一方そのころ4
「えっと、次の目標は・・・こっちだね」
少し気の弱そうな男子生徒がタブレット端末を確認しながら、6組所属の4人が歩を進める。
その画面には、景品の推定場所が記されている。
6組という、魔法の実力が劣っているクラスがレクリエーションで上位を取るためには必要不可欠なものだ。
現在歩いている場所は大通りからかなり離れ人通りが全くない。
テーマパークと高原を区切るような塀の横を歩いていた。
「なんか、随分裏手の方に来ちゃったね」
「えっと、ここは普段スタッフしか通れないみたいだね」
紅一点の女子生徒が呟いたのを、タブレット端末を確認していた男子生徒が返答した。
先ほどまで明るく賑やかな場所を通っていたから、なんとなく不安に駆られていた。
そんな心持ちを肯定してしまうかの様に、目の前に人影が現れた。
「そうだぜ。ここはスタッフしか使わねえから、人がほとんど来ないんだよ」
「誰だっ!」
物陰から現れた人影は、いま最も会いたくなかった人物だった。
「俺たちだよ。雑魚クラスのカスども」
「お前らは・・・!」
6組を劣等クラスだと蔑み、いじめの対象にした不良たち3人だった。
あまりにも突然の遭遇に、緊張が走る。
この3人組に絡まれていたことがある女の子は、今にも泣きそうな顔をしている。
「おいおい、お前らー。不正は行けないぜー」
不良たちのリーダーが、自身の長い金髪を弄りながら一歩前に出てきた。
「ふ、不正なんてしてない!」
4人の先頭に立っていた男子生徒が勇気を出して声を上げるが、震えが隠せていなかった。
その様子を見て、不良たちが下卑た笑みを浮かべる。
「何言ってんだよ。ずーっと、後ろから見てたぜ。明らかに景品の場所が解ってるだろ?」
「そ、それは、みんなで頑張って場所を特定したんだ!」
「本当かー?隠し場所を不正に入手したんじゃないのかー?そのタブレットを見せてみろよ!」
狡猾な表情を隠そうともしない不良たちに、全身に何か寒いものが駆けていく。
こいつらにタブレット端末を渡したら、そのまま奪われるのが目に見えている。
なんとか追い払おうと、もう一人の男子生徒が声を上げた
「こっちには芦屋がいるんだぞ。あいつにビビって手を引いたくせに・・・」
「う、うるせえ!!!別にビビったわけじゃねえ!面倒になったから手を引いたんだよ!」
この不良たちのいじめが明るみに出る前に、芦屋が倒し大人しくなっていたので恐れているのは明白だが、いま言うべきでは無かったと後悔した。
芦屋の名前を聞いてから見るからに頭に血が登っており、暴れだしてしまうかもしれない。
3人がじりじりと距離を詰めてくる。
「・・・いいのか?学校の耳に入ったらお前ら今度こそ退学だぞ!」
「うるせえって言ってんだろ!!こちとら退学になっても構わねえんだよ!ただ素直に退学すんのは癪だから、最後にひと稼ぎでもしようと思ってよお!」
「やけになってるだけじゃねえか!・・・こんなところで景品のカツアゲをしたところで学校側に報告すれば没収されるに決まってるだろ」
「ひひひ、そんなのお前ら全員を二度と逆らえねえようにボコボコにして、恐怖で喋れねえようにすればいいだけの話だろ」
あまりの外道な台詞に、女生徒の震えが強くなる。
眼の前にいる不良たちは喧嘩ごとが耐えないという噂が流れるくらいには荒れ事に慣れている。
一方、6組の4人は腕っぷしはからきしで魔法の実力も低い。
傍から見たら、一方的に殴られ、蹴られ、見るに耐えない暴力が展開されると想像するだろう。
おそらく、相対している4人も同じ想像をしたのだろう。
勇気を出して向かい合っているが、震え、顔が引きつっている。
そんな表情を見て、不良のリーダーが醜い笑みを浮かべた。
「そうだ、お前らみたいな落ちこぼれクラスはその顔がお似合いなんだよ」
「っ!ふざけるな・・・!」
あまりにも醜悪な物言いに一度は怒りが込み上げるが、眼の前に迫る暴力の気配に霧散してしまう。
せめて、今も震えているクラスメイトの女の子だけでも逃さなくては。
自分がどんな目に会おうと、ここだけは踏み躙られる訳にはいかない。
「俺たちが食い止めるから、お前だけでも逃げてくれ」
戦う覚悟を決め、デバイスの電源を入れたその時、背後から声が聞こえた。
「いい根性だ。お前みたいなやつは嫌いじゃねえ」
突然、背後から女の人の声が聞こえてきた。
いま、建物を背にしているのにも関わらず後ろから聞こえてきた?
混乱していると、建物の上から人が飛び降りてきた。
「君は確か、蒼天院の・・・」
「新様の従者だ」
蒼天院 新の従者であるリンだった。
膝丈ほどのビジネススーツに肩ほどで切りそろえられている髪。
一見すると秘書のような様相であり、荒くれもの達に立ち向かう様に立っているのは違和感がある。
「誰だ!てめえは!」
突然の乱入者に不良のリーダーが声を上げる。
「てめえらに名乗る名はねえよゴミカスども」
見た目と反してとても口が悪いので、更に場違い感が増す。
最初は面を食らっていた不良たちだったが、乱入者が女だったということで安心したのか、徐々に落ち着きを取り戻していた。
「くくくっ。女がひとり増えただけかよ」
「そうだな。女が一人増えただけだ。・・・だが、お前らみてえな雑魚どもは私ひとりで十分だよ」
リンの表情は、明らかに小馬鹿にしたような顔だ。
舐められることが嫌いな不良たちは、分かりやすくキレ始めた。
「っなんだと!」
「殺すぞてめえ!」
「女のくせに調子乗ってんじゃねえぞ!」
傍から見ても幼稚な怒り方に、リンは退屈を隠そうともせずに言った。
「あー、分かった分かった。うだうだ言ってねえでとっとと来い。お前らみてえな奴らは不意打ちで倒したら言い訳がましく騒ぐだろうから、わざわざ目の前に出てきてやってんだ」
「な、なんだと!」
「それとも、ビビってんのか?」
「「「ーーーーーー!!」」」
その一言が引き金だった。
頭に血が上りすぎて声にならない声を上げながら不良3人が殴りかかった。
「はあ、こんなやっすい挑発に乗るやついるんだな」
あまりにも短絡的な不良たちに退屈そうに悪態をつく。
「まあとりあえず、碧水蒔高校流に対処させてもらうか」
彼女の背後にいた6組の面々は、彼女の手元に魔素が急速に集まるのを感じていた。
そして彼女の手元には、いつの間にか鞭が握られていた。
光を通して輝いている、水の鞭が。
不良たちが彼女に距離を詰める間に2回、鞭が振られた。
その2回とも、耳を劈くような破裂音が鳴った。
「・・・っが!!!」
「なんっ??!」
取り巻き二人が顔を抑えながら地面に倒れて悶絶する。
通常、鞭というのは正しく振ることが出来れば、先端部分は軽く音速を超える、殺傷能力が非常に高い武器だ。
鞭打が顔面に当たれば、喧嘩自慢の高校生程度が耐えられるはずもない。
地面に倒れ、唸り声を上げながら悶絶を繰り返す。
「っ!てめええええ!」
瞬く間に取り巻きがやられ、不良リーダーが声を上げる。
先程とは打って変わって、動揺が目に見える。
「ッチ!クソが!!!焼け死ねやああああ!!!」
もはや後が無い不良リーダーがヤケクソ気味に魔法を使い、テニスボールほどの大きさの火球を3発放った。
「なんだそれ、線香花火か?」
水の鞭を軽く振ると、火球はあっさりと消えた。
「?!くそおおおおおおお!!!」
不良リーダーが再度、火球を放つ。
おそらく全力を乗せた、先ほどの数倍の大きさだ。
「お前、真面目にやってんのか?」
先ほどと何も変わらず、火球は水の鞭によって消えた。
「は、ははは、なんだそれ、嘘だろ・・・・」
取り巻きがやられ、頼みの火魔法も全く通じなかった。
その顔には脂汗が浮かび、余裕の表情は焦点の合っていない引きつった笑みに変わっていた。
敵わない、そう思った不良リーダーが突然、地面に頭を擦り付けて土下座をし始めた。
「た、たのむ!俺が悪かった!許してくれ!」
「なんだよ、カスの上に根性もねえのかよ・・・。実践形式の練習にもなりゃしねえな」
そんな腰抜けた様子を見たリンは、つまらなさそうに吐き捨てた。
「お前らカスどもの下らねえいじめのせいで傷ついたやつ、学校に来れなくなったやつがいるんだ。それが自分が痛い目を見る番になったら許してくれだと?・・・・・・笑わせんな」
パァン!!!
「ぎゃっっ・・・・・・!!」
リンが腕を大きく振ると同時に、乾いた音を響かせながら、不良リーダーが錐揉みしながら地面に叩きつけられた。
起き上がることもなく、完全に気を失っていた。
「す、すげえ・・・これが、模擬魔法戦準優勝クラスの実力か・・・」
自分たちを苦しめ続けていた不良たちが、まるで相手になっていない。
助けられた4人はみな、不良たちからの脅威から免れたことよりも、赤子の手をひねるかの様に不良たちを倒してしまったリンへの敬意と高揚感を感じていた。
「さて・・・。4人共、お怪我はありませんか?」
「あ、ああ、大丈夫、だれも怪我していない」
先程までの口の悪さから、見た目通りの気品のある言葉とのギャップに4人は一瞬面を食らったが、次第に冷静になり落ち着きを取り戻した。
「ここに来る途中にジジイ・・・松岡教諭に連絡を入れましたので、来たら説明をして下さい。そしてそこで気絶してるゴミを片付けて貰って、それでこの件は終わりです」
「あ、ありがとう・・・」
こんなにあっさり解決するとは思わず、色々な感情や思考が混ざり合い、4人とも心ここにあらずといった感じだ。
そんな4人の心境を知ってか知らずか、リンが呟いた。
「あなた達には10組のバカ・・・もとい、五十嵐と金剛に一泡吹かさせてもらう予定なので、ぜひとも頑張って頂きたいのです」
「!?なんでそれを知って・・・」
「ふふふ、蒼天院家の情報網を甘く見ないで下さい」
今回のレクリエーションであるトレジャーハントで、上位成績を独占し、かつ五十嵐・金剛ペアを倒すことは、6組のトップシークレットだ。
まず間違いなく、6組以外に知らないはずである。
それを何故知っているのか、そして形式上ライバルクラスだというのに何故応援してくれるのか、疑問が湧き出てくる。
「特に、五十嵐のバカタレは模擬魔法戦で新様のご尊顔を殴るという大罪を犯しています!不遜です!絶対に許してはいけません!私が直接天誅を下したかったのですが、新様に止められてしまっているのです!いいですか?絶対に、五十嵐の顔面をぐちゃぐちゃのボコボコにして下さい!」
「えぇ・・・・・・」
応援してくれていたのはただの私怨だった。
本来なら到底受けることのないお願いだが、助けてくれたという大恩があるのと、勢いが怖すぎてつい頷いてしまった。
「あ、ああ、山田と芦屋がきっと倒してくれるよ・・・?」
「よし、頼みましたよ!!!」
そう言うと、満足げな表情で足早に去っていった。
まるで嵐の中にいたような気分だった。
短い時間に色々ありすぎて、みんな力が抜けてしまい地面にへたり込んでしまった。
「なんか、色々凄かったね・・・」
「そうだな・・・」
本来であれば、6組の問題は6組で解決したかったが、まだ力不足だったと思う。
きっとあのまま交戦しても、負けていただろう。
皆声には出さなかったが、先ほどのリンのように強くなろうと心に誓っていた。
「山田と芦屋、あれを倒した相手と戦うんだよな。大丈夫かな?」
「・・・まだ相手が乗ってくるか分からないけどね。2人も相当強いから、そこは信じよう」
そんな会話をしていたら、遠くから先生たちが走ってくる様子が見えた。
その様子に安心したのか、女子のお腹が可愛い音を立てて鳴った。
タイミングの悪いお腹に顔を真っ赤にして俯いていたが、やがて一人が笑うと、全員に笑いが起こった。
夢中で探索し続け居ていたので気づかなかったが、時間はとっくに昼を過ぎていた。
「先生たちに事情を話したら、お昼食べに行こうか」
「さんせー。俺も腹が減ってしょうがないや」
「ふふ、そうだね」
そこには、いつもの明るい6組があった。




