騎士だってカノンにとって命を掛ける程、意味のある物なの?」


 騎士のエースになれる実力を持ちながら、騎士にならず流浪の旅をしている私が言うのはお門違いなのかもしれない、彼女の尊厳を粉々にしているのかもしれない、それでもやっぱりカノンには騎士を辞めてほしいと思う、このままだと呆気なく死んでしまう気がするから……


「確かに、何かを変えるって言っても何を変えるかも分かってないし、間違った道を進んでるかもしれない、それでも動かないと、何も変わらないから、良くも悪くも、シリウスの言いたい事も本当に良く分かるよ、自分でも向いてないと思うもん。」


 微笑んでカノンは話す。


「だから初任務で自分を決めようと思うの、騎士を、続けるか、辞めるか、それ以前に辞めちゃったら意味が無くなる気がする」


 いつになく真剣にカノンは答えた、カノンの覚悟は本物だ、自分の弱さも状況もしっかりとわかった上で行動しようとしている、それならカノンの覚悟を踏み躙る訳には行かない。


「本気なんだね、本当に心配だけど私は応援するよ」


「ありがとう、任務前にシリウスに話せて良かったよ」


 心からの笑顔でカノンは答えた。


「一応任務の日を教えてくれる?その時は無事を祈ってたいから」


 いざとなったら無理やりにでも助けに行ける様に日付は知っておきたい。


「明後日だよ、明後日の11時から」


 ずいぶん早く無い?もっと先かと思ってたけど、でもこれで最悪、彼女を助けに行く事は出来る。


 その後、しばらく談笑をして、その日は別れた。



 


 


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