弱者の戦い方
芦屋 宗悟と山田 壱郎が在籍している6組というクラスは全員の仲が非常に良く、教室はいつも活気で溢れている。
まだ3か月という月日しか経っていないのに、そこまで仲が良いのか。
その理由の一つに、1年生の中でも魔法の実力が非常に乏しいということが、結果として仲が良くなることにつながった。
入学後すぐに行われたランク認定ではBランクが2人いたが、Cランク0人でDランク28人と最低ランク認定者が全クラスで最も多いことを意味した。
そもそも魔法を使用するには1台約100万円もする魔素変換デバイスが必要であり、一般家庭に生まれた人間では手に入れることが難しいので、魔法を学ぶために魔法科学校に入学したものにDランクが多いのは当たり前のことである。
しかし、魔法という存在が人々に認知されてから数年経ったいま、ある程度魔法の実力を持ちながら入学してきた生徒が多くなっていた。
その結果出来上がったのが、ワーストクラスの6組である。
偶然、クラスの中に魔法経験のある人が3人しかいなかった。
偶然、すぐに才能を開花させた生徒が少なかった。
偶然、入学した学校が競争を重視する校風だった。
ただそれだけのことで、6組の面々は悔しい思いをすることになった。
クラス対抗の合同の魔法演習が始まれば、他のクラスよりも劣る魔法しかだせないものばかり。
実戦形式の演習をすれば、いつも一方的に打ちのめされる。
魔法の実力を重視するこの学校で魔法の実力が低いことは非常につらいことであり、まるで他のクラスの自己肯定感を高めるためだけに存在しているようで惨めだった。
そんな劣等生が集まったことで、必然的に他クラスから嫌がらせのようなことまで起き始めている。
安全圏から弱いものを虐げ、愉悦するクズが湧いてきたのだ。
気の弱かった女子生徒が、演習中に魔法の実力を複数人に嘲笑されだり嫌がらせをされたりして、危うく不登校になってしまう事件まであった。
今回のトレジャーハント中も、後を付けられ景品を横取りする嫌がらせ行為を受けていた。
そんな行為もルール違反ではないので、実力不足だと諦めるしかなかった。
しかし、劣等生が集まったクラスだからこそ、互いを励まし合いながら前を向くことが出来た。
魔法の実力をからかわれたときは怒りを胸にいつか見返してやると心に秘め、演習で敗北すれば互いに協力をし魔法の練習に励んだ。
互いが互いを支え合いながら、いつしかクラスの絆は非常に強固なものになっていた。
そんな6組のコテージ。
1階にほぼすべての生徒たちが集まっていた。
しかし、普段の明るい面影がなく緊迫した雰囲気であり、みな一様に不安と期待が入り混じったような表情をしている。
中には祈るように両の手を強く握り、悲痛な表情を浮かべている物もいる。
待つのは、芦屋 宗悟と山田 壱郎の二名。
6組が勝つために、必死に情報を解析している。
トレジャーハントが始まるまで、あと数刻しかない。
そんな緊迫した空気を打ち消すかのように、階段の方から声が聞こえてきた。
「何とか間に合ったなー、壱郎」
「ああ。後は答え合わせだけだ」
二階から芦屋 宗悟とその親友の山田 壱郎が降りてきた。
2人の姿を見て、ひとりの男子生徒が我慢出来ずに声を上げた。
「壱郎!宗悟!・・・分かったのか?!」
そんな男子生徒の声に芦屋 宗悟はわざとらしく驚いたフリをしながらクラスメイトを見渡した。
「なんやお前ら、そんな辛気臭い顔して。壱郎は天才や・・・。分かったに決まっとるやろ」
何故か誇らしげな表情をしている芦屋 宗悟が、大げさに山田 壱郎の肩を叩いた。
「五つある内の一つだけだがな。だが9割9分間違いないだろう」
そのセリフに、先ほどの緊迫した空気が霧散し、いつもの明るい雰囲気になる。
まだ勝負は決まっていないが、みんなの表情が一様に明るくなる。
芦屋 宗悟と山田 壱郎はこの6組の希望だ。
この二人がトレジャーハントの作戦を提案してくれなければ、ロクに景品を獲得できずに林間学校を終えていただろう。
「ほら、なんか言ってやれよ壱郎」
「なんかとはなんだ?」
「今回の作戦の功労者はお前やろ?気の利いた一言でも言ってやれや」
「まだ勝ちが決まった訳ではないのだがな・・・大体、作戦の立案者はお前だろ?」
「鈍いねー。みんな壱郎を信じて待っとったんや。なら、お前が音頭を取るべききやろ」
芦屋の言葉に少しだけ考える所作をし、一歩前に出る。
「今回の作戦、私は自分が功労者だとは思ってない。私たちを信じ、情報をひたすら集めてきてくれたみんなが功労者だと思っている。・・・後は勝つだけだ。ワーストクラスの意地、見せてやろう」
一瞬の静寂ののち、拍手が湧き上がる。
音の主たちの表情は希望に満ちている。
渦中の壱郎はこういう事に慣れておらず、落ち着かない様子だ。
恥ずかしくなってきたのか、拍手に割って入るように喋りだした。
「注意すべきは5組の大島、7組の中山だ。この二人は今日もトレジャーハントに精力的に参加するという情報が入っている」
強引に空気を変えたのに気付いたのか、芦屋はからかう様に笑っている。
「そして最大の脅威は、景品獲得数1位と2位の金剛と五十嵐だ。・・・この二人は、私たちで何とかする」
今回のレクリエーションであるトレジャーハントを、最も戦略的に動いているこの二人は邪魔だ。
先の模擬魔法戦でも目覚ましい活躍をした者たちだが、実力で劣るとは思った事はない。
6組の目標は景品ではない。
ワーストクラスと言われ、弱さを理由に誹るクズたちに報いる為に。
「狙うは6組の上位独占。そしてクラスレートを上げるぞ」
咆哮混じりの歓声がコテージに響き渡る。
その声を聞きながら壱郎は目を閉じ、クラスメイトをひとりひとり思い浮かべ、かつての弱かった自分を重ねる。
小さな勝ちではダメだ。
目指すは圧倒的な勝利。
自分たちの身を守るには、強くなるしかない。
このクラスに人事を尽くさなかったものは誰一人としていない。
ひたむきに頑張っている物が、つまらない者に足を取られるのは我慢が出来ない。
決意を胸に秘め、6組全30人はコテージを後にした。




