みそぎ
仕事がひと段落したと思ったけどしてなかったわ。
先ほど感じた気の迷いを振り払うように、お風呂場に足を進めた。
更衣室とお風呂場の境の扉を開けると、湯気がスーッと抜けていき、徐々に視界が晴れてきた。
大浴場とはよくいったものだ。
収容人数500人は伊達ではなく、さまざまの温泉に巨大な温水プールまで存在しており、一種のレジャー施設のような感じになっている。
中には様々な効能の温泉や、水風呂やサウナも完備されており、一度で飽きさせないような工夫が施されている。
今は30人ほどしかいないので、更に広さが際立っている。
一緒に来た悠君も珍しくテンションが上がっているみたいだ。
「凄い広いねー。実家のお風呂の5倍くらいはあるよ!」
「そうだね、本当に広い・・・・・・ん?」
聞き流すところだったけど、実家のお風呂の5倍?
収容人数500人規模のお風呂が5倍ほどの大きさということは、悠君の実家のお風呂は100人くらい入れるくらいの大きさということになってしまう。
ここの運営元である碧水蒔財閥の規模がおかしいのは理解してはいたけど、白雲財閥もなかなか規模がおかしいみたいだ。
早く温泉に入りたいところだが、まずは体を洗わなくてはと思い、シャワールームを目指した。
シャワールームは個室になっており、落ち着いて体を洗うことができるようになっている。
蛇口を捻ると、かなり大き目なオーバーヘッドシャワーから、普段使っているシャワーの倍以上の水量でお湯が出てきた。
「おー、凄い。水量が増えただけだけど、それだけで普通のシャワーより気持ちいい」
髪を洗うべく備え付けのシャンプーを手に取ってみると、『HEKISUIJI』と書かれていた。
このシャンプーもおそらく高級品なのだろう。
香りも良いし、泡も柔らかい気がする。多分。
正直美容とかあまり興味がないから違いが分からない。
「そういえば、クラスの女子が碧水蒔は美容に強いとかなんとかいってたっけ?」
今更だけど、美容や魔法事業だけではなく学校運営までするのは凄すぎる気がしてきた。
それを可能にしてしまう財閥の力は僕では想像できないくらいの規模なのだろう。
そしてその財閥と肩を並べる白雲財閥と蒼天院財閥の御曹司と同じ学年というのはとてつもなくレアな体験をしているのかもしれない。
「秀介ー?そっちにシャンプーってある?こっちになくてさー」
そんなことを考えていたら、個室の外から当の御曹司である悠君の声が聞こえた。
「シャンプー?あるよー。使う?」
「ちょっと貸してほしいな」
個室のドアを開けると、そこには腰にタオルを巻いた悠君が立っていた。
うん、少し華奢だけどちゃんと男の子の体つきだ。
さっきもそうだったけど、たまに謎の可愛さを出す時があるから、もしかしたら、と思ってたけど杞憂で良かった。
「ありがとう。・・・ん、どうしたの?」
「いや、別に、なんでもないよ。はいシャンプー」
いくら同姓とはいえ、体を凝視しすぎるのは良くないな。
幸い悠君は気にしていないみたいだ。
とりあえずシャンプーを渡して誤魔化しておいた。
「?まあいいや。ありがとう」
シャンプーを渡して悠君が自分のシャワールームに戻ろうとしたその時、悠君が足を滑らせた。
「あっ!」
「危ない!」
背中から倒れてきた悠君を、後ろから抱きかかえるように支える。
ぷにっとした感触が、再び手に感じられた。
「・・・ケガは無い?」
「んんっ・・・!ごめん、また助けられちゃったね」
身じろぎしながら悠君が申し訳なさそうに謝る。
そういえば、初めて話した時も転んでたのを支えたんだっけ。
足が悪いらしいので、転びやすいのだろうか。
「滑るから気を付けてね」
「うん、気を付けるよ」
そう言うと、自分のシャワールームに戻っていった。
再び、個室の中で一人になる。
「さて・・・」
先ほど不意に触れた悠君の体は、同性とは思えないほど柔らかかったことを思い出す。
男なのはわかりきっているのに、またドキッとしてしまった。
シャワーの温度を限界一杯まで冷水にして頭からかぶる。
「落ち着け、落ち着け、悠君は男、悠君は男」
再び頭を悩ませることになった僕は、冷水で体を洗いながら頭を冷やし、全身を洗い終わるころには頭どころか体まで冷え切った。
今日は疲れているから、脳がバグりやすいのだろう。
温泉に入って体を温めて、疲れを取ることにしよう。
冷えに耐えながら、温泉へと向かった。
残念ですけどちゃんと男です




