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トレジャーハント1日目-1

「予想通り、かなり人数が少ないみたいだね」


今回のレクリエーションは4つのスタート地点が設けられていて、それぞれテーマパーク、河川、高原、森林エリアへ分かれている。

競合相手が少ないと予想した森林エリアの方向を目指す人は僕たちを含めて十数人しかいない。

僕たちは模擬魔法戦で顔が割れているので、こちらの様子を伺うような声が聞こえる。


「あいつら、模擬魔法戦の優勝チームのやつじゃねえか?」

「みたいだな。あそこの金髪の金剛(こんごう)ってやつは3メートルの大岩を生成出来るレベルだ」

「マジかよ!?クソ、穴場だと思ったのに。スタート位置を変えるか?」


大分警戒されちゃってるけど、でもそれくらいの方がかえってやりやすいのか?

スタート位置を変える為に去っていく人まで出てきちゃってるし。


「となりの奴は五十嵐(いがらし)ってやつだな」


どうやら僕も見つかっちゃったみたいだ。


「模擬魔法戦の決勝で敵の大将を仕留めたやつだ」

「知ってるぜ。相当な実力者だ」


いやー、人気者は目立っちゃうなー。


「なんでも目にも止まらぬ早業で女子生徒や女教師をぬるぬるにするらしい」

「コラそこ、ちょっと待て」


他のクラスにはまだねつ造された噂が健在らしい。

話の渦中にいた人間に声を掛けられひそひそ話をしていたやつらが驚いた顔をしている。


「それはねつ造の噂だ!断固否定させてもらう!!!」

「そ、そうなのか?」

「そうなの!!!」


僕の勢いに押された一般生徒はコクコクと頷き足早に去っていった。

これでまた一つ僕の悪い噂が消えたことだろう。

ねつ造した噂を面白半分で広めた張本人が隣でクスクスと笑っている。


「くっくっく、お前の噂、まだ残ってたのかよ」

「まるで自分が関係ないような言い草だなあ!いまここでペア解消してもいいんだぞ?」


レオの胸倉を掴む。


「悪い悪い。まさかここまで噂が残るとは思わなかったよ」

「言葉で人間は死ぬことがあるんだぞ!」


きっとこういうやつが無自覚ないじめとかするんだろうなあ!

僕のメンタルが弱かったら塞ぎこんでいた可能性だってあるのにこの男は!

まあ一応謝っているし、クラス内ではもう何事もないし、寛大な心で許してやろう。

掴んでいた胸倉を放してやった。


他のクラスに残ってしまっている僕の噂をどうしようか考えていたら、全速力で走ってくる女子生徒に気付いた。

あの長身で黒髪ロングのぱっと見は清楚に見える女の子は・・・。


「あれ、同じクラスの佐野(さの)さんだよね?」

「みたいだな」


男同士のBLを妄想する要注意人物である。

そんな彼女が肩で息をしながら僕たちの前に立ち止まる。


五十嵐(いがらし)君!やっぱり本命は白雲(はくうん)君じゃなくて金剛(こんごう)君だったんだね!」

「いきなり何を言ってるの?」


やっぱりってなんだよ。

佐野(さの)さんはこの心洗われるような大自然の中でも腐りきっているみたいだ。

きっと手遅れなんだろう。


「誤魔化さなくていいから!さっきまで金剛(こんごう)君のシャツを引っ張って体を寄せ合って・・・キャー!」


キャーじゃないが。

喧嘩寸前の様相がなぜそう見えてしまっているのか。

顔を真っ赤にさせて身を()じる様は、状況によっては艶麗(えんれい)だっただろう。


「おいシュウ、こいつは一体何なんだ?」

佐野(さの)さんはちょっと頭が腐ってしまってるんだ」


レオも引いている。

見た目は割と清楚な感じなのに、どうしてこうなってしまっているのか。

もはや走って来たからハアハアしているのか、BLの妄想でハアハアしているのか分からない。


「それにしても佐野(さの)さん、どうして走ってきたの?」


流石に僕とレオの姿を見つけて妄想が捗っただけだとは信じたくない。

息を整えた佐野(さの)さんが正気を取り戻し話し始めた。


「実は私もトレジャーハントに参加しようと思ったんだけど、高原とテーマパークは人が多すぎてこっちに来たの」

「そんなに多かったの?」

「うん。この二つだけで200人以上はいたんじゃないかな?」


大分偏ったみたいだ。

テーマパークの方は純粋に楽しむ人もいるとは思うけど、それにしても凄い数だ。

そんな中、全力で森林コースに来た叶野(かのう)さんは何か欲しいのだろうかと考えていたら、向こうから口を開いてきた。


「夏に向けてどうしても資金が欲しくてねー、今回のトレジャーハントはしっかり稼ぎたいの」


そういえば佐野(さの)さんは模擬魔法戦でも食券を賭けていたから、夏に何か要り様なのだろうか?


「今年は回りたいサークルが多くてねー。いくらお金があっても足りないよ」


夏。サークル。腐っている佐野(さの)さん。

以上から導き出される答えとして、どうやらこの世界にもコミケ的なものがあるらしい。


「有名サークルに、期待の新星の薄い本まで・・・ぐふふ」

「一応言っておくけど、僕たち高校生だからね?」


しちゃダメな笑い方をしている佐野(さの)さんに、おそらく無駄だろうが注意をしておいた。

やや暴走気味の佐野(さの)さんと話し込んでいると、1組の担任の松岡(まつおか)先生がスタート地点の前に現れた。

猫背にやや伸びた髭が、やる気のなさを前面に出している。

まだ30代前半くらいなのに、細身の長身も相まって不健康さが感じられてしまう。


「おーし、集まっているやつらはこっちこい」


覇気の全く感じられない松岡(まつおか)先生の声でみんな集まった。


「・・・14人か。思ったより少ないな。稼ぎたいなら森林コース一択だと予想している奴が多いと思ったんだが、現代っ子は森の中に入りたくないのかね」


ぶつぶつ言いながら手元のタブレット端末で何かを操作している。

やがてこちらに向き直り説明を始めた。


「まずはお前らが気になっている景品の獲得方法だ。まずはこれを見ろ」


先生の手元には10㎝四方くらいの白いキューブがあった。


「このキューブが一番簡単な景品だ。このキューブとお前らの手首のデバイスが近づくと自動的に景品が獲得されることになる。五十嵐(いがらし)、デバイスを見てみろ」


先生が僕のデバイスにキューブを近づけると、デバイスが振動し『食券1枚』と表示された。

キューブを見つけられればほぼ景品を獲得できるだろうし、とても簡単だ。

先生がタブレット端末を操作すると、先ほど加算された食券が無くなっていた。

あのタブレット端末で先生たちは色々できるらしい。


「あとはミッションタイプだ。特定の地点に到達するとデバイスが振動して画面にミッションが表示される。その状態でミッションをクリアすれば景品が獲得できる。ミッションの内容は教えられないが、色々あるとだけ言っておく」


どうやら自分の目で確認しろということらしい。


「注意事項だが森林コース内では火魔法は基本禁止だ。特例で燃やさない程の魔法練度がある奴は使ってもいいが、注意してくれ」


魔法で発生した火は物を燃やさないようにコントロールすることも出来る。

だけど1年生でそのレベルに達している人はいないと思ってるんだけど、特例を説明したってことはいるのだろうか?


「金や、テストの点数に、目が眩んでケガなんかするなよ?」


金と言った時にはレオを、テストの点数と言った時には明確に僕の方を見てきた。

・・・生徒のことをよくわかってらっしゃる。

ちなみに松岡(まつおか)先生は社会科を担当しているので、僕の壊滅的な知識の無さはしっかり把握している。

説明を終えた先生が、腕時計をじっと確認している。

開始時間が目前に迫っているのだろう。

不意に顔を上げると、相変わらずやる気のない声で開始の合図を出した。


「時間だな。これよりレクリエーションである『トレジャーハント』を開始する。せいぜい楽しんでこい」


先生の合図の瞬間にレオが走り出し、森の中に消えていった。

突然のスタートダッシュに驚いた他生徒を尻目に、僕もレオに続いた。

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