1.勇者シノの呼びかけ
「何で、俺がこんなことをしないといけないんだ。」
俺は、無性に腹が立っていた。写真の技術を勉強するために、この専門学校に入学したのに、最初の課題は、何のために必要なんだ。
「こんな学校は、止めてやる。」
私は、友達のトーマに愚痴っていた。トーマは、画家志望だが、親から反対されている。そのため、親のメンツの為に、私学の有名な法律学科のある大学に通っている。画家になりたいのに、真面目に法律の勉強をしている。今日は、民法と刑法の本を読んだいる。
こんな愚痴をトーマに聞かせても仕方がないが、トーマなら、分かってくれると思っている。
「それで、どんな、課題なんだ。」
「言いたくないな。」
「それじゃ、何故、怒っているのか、分からないよ。」
「ここだけの話にしてくれよ。」
「もちろんだよ。シノの事は、誰にも言わないよ。」
「実は、今日の写真の授業で、ヌード写真を撮ってこいと言われたんだ。」
「それで、何処で取るんだ?」
私は、ヌードと聞いて、喜んでいるトーマにも、腹が立って来た。
「おまえ、若い女の子のヌードって、決めつけているだろう。」
「そんなことないよ。」
「トーマのにやけた顔を見れば、誰だって、わかるよ。」
「シノの思い違いだ。俺は、何も考えていないよ。」
「本当か!本当に、考えていなかったのか!」
私は、少し怒ったような口調で、トーマに言った。
「ごめん、少しは考えたよ。申し訳ない。」
「やっぱりな。そうだと思ったよ。」
「それで、学校が、モデルを用意するのか?」
「自分で、説得するのだって、モデルになってくれってね。」
「えっ、自分で説得するって、無理だよ。どうやって、探すんだよ。」
「それが、探さなくていいんだ。」
「うん?意味が分からないね。」
「実は、自分の母親にヌードモデルになって貰うように説得しろだって。そして、その写真の提出が最初の課題だって。」
「信じられないな。そんなこと母親に頼めるか!」
「そうだろ。トーマもそう思うだろ。」
「それを頼むぐらいなら、若い子を口説く方がいいよ。」
「俺もそう思ったよ。だから、学校を止めようと思っている。」
「でも、シノは、写真の勉強のために通っているのだろう。止めていいのか?」
「だから、悩んでいるんだよ。」
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いつの間にか、夢を見ていたようだ。僅か、10年前の事なのに、遥か昔のように感じている。
私も、30才の手前になって、仕事にも慣れてきている。しかし、忙しい。シノは、今、どうしているのだろうか。勉強が忙しいと言い訳しながら、シノとは、疎遠になってしまった。
私の唯一の友人だったはずなのに、分かれるときは、早かった。親の会社に入って、SEとして働いている。大学を出ても、弁護士にはなれず、もう一度、専門学校に行き直した。
向いているか、分からないが、SEを勧められた。大した資格はないが、何とか、仕事をこなしている。今は、目の前の処理を一つずつこなしているだけだ。何の成長も感じていなかった。
「あの頃は、楽しかったな。シノとよく徹夜で話をした。そういえば、シルクスクリーンで、絵を描いたこともあったな。そうそう、それで、写真の勉強をするって、シノが言ったのだった。俺のために、写真の専門学校に行っていたんだ。すっかり、忘れていた。」
「トーマ、助けてくれ。」
「何だ、空耳か?」
「トーマ、聞こえるか?」
「あれ、シノか?」
「そうだ、シノだよ。」
私は、辺りを見回した。しかし、シノはいない。
「おかしいな。確かに、聞こえたのだけど。」
「トーマ、助けてくれ。」
「シノ、どうした。俺で、出来るのか?」
「お前に助けて欲しいんだ。俺の唯一の友達のトーマに助けて欲しいんだ。」
「分かった。シノは、俺にとっても、唯一の友達だ。助けるよ。」
「ありがとう。」
私は、また、夢を見た。変な服を着たシノが出て来た。
「ありがとう。来てくれたんだね。」
「うん。これって、夢か?」
「違うよ。ある意味、夢だけど、それなりに現実だよ。」
「シノ、何を言っているんだ。」
「まあ、いいよ。取り敢えず、俺の家に行こう。」
私は、何が起こっているのか、理解できないまま、シノの後を付いて歩いた。暫くすると、街に入った。洋風の建物が立ち並んでいる。道路には、屋台が出ており、食べ物を売っていた。
しかし、その食べ物は、これまで、見たことの無いような動物の肉や野菜で創られていた。
「トーマ、着いたよ。ここが、俺の家だ。まあ、一部屋を借りているだけだけどね。」
シノは、階段を上がって、入った。そして、突き当りの小さな部屋に入っていった。
部屋の中には、ベッドが 一つあるだけで、他の家具は一つもなかった。
「椅子がないんだ。ベッドに座ってくれ。」
「シノ、少しは、説明してくれ。俺は、何が何か、さっぱり分からない。」
「そうだね。ここは、魔法の国なんだ。異世界だよ。」
シノは、手の平の上に炎を出した。
「ほらね。魔法の国なんだ。」
「シノは、魔法が使えるということだね。」
「そうだよ。そして、おそらく、トーマも使えるはずだ。」
「それより、俺を呼んだ理由はなんだ。」
「俺は、勇者ということになっている。でも、違うんだ。」
「何だって、勇者って、シノが勇者って。」
「おい、何度も、とちるなよ。」
「でも、勇者って、あの漫画に出てくる奴だろ。魔王と戦うとか、マジ、ないね。」
「だから、俺は、勇者じゃないって。でも、勇者として、暮らしているんだ。」
「訳がわからない。」
「まあ、おいおい、説明するよ。今日は、街を楽しもう。」
おいおい、シノって、こんなにいい加減だったかなぁ。




