夕ご飯
体調復活しましたー
10組のロッジに戻ると、すでにクラスメイト達はテーブルでカレーを食べていた。
ロッジでの食事場所は中と外で分かれているが、旅行気分を味わいたいためか、大半の生徒が外で食べていた。
スパイスが鼻腔をくすぐってきて、空腹感がさらに増す。
「あちこち走り回っていたからお腹がペコペコだよ」
「だな。早く取りに行こうぜ」
先ほどまでは景品のことしか考えていなかったレオも、漂う匂いに空腹が我慢できなくなったみたいだ。
足早にロッジ内にあるやや広めのキッチンの方に向かう。
食べ終わった食器を片付けている人がいるところを見ると、僕たちはだいぶ遅れていたみたいだ。
今日は午後過ぎのスタートから大分遠くの方まで足を運んでいたから、当然と言えば当然か。
カレーを美味しそうに頬張るクラスメイトを見ていると、つい駆け足になってしまう。
小走りで配膳場に着くと、そこにはギャルの埜上さんと、腐女子の佐野さんと、ちんまい叶野さんが割烹着姿でカレーを食べていた。
佐野さんは「見た目は」黒髪ロングで清楚な感じがあるから、和風な格好が似合っている。
叶野さんは・・・まあ、お母さんの手伝いをしている子供感が出ているけど似合っている。
しかし、見た目的には一番遠い存在のはずの埜上さんの割烹着姿が、何故か一番しっくりくるな。
茶髪で格好や喋り方なんかはギャルそのものなのに、なぜだろうか?
不意に、こちらに気付いた埜上さんが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「あ、いがちゃんおそーい。もう食缶からだよー」
「えっ、マジ!?」
「マジー。ほら見てみー」
配膳場に置いてあった食缶の蓋を開けると、わずかにこびり付いたカレーがあるだけで、底がはっきりと見えていた。
思わずレオと顔を見合わせると、引きつった顔に絶望を滲ませていた。
多分、僕も同じ表情をしていることだろう。
「終わった・・・明日もう動けないよ・・・」
そんな僕たちを見て、埜上さんはクスクスと笑っている。
「ほらー、せっかくあーしたちが腕に縒りをかけて作ったのに、いつまでもトレジャーハントから帰ってこないからー」
そういえば、事前に料理班を募集していたっけ。
空腹のみならず、JKの手作りカレーを食べ損ねることになるとは。
しょうがない、ちょっと恥ずかしいけど他のクラスで余ってないか見てくるしかないか。
レオとため息をついてキッチンから離れようとした時、叶野さんが困ったような声を上げた。
「あ、あの!お二人の分は取っておいてあるので、大丈夫ですよ・・・」
「え、本当?!」
ちょこちょことキッチンの奥に消えていった叶野さんがラップがかかったお皿を二つ、持ってきた。
もちろん、カレーがたっぷり入っていた。
「みんな沢山おかわりするから、お二人の分を取っておいたんです」
「あ、ありがとう!叶野さん!」
「え、えっと、お礼なら華ちゃんに言って下さい。最初に提案したのは華ちゃんなので・・・」
埜上さんの方を見ると、両手を腰に当てながらドヤ顔をしていた。
「いがちゃんもごんちゃんも、あーしに感謝しろし!」
「ありがとう!埜上さん!」
「ああ、助かったぜ!」
2人でお礼を言うと、ドヤ顔がさらにドヤ顔になっていく。
口角は極限まで上がり、目じりもどんどん下がっていく。
ちょっと褒めただけでこうなるのは逆に凄いかもしれない。
「いいよいいよー、もっと褒めていいよー!」
「埜上さん凄い!気遣いの天才!天使さんより天使!」
「ああー!いい!もっと褒めてー!」
こんどは胸も張ってドヤ顔を決めてきた。
埜上さん凄い!
何が凄いかは言わないけど、緩めのはずの割烹着を貫かんばかりに起伏がついてて、本当に凄いことになってる!
しかも褒めるたびに大きく頷くから、揺れも凄い!
僕の邪な視線に気づいたのか、叶野さんがあわあわと間に入ってきた。
その後も気にせず褒め倒したが、叶野さんの潤んだ瞳にじっと見つめられてやめた。
もう少し見ていたかった気もするが、あれ以上やっていたら普通に怒られていただろう。
レオがため息をついて僕の足を蹴ってきた。
「お前、流石に今のはキモいぞ・・・」
「いや、今のは見るでしょ、普通」
健全な男子高校生なら見る一択。
そこになんの躊躇いもないはず。
「はあ・・・とっとと飯食って、明日に備えるぞ。まだまだ景品は取り足りてないんだからな」
レオの中では色気<食気<お金なのだろう。
「・・・なんだよ、その目は」
「ごんちゃんは不健康だなって思っただけだよ」
「しばくぞてめえ」
先ほどよりも強めに蹴ってきた。
普通に痛いって。
まったく、ちょっとからかっただけで暴力とは、見た目通りヤンキーみたいだな。
やれやれといったジェスチャーをしたところで、佐野さんがスプーンを床に落とした。
カラカラと音を立てるスプーンを気にせず、こちらを凝視していた。
目は血走っており、呼吸も荒く、表情は恍惚としていた。
これは多分、僕とレオのやり取りを何故だか変な風に解釈をして、BLの妄想をしたのだろう。
いや、怖いって・・・
「ぐっ・・・!そんなにいちゃついて、私をどうするつもりなの?」
「どうもしないよ・・・」
いちゃついているように見えたのか。
どう考えても僕が一方的に暴力を振るわれていたようにしか見えないと思うんだけど。
見た目は普通に清楚な感じなのに、どうしてこう残念なのだろう。
「五十嵐君のお尻をそんなに攻めるなんて・・・!まだ人がたくさんいるのに・・・!嫉妬?嫉妬なの?華ちゃんに目を奪われた五十嵐君に嫉妬しているの?」
蹴られたのは足なんだけど、どうして尻になっているのだろうか。
しかも何故レオが嫉妬していることになっているのだろうか。
目と脳がおかしくなっている以外、辻褄が合わない。
「お、おいシュウ。こいつ大丈夫か・・・?」
「うん、大丈夫じゃないよ」
そういえばレオは佐野さんの本性を初めて見たのか。
普段は冷静なレオも、あまりの豹変っぷりに引きつった顔をしている。
「・・・佐野さんはいま冷静じゃないから、テントに戻って休んだ方がいいよ・・・」
「テ、テント・・・休む・・・!?テントで、何をする気なの・・・!!」
あ、ダメだ。もう思考が沼に沈んでいて引き上げることが出来ない。
手遅れだ。
カレーの乗ったトレイを手に取り、僕にできる全力の笑顔で叶野さんに向き合う。
「それじゃあカレーありがとう。叶野さん、後はよろしくね!」
「えっ!よろしくって言われても・・・」
くねくねと体を捩る佐野さんの周りをあたふたしている叶野さんに全てを押し付け、ロッジの外へと逃走した。




