魔法を体験してみた
おやすみ
魔法を試してみようと思ったが、そもそもどうやったら使えるのかわからず、掃除をしていた萌生さんに相談したところ手伝ってもらえることになった。
萌生さん、本当にいい人だ。
「隣の公園なら十分なスペースを確保できるので、そっちに移動しましょう」
当たり前だが、魔法は人に向けて撃ってはいけないらしいので、使用には十分なスペースが求められるらしい。
公園かなり広く、元気に遊ぶ子供たちや派手な服をきたマダムたちが談笑をしていたりと、そこそこ人で賑わっていた。
そんな日常感あふれる光景の隅っこで魔法の練習を始めた。
「魔法には適性があるので、まずはそれを調べましょう。もし火の魔法が発現したら危ないので、注意してくださいね」
「よろしくお願いします!」
すると萌生さんが腕輪のようなものを付け始めた。
幅が2センチくらいで少しメカっぽさがあり、おしゃれ目的で付けるようなものではなさそうだ。
「これはなんですか?」
「これは魔素変換のデバイスです。魔素を魔法に変換するときに使うんですよ」
この世界の魔法は機械の補助が必要らしい。
科学技術の発展の末偶然見つかったものらしいから、そういう機器もあるのかと納得した。
萌生が右手を前に出す体制で構える
「まずは私がお手本を見せますね。デバイスを起動して・・・えい!」
大家さんの何もない手元から突然水が出てきた。
見た目としてはホースを全開にしたくらいの勢いだ。
「おおー!これが魔法なんですね!」
「こう見えて結構得意なんですよー」
萌生さんが指先を回すと、水も一緒にくるくる回った。
「最初はじょうろくらいの水しか出せなかったんですけど、今ではシャワーくらいまで出せるようになったんですよー。洗い物もピカピカです!」
こんなにできても使い道は節水目的らしい。
萌生さんが手をパッと開くと、先程空中にクルクル回っていた水が地面に落ちた。
「ここまで使えるようになるには練習が必要ですけど、慣れれば簡単ですよ」
萌生さんが自身のデバイスを取り外し、こちらに手渡してきた。
「それでは、着けてみてください」
続いて待ちに待った魔法の体験である。
デバイスを受け取り、手首につける。
「このデバイスを付けてスイッチを入れると空気中にある魔素を感じることができます」
「魔素を感じる?」
「口では説明しにくいですから、実際にスイッチを入れてみてください」
言われた通り、デバイスを起動する。
すると、今まで何もなかったはずの空間に大量に存在する何かを感じた。
今まで一度も感じたことのない感覚に思わず声を上げてしまった。
「うわ!?なんだこれ!?」
人間に備わっている五感で感じる全てとは違う何かを感じとっている。
「その感覚でのみ捉えられるものが魔素です」
エネルギーの塊とでもいえばいいのだろうか?
デバイスを操作するまでは何も感じられなかった存在がある。
「今、五十嵐さんが感じている魔素を引き寄せるイメージを持ってください。最初は上手くできないと思いますが、何度か試してみればできるようになるはずです」
「引き寄せるイメージ・・・。むむむ・・・こい!」
集中をして感覚で魔素を引き寄せるイメージをする。
突然、目の前で水が弾け横にいた萌生さんが水浸しになってしまった。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、どうやら僕は水魔法を発現させたらしい。
「ううう、びしょびしょです・・・」
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
思っていたよりもたくさん水が出てきたみたいで、萌生さんが驚いて尻餅をついてしまっていた。
手を握って起こしてあげる。
服が濡れ体に張り付き、少し際どい格好になってしまった。
「濡れただけなので大丈夫です・・・でもなんかこの水、変ですね・・・」
「変?」
萌生さんが濡れた両手を擦っている。
「なんか、ぬるぬるしますね・・・」
「ぬるぬる?」
試しに触れてみると、確かにぬるぬるした。
粘度が高いというか、石鹸水のような滑り気を感じる。
「水魔法がぬるぬるするってことあるんですか?」
「どうでしょう?少なくとも私は聞いたことがないですね」
萌生さんでも知らないとなるとこの場では何とも言えないな。
まあ魔素は未知の存在らしいし、何が起こっても不思議じゃないか。
スマホで調べようかと考えていたその時、視界の端にいたマダムたちがこちらを見て話していたことに気付いた。
何か、まずいものを見たような表情をしている。
「んまー!奥さん、あの男の子あんな小さい女の子をぬるぬるにしてますわよ!」
「っんまー!最近の子はなんてふしだらなんでしょ!」
(なんか誤解されてる!?)
マダムたちが大きな声で喋るので周りの子供たちもこっちに興味を惹かれてしまっている。
(僕はグラマーな女性が好みなのに!って、そこじゃない!早く誤解を解かなくては)
訂正するために慌てて声を上げる。
「違います!これは練習で!」
「んまー!女の子をぬるぬるにする練習なんてハレンチですわ!」
「っんまー!ぬわぁんてハレンチなんでしょ!」
あ、これは話が通じないパターンだ。
「んまー!ポリスを呼んだ方が良いのではないのかしら?」
「いやいや待ってください!話を・・・」
その間にもマダムたちのボルテージが上がっていく。
「こんな白昼堂々のハレンチはワタクシが許しませんこと!」
「いやだから魔法の練習だってー!!!」
叫び声がむなしく公園に響いた。