一方そのころ1
走り続けていたので休憩でも取ろうかと思ったその時に電話が鳴ったのが十数分前。
電話口から「尾行を撒かれた」という連絡が入った。
その後、崖上から彼が落ちて来たときはさすがに驚いた。
目を閉じ、先ほど見た魔法を思い返す。
模擬魔法戦で見た時よりも、遥かに早い速度で魔法が発生していた。
天賦の才、とでも言うべきか。
彼が軽く手を振った瞬間にはすでに水魔法が放たれており、目を疑った。
本人は威力が無いと言っていたが、その欠点を持ってしてもあの圧倒的な魔法発生速度は驚異と言わざるを得ない。
こちらが魔法を放つ隙すら与えられずに手数で倒される、なんて勝負としては笑えなさすぎる。
今回のトレジャーハントの目標の一つには、五十嵐・金剛ペアを決闘システムの土俵に立たせ、自らの力で倒すことがある。
こちらの手札も少し晒してしまったのはややマイナスだが、切り札は取っておいてある。
「しかし、野生動物がほとんどいないと聞いたんだが、あんな巨大なイノシシに追いかけられるとは不運にもほどがあるな・・・」
そういえば、昨日はお風呂場で同級生を熱湯風呂に突き落として遊んでいたという噂を聞いた。
一部始終を目撃していたクラスメイトから聞いたところ、実は突き落とそうとしたところ吃驚して勝手に落ちて行っただけらしい。
それが巡り巡って突き落としたという話になっていた。
その前も、女性をぬるぬるにする破廉恥魔法を開発しているとかいう、意味の分からない噂が立っていたっけ。
そういう星のもとに生まれてしまったのだろう。
人の不幸を笑う趣味は無いが、あまりにも滅茶苦茶な彼の学園生活を考えると、思わず笑いがこぼれてしまった。
そんな彼の、慌ただしく駆けていく後ろ姿が消えたのを見届け、景品の回収を再開した。
トレジャーハントに精を出す者たちもいれば、純粋にリゾート施設を楽しんでいる者もいる。
白雲財閥の御曹司である白雲 悠もその一人だ。
昨日は友人の蒼天院 新と一緒に沐浴をしたり川辺でのんびりしていたが、今日はクラスメイトに誘われてテーマパークに遊びに来ていた。
「テーマパークなぞ童の遊び場だと思っていたが、なかなか心躍るではないか!むっ、なんだあれは?!『大自然の驚異を君は受け止められるか?大自然の中を自由自在に飛び回る。その名もネイチャーコースター』だと!?これは・・・・・・私への挑戦だな?!行くぞ、リンよ!!」
「畏まりました!新様!」
ここに来てからというもの、友人である蒼天院 新はとても楽しそうだ。
今もジェットコースターに大はしゃぎをしている。
普段は煌びやかな銀髪に青いメッシュの入っている髪の上には、このテーマパークのマスコットキャラクターであるカルガモのゆるキャラ『ガモッピー』の嘴をモチーフにした帽子を被っている。
さらに、ガモッピーをモチーフにしたドリンクホルダーを肩から下げていたり、腕にもガモッピー型のぬいぐるみがしがみついている。
従者のリンさんもガモッピー帽子を被っており、2人は全身で楽しいを表現していると言っても過言ではない。
そんな蒼天院財閥の御曹司に、白雲 悠以外の全員が驚いている。
「いやー、凄いね蒼天院君。あんな感じなんだねー」
「だねー、びっくりしちゃったよ」
と、誘ってきた張本人である埜上さんとその友人の佐野さんが驚いている。
もう1人叶野さんもいるのだが、新君のテンションに驚いて喋れなくなってしまっている。
ちなみにたまたまロッジであった模擬魔法戦でのチームメイトである影下君もいるのだが、こっちも喋らずに黙っている。
もっとも、影下君の方はこういう多人数での場に慣れていないだけなのだが。
「こういうところにくるの初めてなんだって」
「え、そうなんだ!お金持ちだし飽きるほど来てるのかと思ったよ!」
「来る機会がなかったんだって」
正確に言うと、遊園地には来たことはあるらしい。
しかし彼の両親が貸し切りにしてしまうため、人で賑わっている雰囲気が初めてと言っていた。
つまり新君にとって遊園地は、なんか巨大な遊具が沢山あるところという印象だったらしい。
賑やかな雰囲気が好きな新君には、人が沢山いる方が楽しめるみたいだ。
「何をしている10組の者どもよ!我について来い!」
「おー、テンション上がってんねー!」
「まあ、たまにはこういうのもいいか」
「そ、そうですねー」
先導する新君の後を続いてジェットコースターへと向かっている。
高いテンションだったり、独特な言い回しや財閥の御曹司という肩書のせいでついていけないという人も多い中、どうやら埜上さんたちは受け入れてくれたらしい。
突発的に誘われたが、僕の大切な友人を受け入れて貰えて良かった。
「ふふふ、それじゃあ僕たちも行こうか」
「ああ、行こう」
影下君から素っ気ない感じの返事が返ってくるが、顔はとても嬉しそうだ。
彼は芸能人と見紛うほどの美形なのだが、どうやら今まで友人に恵まれなかったらしく、人と喋るのが苦手らしい。
そんな彼だったが、模擬魔法戦を通じて今では普通に話す仲にはなっている。
ただ、さっきみたいにあまり話したことの無い人たちといると、緊張してなにも喋れなくなってしまうらしい。
碧水蒔高校に入学するまで、友人が新君しかいなかった僕は、密かにシンパシーを感じていたりする。
「そういえば、影下君はトレジャーハントに参加しなかったんだね」
「いや、昨日は参加していた」
「あれ、そうなんだ?」
今日は参加しなくて良かったの?と続けて聞こうとしたとき、影下君が口を開いた。
「実は昨日はみんなと遊ぼうと思ってたんだが、金剛や秀介はトレジャーハントに行っちゃうし、猿堂君たちも気が付いたらいなかったし、きみは蒼天院君と一緒に居て近寄りがたい雰囲気だったから、仕方なく一人で探索していた」
「そ、そうだったんだね・・・。僕だったら気にせず話かけても大丈夫だよ・・・」
シュウから話は聞いていたけど、相当コミュ障みたいだ。
「財閥の御曹司が二人で話してたら普通の人は話かけられない・・・。なんか庶民には分からない大事な話をしているかもしれないし・・・」
「そ、そんな大事な話とか、全然しないよ・・・。まだ学生だから、家のこととかあまり分からないし・・・」
僕としては気兼ねなくは無しかけてくれた方が嬉しい。
影下君に限らず、こういった理由で人と話せなかったのは今に始まったことじゃない。
財閥という肩書は普通は重く見えてしまうみたいだ。
だからこそ、今まで新君以外の友人がいなかったのだろう。
少し寂しいが、しょうがないことなのだろうか。
(いや、違う)
今まではここで去る人を見送っていただけだけど、やっぱり沢山友達が欲しい。
こっちから歩み寄らなくては、何も変わらない。
勇気を出すんだ。
もじもじしている影下君の手を思いっきり掴んだ。
「友達でしょ!そんなの気にしなくていいから!」
「・・・っ!白雲君・・・!こんなコミュ障の為に・・・!」
自分のやりたいようにやったのだが、影下君は僕が気を使ってくれたのだと思い涙目になっている。
凄い美形だから、いまこの瞬間だけ見た人はドラマのワンシーンに見えてしまうのではないか、と変な考えが頭に過り思わず笑みがこぼれてしまった。
影下君の手を引き、新君たちが待っているジェットコースターへと駆けて行った。
(そういえば、秀介たちは宝探し順調かな?)
ふと、もう一人の友人の顔が浮かんだ。
当の本人は巨大イノシシに追いかけまわされ、崖から落ち、命からがら逃げ回っているのだが、こんな平和な時間を過ごしている白雲 悠にはつゆも思わなかっただろう。




