トレジャーハント3日目-2
睡眠不足はやばいから気を付けよう
山田君と芦屋君の方に近づくと、向こうも近寄って来た。
僕たちを中心に、自然と生徒たちの大きな輪が出来た。
目立った障害物もない、荒れた校庭のような場所が今回の戦いの場になった。
「観客も呼んで、先生にも審判で来てもらったわ」
芦屋君の隣には1組の担任であり社会科担当の松岡先生と、僕たち10組の担任の刺島先生がいた。
刺島先生の方はいつも通りとして、松岡先生の目は虚ろだ。
「お前ら元気だね。せっかくのリゾート施設なんだからゆっくりすればいいのに」
そういう松岡先生の曲がった背中と、普段よりボサボサの髪がやる気の無さを表していた。
そんなだらしない姿を見て、刺島先生は隠そうともせずにため息をついた。
「松岡先生。先生である我々がそんな様子では、生徒たちのやる気を削いでしまいます。もっと倦まずにお願いします」
いくらか年上である松岡先生に物怖じせずに言い放った。
「いや刺島先生。そうは言いますけど、昨日の問題を起こしたバカどもの対処で睡眠もまともに取れなかったんですよ?そんな中で野試合の審判を任されても・・・・・・」
「では、もう少しお酒を減らしては?」
刺島先生の言葉に、だらしない先生が見るからに狼狽し、バツの悪そうに頭を搔いている。
さては林間学校だというのに、隠れて飲んでいたな。
この不良教師め。
「それでは、審判をお願いします」
「はい、すいません・・・」
年上の人が怒られてションボリとしてしているのはあんまり見たくないな。
「いやな、先生もおじさんだから、お酒が無いとちょっと眠れなくてだな。お酒を飲んだのは、むしろ仕事に向き合ったからこそとも言えるとは思わないか?」
「松岡先生。いい訳は刺島先生に直接言って下さい」
「お前らも、おじさんになったらこうなるんだぞ」
なんて嫌なことを言うんだ。
こんな大人にならないように気を付けよう。
先生たちが審判をするためにやや離れ、改めて山田君たちと向かい合う。
芦屋君がそわそわしながら口を開いた。
「こんだけ観客がおったら、テンション上がるなあ」
「芦屋君、盛り上がってるの好きそうだよね」
「祭りでテンション上がらんやつおらんやろ」
祭りではなく試合なんだけど、まあいいか。
ともかく、ただ賑やかなのが好きってだけじゃないっていうのは僕でも分かる。
これは証人だ。
6組が勝ったときの証明になるし、数が多ければ多いほど噂の広がりも早い。
よほど自信があるということだろう。
山田くんが悠然と前に出てきた。
「そろそろ始めようか」
頷き、距離を取る。
浮ついた雰囲気の観客たちとは真逆の様相に、こちらも気が引き締まる。
松岡先生が号令をかけた。
「観客どもはケガして救急車で帰りたくなかったら、もっと離れてろ。試合やるやつらは改めてルールの確認だ」
観客がさらに離れて、直径40メートルほどの円が出来た。
「制限時間無制限。お互いに代表者を選出し、代表者の体内魔素が3割切ったら負け。代表者以外も体内魔素が3割切ったらその時点で退場。もし代表者以外のやつが、アラームが鳴った後に戦闘に参加した場合、その時点でチームが失格となる。間違いないな?」
4人とも頷く。
「それじゃあ、代表者は前に」
レオが前に出る。
今回は僕が前線で戦うから、必然的に代表者はレオだ。
「10組は金剛 怜雄だな。6組は・・・山田 壱郎で間違いないな?」
「えっ?」
思わず声が出てしまった。
前に出てきたのは山田君だった。
てっきり総合成績学年4位の芦屋君が代表者だと思ってた。
僕が少し動揺したのに気づいたのか、レオが耳打ちしてきた。
「狙いは何なのか知らねえが、やる事は変わらねえ」
「大丈夫、分かってるよ」
代表者がどっちであれ、僕の水魔法で持久戦を挑み、相手を削り勝つ。
それに変わりはない。
「よし、じゃあ始めるぞ」
お互いに距離を取り、10メートルほどの間が出来た。
なんとなく、みんなの様子を見た。
レオは闘志が感じられるほど、全身に力が入っている。
芦屋君は、先ほどと変わらず自然体。
山田君は、目を瞑り右手を胸に当てている。
僕も深呼吸をして、相手を見据えながら魔素を練りこむ。
そして、松岡先生が手をパーにして掲げる。
「5、4、・・・」
指を折り、試合開始までのカウントダウンが始まった。
同調するように、観客からも声が上がった。
「「「3、2、1、・・・」」」
集中力が上がり、大気中の魔素を体に感じる。
その時、違和感。
1から0への光陰。
見据えていたはずの相手が、違う人のように感じた。
(なんだろう・・・。今、この瞬間に、強くなった?)
例えるなら、エンジンキーを回したかのような、静寂からの喧騒。
このままここにいると、轢き殺されるような感覚だ。
「「「ゼロ!!!」」」
試合開始の合図とともに、辺りに爆音が鳴り響いた。
「何だ?!」
レオの驚いた声が聞こえた。
何も分からないまま、頭の危険信号に従い水魔法を放ち、斜め後ろに飛び跳ねた。
その刹那、僕のいた場所に轟音が鳴り土煙が舞った。
「驚いたな。初撃で決めるつもりだったんだが」
「驚いたのはこっちだよ・・・!」
僕がいた場所に、山田君の拳が突き刺さっていた。
拳を中心にクレーターのように凹んでおり、その威力が伺える。
地面から拳が引き抜かれ、何食わぬ顔でこちらを見据えている。
普通あんな威力で殴ったら、拳が砕けると思うんだけど。
「とんでもない機器察知能力だな。開始から1秒ほどで間合いを詰めたのに避けられるとは思わなかったぞ」
「生憎、一度トラックに轢き殺されてるもんでね」
近くに来てはっきりと分かった。
先ほど感じた違和感は、山田君だ。
体内魔素がまるで別人のように肥大化している。
肥大化というのは正確ではないかもしれないが、それに近いことが起きているのは間違いない。
一体、どういう魔法なんだ?
「さて、続きをやろうか」
土煙が晴れ、顔がはっきりと見えた。
「何、その眼・・・?!」
山田君の目は、燃えるような紅色になっていた。




