お昼前
「これは、凄えな」
10組のキャンプ場にたどり着くとレオが思わず立ち止まり、ポツリと感想を漏らした。
「普通に泊まると1泊3万円って聞いたときは高すぎって思ったけど、これは納得だね」
グランピング場は語源である豪華なキャンピングという名に相応しい設備の数々だった。
僕たちがこれから過ごすテントは超大型で男子15人が入ってもスペースは余裕があるくらい広い。
天井部分が透明なフィルムに覆われており、寝るときに空が見えるようになっているので、夜空を満喫しながら眠りにつくことが出来る。
さらにふっかふかの寝具も用意されていた。
その周辺には川が流れていて、川辺には木製の椅子と机が並んでおり、ゆったりと過ごすことが出来そうだ。
テントに併設するようにコテージが建っており、中を除くとこれからバーベキューで最高級の食材がテーブルにならんでいた。
碧水蒔財閥が運営する施設なので、お金を払わずにフルのサービスを受けられるのは嬉しい限りだ。
あまりの豪華さにトレジャーハントに参加するの辞めてここでみんなと遊ぼうかなと思ったが、その先には補修という名の地獄しか待っていないのを思い出し諦めた。
荷物をテントに置き、外に出ると刺島先生が白いシャツに黒のチノパンという夏使用の格好で生徒の集合を待っていた。
刺島先生の私腹を見るのは初めてだが、なんというかシンプルさが先生らしいな。
あまり長い間見ていたわけでもなかったけど、先生が気付いてこっちに来た。
「っん!五十嵐か・・・。私の格好が何か変だろうか?」
「えっ?!いえ、よく似合ってますよ!」
「そっ、そうか・・・ありがとう・・・」
保健室の艶めかしい出来事は闇に葬る事ができたが、何かの拍子に思い出したら僕の学校生活が危ういのでどうしても受け答えに慎重になってしまう。
生徒に褒められてもそんなに嬉しくはないだろうが、特段機嫌が悪くなった様子もないので良し!
なんか先生の顔が赤い気がするが、気のせいだろう。
まだみんなテントの中にいるので、なんとなく先生と雑談することにした。
「そういえば、レクリエーションには参加するのか?」
「はい、そのつもりです」
「そうか。今回のレクリエーションは難易度が高いが、模擬魔法戦で活躍したお前なら良い成績を残せると期待しているぞ」
「ありがとうございます」
刺島先生は普段は厳しく苦手と思っている生徒も結構いる。
だけど模擬魔法戦の時も今みたいに応援してくれるような、生徒思いな一面があるので僕は結構好きな先生の一人だ。
そんなこんなで話をしていると、気が付いたら10組の面々がほぼ揃っていたので、自分の班員のレオ、悠君、影下君と合流した。
ちなみに班分けはされているが、基本的に個々の自由行動なのであまり意味を成していない。
悠君も影下君もレクリエーションには参加しない予定だ。
間もなくテントに残っていたクラスメイトが出てきて刺島先生が号令をかける。
「全員集まったな。それでは林間学校を始める前に説明事項がある」
すると先生が魔素変換デバイスを配り始めた。
魔素変換デバイスは魔法を使用するために必要なものだが、普段使っている物とやや形状が違った。
具体的に言うと普通の物はただのリング状の腕輪だが、今回配られたものはスマホの半分くらいの大きさの画面がついている。
「機能の説明をさせてもらう。まずはGPS機能。この高原は広く森林地帯もある。あまり深いところまで行き過ぎると遭難する可能性があるため、必ず装着してもらう」
操作すると、自身の居場所が赤い点で地図上に表示された。
確かにトレジャーハントに夢中であらぬ場所に行くやつが現れそうなので必要だな。
「次にトレジャーハントの景品データを受け取る機能だ。トレジャーハントで宝を見つけるか特定の課題をクリアするとそのデバイスに景品が加算される。後日学校で景品の交換を行う予定だ」
流石に物理的に1000を超える食券や金券を高原に隠すのは非現実的だから、データでのやり取りか。
「ちなみに今年の1年は非常に優秀な魔法使いが多いから、難易度は高めに設定されている。運だけでなく知恵も使ってレクリエーションに臨むように。以上だ。何か質問は?」
すかさずレオが手を上げる。
「結局課題の内容が分からないんだが、そこら辺の説明は無いのか?」
確かに、この後のバーベキューの後に自由時間になり、そのままレクリエーションが始まるのに、いまだにどんなことをやるのか具体的な説明が無い。
「トレジャーハントが開始後に、デバイスに案内が流れる。具体的な課題の内容だが、特定のエリアに近づくとデバイスに課題の告知が発生するようになっている。エリアは各々で探すルールになっている」
レオが苛立たしそうに手を下ろす。
レオのことだから昼ご飯を抜け出して優位に事を運ぶつもりだったな。
「さて、他に質問は無いか?無いならコテージに集まってくれ」
コテージという事は、いよいよバーベキューか。
最高級の食材でのバーベキューがあると分かっていたから丸一日食べておらず腹ペコだ。
こんな時くらいしか高級食材にありつけないだろうからと無駄に気合を入れてきてしまった。
ふと横を見ると、げっそりとした猿堂、雉瀬、犬塚の3バカが歩いていた。
いつもふざけている元気が無い。
「この猿堂、バーベキューの為に一昨日の昼から何も食べてないぜ・・・」
「奇遇だな・・・。俺も丸二日食ってねえ」
「最高級の食材なんざ、こんな時でしか食えねえからな・・・」
・・・あれ、僕の思考回路、この3バカと同じレベルなのか?
「相変わらずバカだなあいつら。腹空かしてきても食える量はそんなに変わらねえだろ」
「・・・全くだね。ほんっとうに僕もそう思うよ!」
「・・・なんか、言い方強くねえか?」
「気のせいだよ」
自分のことは棚に上げてレオに完全同意する。
あいつらは二日で、僕は一日だったから同じレベルじゃないと心の中で言い訳をしてバーベキューに向かった。




