一方そのころ2
スプラおもろい
碧水蒔テーマパークが誇る名物ジェットコースターは圧巻の一言だった。
スタートはゆったりと山にでも上ってるようなスピードで上昇し高原の景色を楽しむことができ、高さがピークに達したあとは谷底に落ちるような急降下。
木々の間を走り抜け、川の上を通り、山肌にまでレールが通っていた。
まるで一つの冒険を終えた気分だった。
そんなジェットコースターを下りた後は、各々違った感想を抱いたみたいだ。
「はっはっは!あの程度で大自然の驚異を名乗るとは、拍子抜けだな!」
「全くその通りです。新様の御威光の前では大自然も平々凡々でございます!」
碧水蒔テーマパークが誇る名物ジェットコースターを体験した後も、蒼天院 新君と従者のリンさんコンビは相変わらず賑やかだ。
「凄かったねー!木とか山とかめっっっちゃ近くて迫力満点って感じー!」
「ねー!ジェットコースターに乗ってるのに木とか土とかの香りが感じられて凄かった!」
埜上さんと佐野さんはかなり満足しているようだ。
「わ、私は目が回って、もうだめです・・・」
「ど、同感だ・・・」
一方、大人しい組の叶野さんと影下君はへとへとのようだ。
「二人とも大丈夫?そろそろいい時間だし、休憩にしようか?」
「そ、そうしてくれると助かる・・・」
開園から新君に引きずられるように乗り物に乗り続けていたから、僕も正直疲れた。
みんなも、少し疲れが出ているのだろう。
開園直後と比べるとほんの少しだけだが、足取りが重い気がする。
このままだと新君はずっと乗り続けそうだし、ちょっと休憩の提案をしよう。
「新君。そろそろ休憩にしない?お昼時で丁度いいし」
「む、もうそんな時間か?はっはっは!私としたことがつい夢中になってしまったようだ・・・。リンよ!この辺りに昼食を取れるところはあるか?!」
「はい!この先300mほど進むとフードコートがございます!」
「ならばそこで食事にするとしよう!皆、私について来い!」
「はい、新様!おら、お前らとっとと行くぞ」
そう言うと二人はみんなの意見を聞く前に、先導するように歩き始めた。
「え、お昼にするの?おっけー!」
「ここのフードコートは結構おしいって評判らしいよー」
「そ、そうなんですねー」
突然の昼食宣言にも関わらず、女子3人組はぞろぞろとついていっている。
「何気にこの3人は強かだな。蒼天院に振り回されても普通についていけてるな・・・。」
「ふふ、そうだね。影下君は疲れた?」
「いや、友達と遊び回るのは、悪くない」
満更でもない様子の影下君と一緒に、みんなの後に続いた。
トレジャーハントに参加しない生徒たちはテーマパークで遊んでいる人が大半なので、園内は碧水蒔高校の貸し切りにも関わらず、フードコートは学生で賑わっていた。
「新様!こちらの席が空いております!」
そんな中、リンさんが手早く席を確保し、全員でそこに座った。
「?!あらた様、席にゴミが付いているので少々お待ちを!・・・ったく、碧水蒔の連中め、適当な仕事をしやがってよお。新様の服に付いたらどうしてくれんだぁ・・・」
椅子についていた数ミリの糸くずを目ざとく見つけ、ぶつぶつ言いながら手早く綺麗にしている。
その様子を見ていた影下くんがポツリとつぶやいた。
「やっぱり財閥ってのはどこも過保護なんだな」
「いやいや、あそこまで過保護なのはリンさんだけだよ」
いくら財閥とはいえ、あそこまで一生懸命に世話をするのはリンさんくらいだ。
「いや、君のところもなかなか。現に今だって・・・・・・っ!いや、そうだな!新の所だけだな!」
なにか言いたげだった影下くんが、僕の遥か後方を見て口をつぐんだ気がした。
気になって後ろを確認したが、学校の生徒がいるだけで特に何もない。
一瞬、僕のボディガードがいた気がしたけど、学校の行事には極力干渉しないように言いつけてあるし、気の所為だろう。
「・・・知らぬは本人ばかりか」
遠い目をしながら影下くんが何かをつぶやき、何故だか諦めたように席に座った。
「じゃあウチらはこっちー!いやー、お腹ぺこぺこだよー」
元気な埜上さんに連れられるように、女子3人組がテーブルを挟んで向かい側の席に座った。
「だねー。にしてもここなんでもあるねー。かのちゃんは何食べるー?」
「わ、私はハンバーグを食べようかと・・・。あとデザートにチーズケーキとチョコレートケーキを・・・」
意外、と言っては失礼かもしれないが、叶野さんは小さいけど結構食べるんだな。
「えー、ケーキあるんだー!どうしようかなー。ちょっとここに来てから食べ過ぎてるしー」
「だよねー。でも華ちゃん別に痩せてるんだからいいじゃん」
「見えないところでキちゃってるんだよねー。うー、どうしよ!?どうしたらいいかなかのちゃん!」
「が、我慢はよくないですよ。それに華ちゃんは食べても胸に行くから・・・」
叶野さんのケーキ発言から女子3人組がどんどん賑やかになっていく。
「おいそこの陰キャ!ぼーっとしてねえで新様の飲み物持ってこいや!」
「な、なんで俺が・・・?」
「あ゛?見りゃ分かんだろ。あたしは今、新様の席を綺麗にするのに忙しいんだ。ちなみに緑茶な。とっとと行けや!」
「り、理不尽すぎる・・・」
影下君がリンさんに恫喝され、泣く泣く飲み物を取りに行く。
その様はヤンキーに絡まれた善良な一般学生の様だ。
「ほ、ほら取って来たぞ」
「お、早えじゃねえか。新様、こちら緑茶です!」
「ふむ、頂こう。・・・む、これは熊屋の緑茶だな。ふはは、なかなかいいセンスではないか碧水蒔よ!」
「さようでございますか!・・・・・・新様がお喜びだ。お前が持ってきた飲み物が褒められたんだ。光栄だろ?」
「ええ・・・。全く嬉しくないんだけど・・・」
リンさんは新君のことになるといつもこうなってしまう。
誰彼構わず使い走りにするし、口も悪くなる。
1人でいる時は普通なのになあ。
そんなこんなで食事の注文を終え、談笑する雰囲気になった。
「そういえばゆうゆうさー、いがちゃんはまだトレジャーハントに参加してるのー?」
埜上さんから出てきたのは、僕の友達でもある五十嵐 秀介の話題だった。
ちなみにゆうゆうというあだ名は気が付いたらそう呼ばれていた。
「うん、今日はほぼ一日、山岳エリアの探索をするらしいよ」
「えー、せっかく遊園地があるのに、もったいないねー」
そう言った埜上さんは口をへの字にしていて、非常に残念そうだ。
「ふむ、我がライバルの五十嵐 秀介か。盟友の私としては、当然1位を取ってもらいたいところだな。出なければ張り合いが無くなってしまう」
新君も秀介の話は気になるみたいだ。
彼も僕と同じく、財閥に生まれ友人が僕以外にいなかったからだろう。
最も新君の場合は自分が認めた人以外とは深く仲良くしようとはしなかっただけだが。
「昨日の時点ではトップだったらしいから、今日が順調なら1位で終わると思うよ」
「へー、いがちゃんやるじゃん!さすがだね!」
埜上さんは自分のことのように嬉しそうだ。
そんな様子を見て、ジュースを飲んでいた佐野さんが口を開いた。
「華は五十嵐君の話になると楽しそうだねー」
「え、そうかな?やっぱり似てるからかなー?」
似てるって誰にだろう?
その疑問が顔に出ていたのだろう、僕を見て佐野さんが口を開いた。
「この子、『パチキュア』が凄い好きなんだって。で、その中のキャラクターの一人に五十嵐君が似てるらしいよ」
「『パチキュア』って、日曜日の朝にやってるやつだよね?」
『パチキュア』は女児に人気のアニメだ。
僕はあまり見たことは無いのであまり知らないが、女の子が魔法を使って悪者をバッタバッタと倒していくアニメだ。
小学生くらいの女の子はみんな見ているくらい好きと聞いたことがある。
「高校生にもなって、いまだに新作を見てるんだって。しかも、碧水蒔高校魔法科に入学したのも『パチキュア』の影響だってさ」
「へー、それは生粋のファンだね」
見た目が今どきのギャルっぽい感じだから意外だったが、埜上さんらしいと言えばらしい、気がする。
「『パチキュア』はあーしの憧れなんだから!逆に佐野ちゃんはなんで見てないのー?」
「見てたわよ。小学生の時まで」
「えー、また見ようよ!面白いよ!」
「いやいや、もうそんな歳じゃないでしょ」
「うーわ。佐野ちゃんおばさんくさーい!」
話が脱線しているが、埜上さんと佐野さんがわいわいと盛り上がっている。
秀介に似ているキャラがちょっと気になるから話を戻そう。
「そのアニメの登場人物の中に秀介に似ているキャラがいるの?」
「そう!初代の王子様なの!画像あるから見てみて!」
そう言ってスマホを見せてくれた。
画面には黒髪で王子様のような衣装を身に纏った爽やかなイケメンキャラがキラキラの光を纏った姿が写っていた。
秀介はどちらかというと大人しいよりの見た目をしているので正直似てない。
黒髪ってところくらいしか共通点が無い気がする。
「このキャラはね、『パチキュア』たちがピンチになったら颯爽と現れて、得意の高速水魔法でぱぱっと助けてくれるの!」
「ああ、なるほど。見た目じゃなくて使ってる魔法が似てるってことか」
それなら納得だ。
しかし、話題になってすぐに画像が出てくるくらいなので、相当好きみたいだ。
現に今もとても楽しそうに話をしている。
そんな様子を尻目に、新君が何かを考えていた。
「新君も『パチキュア』に興味があるの?何か考えてるみたいだけど」
「魔法を使うという点においては興味はあるが、そうではない。我がライバルの五十嵐・・・」
「お待たせいたしました。料理をお運びいたしました」
そこまで口を開いたところで料理が来てしまった。
「お、きたきたー!うわ、かのちゃんのハンバーグ美味しそー!」
「ていうか、蒼天院君のそのステーキ何?フードコートのメニューじゃないでしょ・・・」
「新様には最高級和牛のステーキを用意させました」
「財閥なんでもありすぎでしょ・・・」
話が流れてしまい、結局何を考えていたのか聞きそびれてしまった。
食事が終わったら、それとなく聞いてみようかな。
そう思い目の前のカツカレーを口に運んだ。




