トレジャーハント2日目-5
「改めて聞くが、何故崖から落ちて来たんだ?ここの辺りはあまり人が来ないはずの場所だが?」
「山田 壱郎君・・・?」
僕を助けてくれたのは七三分けの髪型に四角い眼鏡が特徴の、6組の山田 壱郎君だった。
結構な高所から落ちて来たはずだけど、お姫様だっこのような状態で受け止めたみたいだ。
おそらく彼の体内魔素のおかげということもあるだろうが、見た目と違って意外に力があるな。
しかし、改めて『何故崖から落ちて来たんだ?』と問われこうなったいきさつを考えると自分でも分からない。
トレジャーハントに参加して、3バカと戦って、巨大イノシシに追いかけられて、崖から落ちて、お姫様だっこをされている。
・・・・・・どうしてこうなってるんだろう?
「どうした五十嵐君?」
「あ、いや、とりあえず下ろしてもらってもいい?」
お姫様だっこの状態は流石に恥ずかしい。
というか、男同士だし絵面が意味分からないし。
地面にゆっくり下ろしてもらい、何故か麦わら帽子を被っている山田君と向き合う。
「ありがとう。助かったよ・・・」
「それで、一体どうしたんだ?」
改めて、と言った感じで山田君が眼鏡を正し、問いかけてきた。
「いや、実は・・・」
状況を説明しようとした瞬間。
「ぷぎいいいいいい!」
もはや聞きなれた巨大イノシシの声が崖上から響き、その巨体が崖に飛び込んだ。
「ぷぎゃあああああああああ!!!!」
ドスン、という音を響かせ咆哮するその様は、まるで百獣の王である。
その様子を見て、山田君は軽く頷いた。
「なるほど。トレジャーハントをしていたら、イノシシに追いかけられたという訳か」
「うん、そうだけど、良く分かったね」
「勉強は得意だからな」
あまり関係ない気がするけど、それだけ頭が回るってことを言いたいのだろうか。
当然のことのように話す様に嫌みのような感じが全くないのは、おそらくそれだけ自身の頭に自信があるのだろう。
「しかし、野生とは思えないくらい巨大だな。誰かが飼っているのか?」
「いやいや、そんな訳・・・。もし飼いイノシシだったらしっかり躾くらいしてほしいよ」
ここまで巨大でしかも凶暴なイノシシを飼っている人間がいるとしたら頭のネジが飛んでしまっている。
「どうやらやる気みたいだな」
気が付いたら巨大イノシシはこちらを見据えて、今にも突進してきそうな雰囲気だ。
「まずい。あのイノシシに僕の魔法は通じないんだ」
「私もあんな巨大なイノシシを倒せるような魔法は使えないな」
そう言いながら、一歩、前へと歩を進める。
「だが、追い払うことは出来る」
そう言うと、山田君の手に微かだが火が灯った。
「火魔法使い・・・?」
「そうだ。威力は出ないが一応火魔法使いだ。それに、コントロールには自信がある」
手に灯っていた火が少しづつ大きくなり、やがてピンポン玉ほどの大きさになる。
「ぷぷぷぷぷぎゃあw」
その程度の火でビビると思ったのか?と言いたげな鳴き声を上げる。
正直、僕の目から見てもあの程度の火力では追い払うのは難しそうに見える。
突進の勢いで火が弾かれるか消えるかだろう。
「山田君。あのイノシシは凶暴だ。その火力じゃあ・・・」
「壱郎でいい。まあ見ているといい」
その相貌には、先ほどのように自信が感じられる。
「分かった。危なかったらすぐに逃げてよ、壱郎君」
返事は無かったが、代わりにもう一歩前に進んだ。
その様子を見た巨大イノシシが、こちらに向かって突進をしてきた。
「ぷぎゃああああ!!」
そして、壱郎君もまた巨大イノシシに向かって駆けだした。
無茶だ。
あの巨大イノシシに自分から距離を詰めるなんて危険すぎる。
ピンポン玉ほどしかない火魔法をイノシシに放ちながら、距離を詰める。
放った火魔法は一見すると、突進してくるイノシシの軌道を真芯に捉えていて完璧に見える。
「でも、ダメだ・・・!」
火魔法が当たる寸前、巨大イノシシが顔を少し逸らし、そして自身の牙で火魔法を弾き飛ばした。
やっぱり、威力が足りないか・・・!
このままでは壱郎君が危ない。
咄嗟に水魔法で援護をしようと思ったが、予想外の動きがあり手が止まった。
弾かれたはずの火魔法が綺麗に壱郎君の手に収まった。
一度放った魔法を操り引き寄せるとは、確かに素晴らしいコントロールだ。
ぶつかる寸前で壱郎君の体が横方向に大きく沈み、突進をいなしイノシシとすれ違う形になる。
「ぷぎ?!」
突如視界から目標が消えたため、イノシシが驚いてブレーキを掛ける。
低い姿勢のまま、すれ違った壱郎君の体が機敏に反転し、イノシシの背後を取る。
「これで終わりだ」
壱郎君の手から放たれたピンポン玉ほどしかない火魔法が、しっかりとイノシシの尾に当たった。
「ぷ、ぷぎゃああああぁぁぁぁ!」
尾に火が付き、先程まで勇ましく上げていた雄叫びが情けないものに変わった。
流石の巨大イノシシも体に火がついてしまってはどうすることもできない。
涙目になりながら辺りをのたうち回っている。
「凄いね壱郎君!・・・って、あれ?」
なんか、麦わら帽子の下から見えた壱郎君の目が赤く見える。
さっきまで普通に黒だった気がするけど。
「模擬魔法戦の優勝者と比べたら大したことないさ」
一瞬、目が赤くなっているように見えたが、もう一度見た時には元の黒色に戻っていた。
光の反射とか、もしくは気のせいだったのだろうか?
先ほどの戦闘によって眼鏡に付いた埃を拭きながら、壱郎君が口を開いた。
「さて、そろそろ火を消すか」
「えっ、大丈夫かな・・・?」
イノシシはいまだに火が消えずに暴れている。
先ほどとは打って変わって震えた鳴き声を上げている様は、少しだけ可哀想にみえなくもない。
とはいえ散々追いかけ回されたし、また襲い掛かってこない保証もない。
「また暴れるようならもう一度相手をすればいい。それに、森の方に抜けて火事になったら洒落にならない」
「確かに火が燃え移ったら危ないか」
山火事なんて起きたらそれこそ洒落にならない。
もう一度暴れたら壱郎君に何とかしてもらおう。
水魔法を生成し、イノシシに狙いを定める。
「・・・発生が、本当に早いな」
「ん、何か言った?」
「いや、何でもない」
暴れるイノシシの尾に水弾を放つ。
「よし、一発命中」
上手く尾に当たり火が消えた。
何が起きたのか分かっていないイノシシは暫くキョトンとしていたが、やがて落ち着いたのかこちらに歩み寄って来た。
「ぷぎゅ・・・」
また突進してくるのかと思い身構えたが、情けない声を上げながら潤んだ瞳でこちらを見てくる。
「火を消してくれたお礼を言っているのではないか?」
「いやいや、そんな、人間じゃないんだから・・・」
でも、追いかけまわされている間に散々人間のような感情表現を見ているので本当にお礼をしている可能性もある気がしてしまう。
「もう人間を襲わないな?」
「ぷ、ぷぎい!」
先ほどの出来事がトラウマなのだろう。
壱郎君の問いに返事をするようにコクコクとイノシシが頷く。
・・・実は中身が人間ってことはないよな?
その後、壱郎君に釘を刺された巨大イノシシは、逃げるように森の中に帰っていった。
ふう、なんとか危機は去ったみたいだ。
しかし、ひどい目にあった。
危機は去ったとはいえ、予定していたルートから大きく外れ、更にはスマホが使えなくなったのでレオと連絡は取れない。
あまりにもついてなさ過ぎてため息が出そうだ。
幸い今回の林間学校で支給されたデバイスにはGPS機能があるので、それを使えばレオと合流予定だった場所までは行けそうだ。
それにしても偶然だったとはいえ、壱郎君には恩が出来てしまった。
「ありがとう壱郎君。本当に助かったよ。魔法も凄い上手だったし」
「こちらの台詞だ。さっきの鎮火したときの魔法の発生速度。模擬魔法戦で見た時より早くて驚いたよ」
「その代わり威力は無いんだけどね」
もっと威力があればさっきのイノシシも自力で追い払えただろうし、弱点が明確すぎてあまり褒められたものじゃないけど。
「・・・いや、本当に驚いたんだ。どうやればあんなに早く魔法が使えるんだ?」
「うーん、練習してたら出来るようになったとしか・・・。自分でも分からないや」
「そうか・・・。練習で出来るようになったというには早すぎるし、才能の可能性が高いか・・・?あるいは無意識に魔法の高速発生の方法を認識しているのか・・・?どちらにせよ、まだ未知の領域の可能性が高いか・・・」
僕の返答にぶつぶつと喋りながら自分の世界に入ってしまった。
どうやら僕の魔法発生速度について考えているらしい。
最近では驚いたら反射的に水魔法が出てきちゃう時があるから、もし分かったら教えてほしい。
先週も、飛んできた虫に驚いて水魔法が出ちゃったら、レオに『お漏らし魔法使い』とかいう不名誉なあだ名をつけられそうになったし。
やがて独り言を喋り続けていた壱郎君がこちらを見て口を開いた。
「もし言語化できるようになったら、ぜひ教えてほしい」
「うん、もちろんいいよ」
どうやら勉強だけではなく魔法にも熱心みたいだ。
僕もこれくらい熱心に勉強していたら、こちらの世界の社会科テストも何とかなったのだろうかと一瞬考えたが、魔法を練習する時間が減ってしまうので無しだな。
テスト・・・あ、そうだ!こんなところでもたもたしている場合じゃない!
早くテストの点数を集めないと、夏休みが補習になってしまう!
「ごめん、壱郎君、僕はそろそろ行くよ!」
「そうか。それじゃあまた会おう」
「うん、バイバイ!」
壱郎君と別れ、レオとの合流地点である『星の峠』へと向かった。




