食後のデザート
ロッジの外席に座り、レオとカレーを食べ始めた。
JK三人組が作ったカレー。その味は。
「めっちゃおいしい!野菜とお肉が特に!」
「食材は碧水蒔が用意したやつか。流石に普通のカレーより圧倒的にうまいな」
ルーももちろんだが、一つ一つの食材が際立っておいしい。
昼に食べたバーベキューもそうだが、食材に対するこだわりを感じる。
もちろん、食材だけではここまで美味しくはならなかっただろうから、埜上さんたち三人組の力が大きいだろう。
うーむ、家庭的なギャルか。悪くない。
確かおばあちゃん子だったらしいし、本当に見た目と中身が合わないな。
「もっと早く帰ってくればよかったね・・・」
「ああ。おかわりが無いのが残念だ・・・」
戻って来た時には食缶が空になっていたのも頷ける。
これはおかわりしたくなる。
普段なら満足な量だが、半日動き回ったせいでちょっと物足りない。
ロッジに何か残ってないだろうか。
「あ、2人とも戻ってたんだ」
そう思った矢先、悠君がロッジ内から現れた。
手に持っていたお皿を僕たちのテーブルに置いた。
お皿にはカットされたフルーツと和菓子が色々乗っていた。
・・・変な組み合わせだな。
「さっき戻ったとこだよ。そのお皿は?」
「これはリンさんがくれたんだ。新君のデザートとして用意していたらしいけど、今日は洋菓子の気分だったんだって。みんなで食べようよ」
「なにそれ。わざわざいろんなデザート用意してたってこと?」
蒼天院家の従者はそこまでしなくてはいけないのか。
・・・いや、流石に新君にべったりのリンさんがやってるだけか。
まあ、もう少し食べたかったからお言葉に甘えて食べようかな。
悠君が僕の席に座り、3人でデザートタイムとなった。
味は・・・新君が食べる物だけあって、凄い美味しい。
このイチゴもメロンも、おそらくとてつもない高級品なんだろう。
有名店の刻印の入っている羊羹や最中などの和菓子も、一口食べただけでそこら辺に売っているものとは明らかに違うと分かる。
何より、あんこに懐かしさを感じる。
・・・今更だけどこの世界のこの国にも和菓子ってあるんだなー。
転移した時からなんとなく分かっていたことではあるが、ここも和の国としての歴史があるみたいだ。
異世界に来ているはずなのに、ちょっと実家に帰ってきた感が出てきてしまった。
デザートに舌鼓を打ちつつ、今日はあまり会話できていなかった悠君とは自然にトレジャーハントの話になった。
「そういえば、2人はトレジャーハントは順調?」
「まあ悪くはないかな」
上位景品があまり取得できていないことを除けば順調だろう。
「あっ、そういえば」
紅茶を飲んでいた悠君が何か思い出したみたいだ。
「2人がいない間に刺島先生から連絡があったんだけど、寝る前までに景品を獲得した人のランキングが発表されるらしいよ」
「中間発表的なこと?そんなのエンジョイ目的のレクリエーションなのにランキングがあるんだね」
「まあ、何かと競争させたがるこの学校らしいな」
確かにレオの言う通りか。
この学校はやたらと競争させたがる癖がある。
『成長』を理念に掲げているとはいえ、その理念に忠実すぎるあまりことあるごとに順位付けをしたがる。
個人だけではなく、クラス単位でも順位付けもあるレベルだ。
ちなみに、この前の模擬魔法戦で優勝した10組は一応クラス順位が1位という扱いになっている。
この何事にも競争させようとする学校ということで、世間では批判的な目を持っている人も一定数いるらしい。
僕個人としては起伏の無い学校生活よりかは全然良いと思うけど。
「で、そのランキングの上位に入ると何か貰えんのか?」
何かあるとすぐ何か貰おうとするな。
レオらしいと言えばらしいけども。
「いや、景品は無いらしいよ」
「景品は、ってことは物じゃない何かが貰えるってこと?」
悠君が紅茶を飲み干し、こくりと頷いた。
「上位チームにランクインしたらクラスレートが上がるらしいよ」
「なんだ、クラスレートか。どうでもいいな」
レオは一気にどうでもよくなったみたいだ。
クラスレートは、クラス間通しの競争に使われているポイント制のレーティングシステムだ。
クラス全体で優秀な成績や実績を残すとポイントが手に入り、順位が上がっていくらしい。
一応、学年末で優秀な順位のクラスには何か貰えるという話もあるみたいだが、あくまで生徒間で噂されている程度の信憑性のない話しか出ていない。
というわけで、現状は何かメリットがあるわけでもないので、僕としてもあまり興味がない。
「でもクラスレートを上げようと頑張ってるクラスもあるらしいよ」
「へー、初耳だね」
そういえば、昼過ぎにあった山田君もクラスが一丸になってるとかなんとか言ってたっけ。
そんなに熱くなる要素がないと思っていたけど、もしかしたら興味が無いのは僕たちくらいで、他のクラスは盛り上がっていたりするのだろうか。
デザートを食べ終えたレオが立ち上がった。
「まっ、俺には関係ねえ話だな。やりてえ奴だけでやってればいい」
「・・・みんなが上位を狙い始めたら率先してやりそうだけどね」
「なんか言ったか?」
「いや、別に」
あたかもクラス行事には興味がないという体を取っているが、模擬魔法戦の試合前に円陣を組んじゃうくらいだ。
このツンデレ男はみんながやる気を出したら全力を出すに決まっている。
ニヤニヤしながら見ていたら、レオが嫌そうな顔をしている。
若干顔が赤くなっているのは、僕が考えていることを察したのだろう。
「あはは、お前ら仲いいねー」
突然、現れた声の主に、緊張が走った。
その姿を見て、レオの機嫌がはっきりと悪くなる。
「芦屋 宗悟か。何しに来た?」
「名前覚えててくれたん?嬉しいなー」
芦屋 宗悟。
6組所属。総合成績学年4位。
マンバンヘアに、耳にいくつも空いたピアスが嫌でも存在感を主張してくる。
軽薄そうな笑みを浮かべながら、空いている席に腰を落とし、なんの遠慮もせずにデザートを食べ始めた。
「もう一度聞く。何しに来た?」
「怖いってー。別に、ちょっと様子見に来ただけよー?」
飄々とした態度からは、レオに怯んだ様子は微塵も感じられない。
むしろ余裕すら感じさせられる。
「ウチのクラスはクラスレート一位を狙ってるから、今の一位のクラスがどのくらい気合入ってんのか気になって来たんよー」
「クラスレート一位ね・・・。さっきの話聞いてたんだろ?こっちはやる気ねえから、狙いたきゃ狙えばいいぜ。まあ、6組の戦力で取れるとは思えねえがな」
喧嘩腰のレオを見るに、どうやら芦屋君のことがあまり好きではないらしい。
お互いヤンキーみたいな見た目してるのに。
「ここまでやる気が無いと、簡単過ぎて張り合いが無いかもなー」
「なに?」
レオと芦屋君が睨み合う。
「話聞いたら、そっちの白雲君は今回トレジャーハントに参加せずに君たち二人で探索してるんでしょ?なら、力量差はあまりないってことよ」
そういえば、芦屋君は山田君と組んでいるんだっけ。
山田君がどのくらい強いのかは分からないが、凄い自身だ。
「ふん、本当にお前らがクラスレート1位を狙ってるかは知れねえが、クラス全体で見ても俺らのクラスに勝っているとは到底思えねえがな」
「それは模擬魔法戦の前の話だろ?今の6組には、切り札がいる」
そう言った芦屋君の眼に、微塵も揺れがない。
ここまでの2人のやり取りを見て、ふと疑問が湧き上がる。
芦屋君はなぜここまで好戦的なのだろうか。
今のこの行動に何か利益があるのかと考えてみても、あまり思いつかない。
まさかとは思うが、本当にクラスレート1位を狙っていて、こちらの様子を見に来たわけでもないだろう。
あまりにも掴みどころが無いので、何を考えているのか分からない。
レオと芦屋君は無言のまま睨み合っている。
そんな緊張した雰囲気は、もう一人の来訪者によって打ち砕かれた。
「宗悟。10組のロッジで何をしている?」
七三分けの髪型に四角い眼鏡。
同じく6組の所属の山田君が現れた。
するとさっきまでの勢いはどこにいったのか、芦屋君が動揺している。
「えっと、壱郎?ちょっと様子を見に来ただけよ?」
「なら何故睨み合っている?あまり騒ぎを起こすんじゃない!」
椅子に座っていた芦屋君は、山田君に耳を引っ張られ立ち上がった。
「いだだだだ!はい、すいません・・・」
山田君、このどう見てもヤンキーの芦屋君にここまで強く出れるのは普通に凄い。
「すまない、邪魔をしたな。宗悟、お前も謝れ」
「ごめんなさい!謝ったから耳を引っ張るのをやめて・・・」
緊迫した雰囲気は完全に霧散し、僕も力が抜けてしまった。
耳を引っ張られながら、2人は6組のロッジの方向へ消えていった。
うーん、見た目は怖いけど、やっぱり悪い人には見えないんだよなあ。
「何だったんだろうね、今の・・・」
「分からん。・・・はあ、俺は疲れたから風呂に行く」
結局、芦屋君が何しに来たのか全く分からないままその場は解散となった。




