ハイランド
放課後。
アパートに戻ると、レオと林間学校のレクリエーションについて会議をすることになった。
ご飯の前に僕の部屋に集まった。
ちなみに部屋には僕とレオ以外にも、大家である萌生さんが台所で鼻歌を歌いながら料理をしている。
「親戚からお野菜をたくさん頂いたのでもしよければどうですか」という問いに、野菜をもらうつもりで「はい」と答えたら、台所でご飯を作ってくれている。
まさか作ってくれるとは思わず驚いたが、お弁当もほぼ毎日作ってもらっているし、今更だなと思いご厚意に甘えることにした。
萌生さんの面倒見の良さは天井知らずのようだ。
甘えすぎてダメ人間になってしまうのではないだろうか。
和食の匂いが部屋に広まっていく中、ちゃぶ台を挟みレオと話をする。
「会議するのは良いんだけど、レクリエーションの情報ってあるの?」
林間学校にはまだ1ヵ月以上ある。
おそらく先生が朝礼で言った以上の情報はまだ解禁されていないと思うけど。
レオが軽く頷き持参していた鞄を漁る。
「レクリエーションの情報はねえ。だが、宿泊先の情報は違う」
そう言うとレオはノートパソコンを取り出し、ホームページを見せてきた。
『碧水蒔ハイランドへようこそ』とポップな字体で書かれていた。
レオに促されるようにノートパソコンを確認するが、碧水蒔ハイランドの情報より先にとある生物が目に飛び込んできた。
「え、なにこの生物・・・」
おそらく、子供受け狙ったのだろう。
カルガモをモチーフにしたと思われる青い顔をしたキャラクターがページの至る所に描かれている。
しかし、このキャラクターは目の焦点が定まっていなかったり、首があらぬ方向に向いていたりと見ていて不安になるデザインだ。
ホラーゲームに出てくると言われた方が納得いくレベルだし、明るい雰囲気のホームページとのミスマッチ感がより一層不安感を駆り立てる。
・・・これ、子供のトラウマになるんじゃないか?
なぜこのようなクリーチャーをマスコットにしているのかは甚だ疑問だが、一旦置いて話を進めよう。
「ここが僕たちが林間学校で行く高原なの?」
「そうだ。ここの情報を集めればなにか手がかりがあるかもしれねえ」
確かに、これから行く場所の情報があればレクリエーションの時に優位に事を運べるかもしれない。
レオを一緒にページを確認する。
レオは全く気にしていない雰囲気だけど、正直気になってしょうがない。
碧水蒔ハイランドはその名の通り高原に存在するリゾート施設で、100万ヘクタールを超え国内では最大級。
僕たちのようにグランピングをしにくる人たちだけでなく、普通のホテルもあり様々な層に人気のある施設らしい。きっと僕たちが泊まるときも旅行者があふれているのだろう。
大半が木々に覆われていて、川や渓谷でのハイキングの様子は見ているだけで気持ち良さが伝わってくる。
また遊園地も併設されている。
普通の遊園地とは違い、自然が豊富で実際に流れている川や地形を利用したアトラクションが人気らしい。
渓谷を走るジェットコースターや高原を一望できる観覧車など見ているだけでワクワクしてくる。
正直、レクリエーションでテストの点数を集めることよりも遊びたい気持ちが出てきてしまうくらいに魅力的な施設だった。
みんなと全力で遊びたいくらいだが、補修を回避するために気持ちを鎮める。
しかし、あまり収穫がないな。
「うーん、なんかあんまり得る物がないねー」
「だな。事前に知っていた知識が大半だし、事前に施設のマップを頭に入れるくらいしかやることがなさそうだな。別のアプローチを考えるか」
ちょっと諦め気味のレオからノートパソコンを使わせてもらう。
アクセス手段、スタッフ募集、会社案内など何もないだろうと思いつつ確認していく。
営業日程のところを見たところで、少し気になるものを見つけた。
「あれ?僕たちの旅行日って一般のお客さんが入れないみたいだよ」
「なに?」
レオが画面を食い入るように見る。
「『施設のメンテナンスを行うため、以下の日にちは全施設を閉鎖致します』・・・確かに俺たちが行く日付だな」
「これって嘘だよね。だって僕たちが行ったらメンテナンスできないよね」
メンテナンスの日付にわざわざ林間学校をする理由もないだろうし、表向きは閉鎖にしているという可能性が高いだろう。
僕たちはあくまで林間学校ということで碧水蒔ハイランドに行く予定だ。
1学年で300人程度だから、わざわざこの広さの施設を閉鎖する必要はないはず。
となると、考えられる可能性として高いのは・・・
「この100万ヘクタール全部使って林間学校をするってことになるのかな」
「普通ならそんなことしないだろって思うが、この高校だしあり得るな」
普通の学校ならあり得ないが、碧水蒔高校ならあり得る。
ただの学校にドーム球場レベルの演習場を何個も建てる学校だ。
リゾート施設を学校のイベントごときですべて使う可能性は大いにある。
「最初はグランピング場周辺を使って魔法試験のような課題をこなすレクリエーションだと思っていたが、全体を使うとなると規模が変わってくるな。なるほど、見えてきたぜ」
レオは今回のレクリエーションが何をするのか、見当が付き始めたらしい。
100万ヘクタールという巨大な土地を使い、その中の森や川がある高原を歩き回るとなると、もはや冒険だろう。
僕もなんとなく予想が出来てきた。
「これ、宝探しみたいなことやりそうだよね」
「同感だ。これなら一般の人間を入れない理由も分かるな」
学校の目的はあくまで魔法の力を生徒につけてもらい、魔法技術の発展を目指している。
もちろん課題は魔法を使用して行うことになるだろう。
仮に魔法を使用した宝探しを至る所で行うとなると、一般人に危害が及ぶ可能性が発生するから閉鎖するのも頷ける。
「確定ではないけど、今のところは宝探しと仮定して対策を立てたほうが良いかな」
「だな。そうなると重要なのはフィールドの把握になってくるな」
そこまで話したところで、萌生さんが料理を作り終わりちゃぶ台に持ってきた。
「今日は鮮度抜群の肉野菜炒めと、具だくさんのお味噌汁と、お浸しとお漬物ですよー♪」
萌生さんが持ってきた料理に空腹を思い出した。
レオもご飯に意識が行っているみたいだから、話し合いはこれまでかな。
レオがしまおうとしたノートパソコンを見て、萌生さんが弾んだ声を上げた。
「『ガモッピー』じゃないですかー♪私大好きなんですよねー」
もしかして、画面に写っているクリーチャーを見て大好きと言ったのだろうか。
いや、きっと別のキャラクターがいてそれを見つけたのだろう。
こんな子供のトラウマみたいな生き物を好きになるやつなんているわけない。
「見てください!ガモッピーのキーホルダーたくさん持ってるんですよー」
「・・・え」
萌生さんのポケットから色とりどりのクリーチャーが出てきた。
め、萌生さん、趣味が悪すぎるよ。
本人には言えないが、ちょっと引いてしまった。
何も言えずにいると、レオが口を開いた。
「女ってガモッピー好きっすよねー。おふくろと妹も集めてましたよ」
「ゆるキャラの人気投票で3回目の1位を取って殿堂入りまでしちゃいましたからねー」
「ええ・・・」
このどこを見ているのか分からないクリーチャーが不動の1位という事実に声が出なくなってしまった。
どうやらこの世界でこのクリーチャーはゆるくて女の子に人気のあるれっきとしたキャラクターらしい。
この世界に魔法があった事よりも衝撃を受けた僕は、この日が一番異、世界に来たと実感した一日になった。




