トレジャーハント1日目-4
方針を決めてから数十分後。
トレッキングコースよりもやや悪い道のりを走り続けると、噴水広場を目視できる距離にたどり着いた。
遠目から、広場の端っこの方に白いキューブが置いてあるのを確認した。
「景品見っけ。やっぱりあったね」
「ああ、狙い通りだな」
この観光スポットはやや穴場ということだったが、噴水広場の周りは舗装されており想像よも綺麗だった。
夕日が沈む頃の時間帯が人気という話だったが、昼過ぎの今でも木漏れ日が差し込んでいて、その中心にある噴水から出る水に光が反射して幻想的な雰囲気を醸し出している。
トレジャーハント関係なしにここに来たかったと感じさせてくれる。
そんな噴水広場に着くと同時に、僕たちとは別ルートでたどり着いた人物と遭遇した。
「あれ?四津君だ」
「なんだ?もしかして、お前らもここを狙ってきたのか?」
四津 国光。
総合成績学年9位。
1組の生徒で、蒼天院 新君と同じクラスだ。
いつも被っている帽子の下には穏やかな目が隠れているが、勝負時には背筋がひやりとするほどの鋭い眼光を放つ。
模擬魔法戦の決勝では相手の立ち回りをギリギリのところで見切り、倒した相手だ。
彼との戦いで敗北していたら、決勝戦は敗戦濃厚だっただろうから、ある意味試合を決定付けた戦いでもある。
直接やり合った間柄ということもあり、他のクラスの中ではかなり親しくなった。
ちなみにいつも帽子を被っているのはハゲ隠しとの噂だ。
「二人でいるってことは、お前らはチームで動いてるってことか」
「そうだね。四津君はソロ?」
四津君が頷く。
「チームを組むのも考えたが、そこまで大量に景品が欲しい訳でもないし、小遣い稼ぎ程度ならソロでいいだろうってな」
どうやらそこまで本気で取り組んでいる訳ではないらしい。
とは言ったものの、風水広場に来たという事は上位景品を狙ってきたのだろう。
お互い狙いが被ってしまった。
「おいハゲ。悪いが先に見つけたのは俺たちだ。ここは譲ってもらうぜ」
レオ、開口一番で失礼すぎじゃないか?
「ハゲじゃねえ。この帽子はファッションだ。・・・今回のルールは早い者勝ちだろ?譲る必要性は感じないな」
位置関係的に四津君の方が近いし、ここは厳しいか。
「シュウ。お前の魔法発生速度ならあいつが景品を獲得する前に一撃与えられるだろ?やれ」
「レオ、流石に凶暴すぎるって・・・」
そもそも決闘システムを使う以外での戦闘は禁止されてるから。
そんなレオの様子に、四津君はやれやれといった感じだ。
「おいおい、そんなに荒ぶるなって。睦まやかに行こうぜ?ただの食券かもしれないだろ?」
確かに食券のような、下位景品かもしれない。
だが、傾向的に上位景品の確率が高いのも事実。
至って真剣な様子のレオを前にしても一切怯むことが無いのは、四津君の性格か、それとも実力の表れか。
結局、お互い打開策が無いままにらみ合いのような状態になってしまった。
僕としては早い者勝ちということで納得はしているが、レオは納得しないだろう。
お互い動かずにけん制し合っていると、やがて四津君が痺れを切らした。
「あー、分かった、分かったよ。なら取引だ」
「取引?具体的には?」
この状況で何か差し出せるものがあるのだろうか?
「この景品は俺が貰う代わりに、情報を渡そう」
情報と来たか。
レオが一瞬考える素振りをするが、あまり乗り気ではなさそうだ。
「内容によるが、フィールドの情報なんかは調べつくしているぜ」
少なくともこの碧水蒔ハイランドの情報は、事前に調べまくった僕たちよりあるとは思えないので対価にはなり得ない。
レオが納得するような情報はなかなかないはずだ。
だが、自信のある態度を崩さない。
「チームを組んでいるってことは、今日以降もトレジャーハントに参加するんだろう?ならほかのチームの情報はどうだ?」
「チームの情報?悪いがそれだと釣り合わねえな」
レオが即座に否定する。
確かにあった方が良い情報ではあるが、僕たちに匹敵するチームは6組の芦屋 山田ペアくらいだろう。
となると、それ以外のチームの情報を手に入れても利用価値があまりない。
しかし、それでも四津君は含みのある表情をしている。
レオが突っぱねるのは予想通りとでも言いた気だ。
「お前ら、来た方向からして森林エリアからスタートしたな?」
「それがどうした?」
「俺は河川エリアからスタートしたんだが、面白い奴らがいたぞ?」
「勿体ぶるな。何が言いたい?」
「それはこっちが安全に景品を手に入れてからだな。考えてもみろ。本来なら交渉なんてせずに掻っ攫ってもいいんだが、こんな景品一つで蟠りを残すのも嫌だからこうして話してるんじゃねえか。乗ってくれてもいいんじゃないの?」
飄々と話す姿勢にレオがイライラし始めた。
そんな様子を気にする素振りも見せずに、笑みを浮かべている。
これは、僕たちの予想外の出来事が起こっているのか。
それともただのブラフか。
ここまで引っ張っるということは、余程良い情報を握っているということだろうか?
聞いてもいい気がする。
というか順当に行けば四津君が手に入れる景品だと思ってるし。
とりあえずレオを宥めておくか。
「レオ。四津君の言うとおりだよ。そもそも向こうが有利な位置だし、情報だけでも貰っておいた方がいいでしょ?」
「あーあー。分かったよ!下らない情報だったら張っ倒すからな!」
「賢明な奴は好きだぜ」
四津君がキューブにデバイスを近づけ、景品を獲得した。
「3000円金券か。お前らなんとなく中身が分かってたな?」
「そこはノーコメントで」
その情報は教えられないな。
四津君がやる気を出したら、この先の取り分に影響があるかもしれないからね。
「さて、情報とやらを聞かせて貰おうか」
痺れを切らしたレオが四津君を急かす
景品を獲得して満足そうな四津君が、こちらに向き直る。
帽子の影から見える眼光は鋭い。
「さっきも言ったが、俺は河川エリアからスタートしたんだ。スタートダッシュで簡単な景品を狙おうと思ってな」
「僕たちと同じだね」
四津君もなかなか目ざとい。
河川エリアは探索が容易で景品の取り合いが予想されていたが、他のエリアよりは人が少ないはずなので、スタート位置としては悪くない。
事実、僕たちのスタート位置の候補には入っていた。
「同じくスタートダッシュを狙っていた奴と狙った景品がかち合ってな。残念ながら競り負けたんだが、その時にそいつのデバイスが見えたんだ。正確には、景品獲得画面だな」
嫌な予感がする。
この取引はチームの情報を担保にされている。
つまり、景品獲得画面からチーム情報を得たということになる。
当たり前だが、景品を獲得した際はその景品の情報しか表示されない。
が、チームの情報が得られる場合が一つだけ存在する。
「そいつの画面には『10円分の食券』が加算されていたんだ」
「『10円分の食券』?・・・っ、なんだと?!」
当たり前だが、『10円分の食券』という景品は存在しない。
そんな景品貰ってもいらないだろう。
今回のトレジャーハントでは『300円分の食券』が景品として用意されている。
つまり、デバイスのある機能を使ったことになる。
「『景品分配』機能・・・!?」
「正解だ。1年の全体の人数は300人。その10分の1が参加する30人の連合が組まれているみたいだな」
日が傾いてきて、噴水広場には赤い光が満ちてきた。
夕日が幻想的で人気なはずの観光スポットから、何か得体の知れない気配を感じた気がした。




